**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第845回配信分2020年07月06日発行 特別シリーズ:新型コロナウィルス感染パンデミック対策その17 70%の売上でどのように事業を成長さすか 〜70%×1.5>100%〜 **************************************************** <はじめに> ・先日の日経新聞に面白い記事があったので、多少脚色してご紹介する。化学 系の某大手企業のK社では、これからのアフターコロナ社会へのアプローチの 考え方として、まず経済の規模は従来の70%になるとの前提を置いた。そし て、この70%経済の下で従来の100%のパフォーマンスを出すにはどうすれば いかを考えた。そして、単純に70%にいくらの乗数をかければいいかを計算し た。計算は小学生でもわかるだろうが、答えは1.43になる。つまり、100%を 70%で割ればいいのだ。答えは1.43なので、数字をまるめて1.5として、50% の生産性の向上を果たせばいい。そう結論付けた。答えは50%の向上だ。 ・このコロナ騒動が一定時間のあとに終息して、ワクチンも開発され、一応落 ち着くだろうが、世界は以前の70%くらいの経済規模にしかならない。まし て、日本では人口減少がどんどん進み、いろいろな分野で従来の成長一辺倒の 考え方から脱却しないといけない。遠くの未来に来るだろう縮小経済の到来が 30年から50年早く来たのだと割り切ればいい。では、その縮小経済に向けて全 ての業種業態、企業やお店で何をすればいいのか。答えは簡単で、50%の生産 性の向上を果たせばいいということだ。効率を高めることもそうだし、コスト の削減もそうだ。人的な投入の工数を削減することもそうだ。時間短縮もあ る。 ・しかし、ことはそう簡単ではない。10%くらいならイメージが出てくるが、 50%というと大変なことだ。従来のやり方では到底できない数字だ。今まで、 月間に営業で100件の訪問件数を課していた部門で、各自が150件の訪問件数を 達成しようとするのは、所詮無意味。まず、それだけ対象数がない。対象の市 場は縮小するのだから、50%訪問件数を増やすことに意味はない。訪問の件数 より、中身を変えることだ。1件の訪問で行っている活動を50%増やすにはど うすればいいか。そう考えると、訪問することが目的ではなく、いかに効率的 に仕事を行い、結果を出すかが問われることになる。手段や手法をいろいろと 考える。 <これまでのやり方を見直す> ・まず、大前提として「続けること」「止めること」を明確にする。ただし、 続けるのだが同じやり方で続けるのではない。続けるためには何かやり方を変 えないといけない。50%の生産性を上げるには、相当の方法の変更を伴う。1 時間かかっていた仕事を30分で済ますには、どうすればいいか。おそらく、少 しの手直し、変更、修正ではできない。ある、電気店では店舗での白物家電の 販売を一切止めた。注文があれば取り寄せるが、店舗にはおかない。従来の店 舗は改装して、飲食店にして別の企業に貸し出すことにした。2階の住まいは 引っ越して、その企業の事務所に使ってもらうことにした。住まいの距離は遠 くなったが、そう不便ではない。 ・家電店というより工事やリフォーム中心の電気工事業に少しシフトした。今 後、高齢化社会が進むという前提で、ますます室内の電気工事が増えるだろ う。バリアフリーのリフォームや浴室、トイレ、ブレーカーの位置変更などの 細かい改造があるだろう。冷蔵庫や洗濯機、テレビを売っている時代ではな い。在庫を持つ必要もない。ただ、待っていてもお客さんは勝手には来ない。 では、どうやってニーズを掘り起こせばいいか。これに知恵を絞らないといけ ない。リフォームの工事実績を画像にして、タブレットで持参して見てもら う。チラシ、パンフレット、カタログより、よほどよくわかる。商談もスムー スに進む。 ・ある印刷会社は、取り扱う品目を紙に印刷するものから、WEBやデジタルに 大きくシフトした。営業も、あまり紙に印刷する受注を取らないようにして、 紙よりWEBでの注文にシフトするようにした。売上の金額は減少するかもしれ ないが、材料費は減少するし、紙の在庫をもたなくていい。おカネもそうだ が、紙をトラックで持ちこまれて、倉庫の中でフォークリフトを運転して振り 回す作業がなくなった。