**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第844回配信分2020年06月29日発行 特別シリーズ:新型コロナウィルス感染パンデミック対策その16 今回の緊急融資は「永久資本性劣後ローン」に 〜続けるなら融資は資本の増強に〜 **************************************************** <はじめに> ・先日某社の代表者と某金融機関に今回話題になっているコロナ緊急融資の相 談に出かけた。この企業は、足元の業績が3月くらいから徐々に低下し、いよ いよ5月、6月はどん底に落ち込んだ。それでも昨年からの努力の結果、今日 明日の資金繰りに窮しているわけではない。しかし、この落ち込みがいつまで 続くかわからない。出口の見えないトンネルに入り、手探りで灯りもないなか でも企業経営は、さぞかし不安だらけだ。なので、今すぐの融資は必要ない が、安心、安全のために某金融機関の担当者や上席者といまから協議しておい たほうがいいという判断のもと、協議に出向いた。 ・金融機関側も、まだまだ融資の申込が殺到していて、処理しさばくのに大変 な状況だ。それに輪をかけて悪いことに、融資の設定が当初3,000万円となっ ていたのが、第二次補正予算で1,000万円増額になった。この手続きの変更作 業が面倒で、もう一度やり直しもあるようだ。また、京都府、京都市の手続き の手順が決まっていないので、まだ実務がスタートできない。法治国家である 日本なので、とにかく中国みたいにどうでもいいからまずやってみるという考 えは全くない。きちんとやり方、手順を決めて、その通りに運ばないといけな い。それでも、今回の10万円の給付のようにマイナンバーで混乱したりする。 ・協議の結果、もう少し様子を見て8月くらいに見通しがおおよそ見えてきた 段階でどうするか決めようということになった。今日明日の資金繰りの相談で はなかったので、こちらの現状を説明し理解を得てもらうにとどめた。これ が、月末の資金繰りがピンチというなら、こんなのんびりした会話では済まな い。緊張感が漂い、一日でも早く資金調達をしないと最悪の結果になる可能性 があるのなら、こんな悠長なことでは済まない。幸い、この企業は当面6か月 くらいの運転資金は十分ある。しかし、その後は全く霧の彼方だ。こういう状 況のときの経営者の方の不安は大きい。しかし、今回の緊急融資は有難い。 <緊急融資はいつ返せるか分からない> ・なにせ無担保無保証無利息でおカネを借りることができる。しかし、某金融 機関の上席の方からは、「借りたおカネは返してもらわないといけないので」 という当然のコメントが発せられた。金融機関側からしてみれば、至極当然の 理屈なのだが、借りる側との意識の差は歴然だ。こちらは蒸発した需要、収 入、売上の穴埋めで借りるのだ。この蒸発した需要、売上は挽回できないの だ。いくら逆立ちしても、この蒸発したおカネが戻ってくることはない。流れ た宴会が秋にあるとは思えない。結婚式は延期もあるだろうが、3月末の送別 会を10月にやることはない。春に売れる洋服が9月に売れるわけではない。 ・5月に流れた修学旅行が、100%全部秋に戻ってくるとは思えない。しか し、金融機関側の立場からすれば、今回は「緊急」という枕詞はついてはいる が、あくまでも「貸付」「融資」なのだ。「融資」の反対語は「返済」。「融 資」と「返済」は一対でセットの言葉だ。だから、3年後か5年後かはわから ないが、とにかく返してもらわないといけないおカネですよと、くぎをさされ た。言われなくても分かってはいるが、少々気分が悪い。返せるものなら、そ れこそ利息をつけてでも返したい。しかし、現状では返せる自信もなければ、 いつから返せるとも想像つかない。それくらい、今回のコロナショックの影響 は大きい。 ・自信がないのに、いつから返しますと断言はできない。なので、以前から提 唱しているが今回の緊急融資は「永久劣後ローン」にするべきだと思ってい る。「永久」で「劣後」なのだ。「劣後ローン」とはあらゆる債権の最後に位 置づけされる債権だ。仮に企業が清算しないといけない段階になったら、この 融資が「劣後ローン」だったら最後の最後に清算される債権になる。通常は、 最後の最後なら、ほとんど清算できる資産は残っていないのが普通だ。となる と、戻ってくるという確率は極めて低い。ほとんど、資本金扱いと同じだ。な ので、このような性格を持っているので、「資本性劣後ローン」と位置づけさ れる。 <継続の意思があれば永久劣後に> ・つまり、このような「劣後ローン」は資本金と同じとみなしてもいい。資本 金は企業が清算される際には、最後の最後の清算のために使われる。今回の緊 急融資を「資本性劣後ローン」と位置付けると、このおカネは資本金と同じと みなして、自己資本金が増額になる。融資をしてもらったが、実質的に増資を したのと同じ扱いになる。貸借対照表では借入金だが、実際には資本金と同じ だ。こう解釈すると、財務内容は格段に良くなる。みなしの自己資本比率が高 まり、債務超過が解消する企業も多くなる。そうなると、さらに運転資金の追 加融資を受けることが可能になる場合がある。蒸発した穴埋めの融資が、増資 に化ける。 ・そうとでもしないと、今回蒸発した受注や売り上げは戻ってこない。戻って くる企業もあるだろうが、それはごく一部の企業だろう。大半の企業は、失っ た受注や売上は戻ってこない。ならば、今回穴埋めのための緊急融資は、「資 本性劣後ローン」にするべきだろうし、それも「永久」と注釈をつけるべきだ ろう。企業が継続する限り、「永久的な資本的な性格の劣後ローン」にすれば いい。とにかく、何が何でも継続して、企業を存続させ、次世代後継者に連綿 と企業経営を継続する意思のある企業は、今回の緊急融資は「永久資本性劣後 ローン」に位置付けるべきだ。公的機関からの融資や、一部の大企業ではすで にこの取り扱いが始まっている。 ・継続する意思が明確な中小企業にも拡大適用すればいい。前提は、明確な継 続する意思があることだ。自分の代で絶対に会社を潰さないという、強い意 志、決意がある企業にのみこの「永久資本性劣後ローン」を適用する。一定の 厳しいルールを取り決めてもいい。一時避難、一時逃れは許されない。具体的 に、ではどういうものでその意思を判断するのかといえば、それはそれで具体 的な指標を決めないといけないだろう。どんな企業でもいいというものではな い。一定の厳格なルールに基づき、公正中立の第三者機関が認定してもいい。 とにかく、継続する意思のある企業は今回の緊急融資を「永久資本性劣後ロー ン」にしてもらう。 <売上が30%減っても成り立つモデルにする> ・世間では「ニューノーマル」や「新常態」と言ってはいるが、なんのことは ない、今までの売上の70%くらいで経営が成り立つようにするのが鉄則だ。と なると、まずはいったん「永久資本性劣後ローン」で足元の資金を確保し、2 年から3年くらいかけて事業のビジネスモデルを変えないといけない。製造業 なら一部の事業を非製造業に、卸売業なら川上へ行くか川下に行くか、小売業 なら製造小売りに、サービス業なら非サービス業にどうやって変えていくか。 それを真剣に考え、検討し、計画を立てて、実行し、そして結果を出さないと いけない。公務員のように、とりあえずやりましたではダメなのだ。結果を伴 わない行動は評価できない。 ・ソーシャルディスタンスを確保すると、新幹線の席は3分の2くらいにしな いといけない。そうなると、定員も削減になり、自由席の満員はできないこと になる。現在の料金体系は、混雑時には自由席は120%くらいが普通で、そう いう前提で1時間に多くの電車を走らせて料金を計算している。仮に、「新常 態」になると京都〜東京の新幹線代金は現在の13,500円が23,000円くらいにな り、グリーン車の料金より高くなる。同様に、お昼のランチ800円が1,300円に なったり、修学旅行が50%高くなったりする。果たしてこれで従来のビジネス モデルが成り立つだろうか。決してそうは思えない。では、どうなるか。 ・新幹線も、ランチも、新しいやり方が必ず生まれるはずだ。新幹線は空いた 席は荷物を運ぶのだろう。宅急便と新幹線が対抗する。ランチは800円をキー プするために、予約制になったり、ケータリングになったり、愛妻弁当の配達 ビジネスが起こるだろう。タクシーも、バスも、地下鉄も、何もかもが新しい やり方に徐々にシフトし、ある時期から一気に波及する。その時点で驚いてい ては乗り遅れる。しかし、あまりに早く業態転換をすると、まだまだ浸透、普 及に時間がかかる。とにかく、経営者は3年先、5年先を見据えて投資計画を 決めないといけない。見えない未来を必死で見ようとすれば、霧の彼方にもぼ んやりと自社の進む道が見えてくるはずだ。いや、見えてくると信じて進むし かない。