環境も良くなり、作業員も紙の管理をする時間から解 放され、もっと価値の高い仕事をする時間が増えた。従来の売上一辺倒から、 売上の中身、内容、粗利、原価などにみんなの関心が向くようになった。意外 と利益が増えた。 <トップのやる気が現場を動かす> ・ある会社は会議で紙の資料を一切なくして、全員がパソコンを会議室に持ち 込んで会議をするようにした。東京支店とはZoomでオンライン会議をするよう に切り替えた。当初、全員が戸惑い、混乱し、ブーイングも出たが社長は頑と して譲らなかった。社長の本気度をみんなが感じて、親父は本気だと認識し、 積極的に協力するようになった。そうなると、年寄りが取り残されることにな り、若手の社員の発言がどんどん増してきた。以前の会議なら末席に座って 黙っていた若手社員が積極的に意見を言うようになり、会議が活性化した。こ れは予想外の効果をもたらし、オンラインなど馬鹿にしていたが非常に有効だ とわかった。 ・在庫管理も、小口現金も、おカネの管理も、どんどんITを活用するように なった。営業日報も、記入はしていたが義務的に記入するだけで活用されるこ とはなかった。しかし、よくよく見れば日報の中に宝の山があることに気が付 いた。そして、いろいろなメニューが山ほどあり、活用していないことがわ かった。ある顧客に訪問してから一定期間経過したらアラームが出る機能が あった。誰も気が付いていなかったが、30日と設定したら多くの営業マンの画 面に30日以上訪問していない顧客のリストが毎日出るようになった。社長以下 全員がそれを共有できるから、誤魔化しようがない。かくて、30日以上放置さ れる顧客が皆無になった。 ・工場のレイアウトも劇的に変わった会社がある。それまでは機械の増設の都 度、空いたスペースを作ってそこに適当に置くしかできなかった。作業効率は 悪いし、導線はできていない。今回のコロナで相当の時間工場の稼働率が低く なり、従来から不満のあったレイアウトの変更を一気に行った。7日間かかっ たが、その間工場の稼働を一切止めて、全員で整理整頓につとめ、一気に導線 を変えることができた。従来の汚い工場からは現場が一変した。一度完全にき れいにすると、今度は少しごみが落ちていたらみんなで拾うようになった。現 場がきれいになると歩留まりが格段に良くなった。違う会社に生まれ変わっ た。 <70%なら50%生産性を上げる> ・このコロナで数か月間受注が50%にまで落ち込んだ。経営陣は必死に受注の 挽回に努力するが、いかんせん発注側の企業がどうしようもない状態なので、 5月くらいから受注を増やす努力より、自社の改革に乗り出した。いい機会だ と割り切って、今までできなかった大きなテーマに取り組んだ。現場のレイア ウト変更、導線の変更なども、その一例だ。細かい改善、改革はもっといっぱ いある。どうして以前にはできなかったのか、不思議だった。しかし、業績が 順調なときは変えることは難しい。いいときは、どうしても考え方が甘くな る。おカネも少し余分にあると、無駄を省こうとしない。広い場所にはものを 乱雑に置く。 ・ピンチになると、これは頑張らないといけないと、気合が入る。できれば、 業績のいいときに改善、改革に手を付けるのが王道なのだが、それがなかなか できないものだ。70%の売上で会社が経営できるようにするなどという突拍子 もない発想は、業績の順調なときには絶対と言っていいほど、生まれてこな い。無理やり、やむを得ず、そうならざるを得なかったので、強制的にそのよ うな状態を甘んじて受け入れないといけない環境に身を置いた。生産性を50% 上げることは、一朝一夕にはできないが、3年後にそのような状態を想定し て、明日から何ができるかを考えることが重要だ。考えておかないと行動には つながらない。 ・50%、50%と悩んで呪文のように唱えていると、まず大脳に50%が刷り込ま れる。そうなると、四六時中50%について考えているはずだ。特に、一人に なったときに、一気に発想が膨らむ。他人と多くかかわっていると、そちらに 神経が行ってしまって、劇的に変わる発想が生まれない。こういうときには異 業種の動向が参考になる。同じ業種、業界の人からは、同じような発想しか生 まれないことが多い。製造業はサービス業に、小売業は卸売業に、農業は漁業 に、ヒントがあるものだ。それも、50%の問題意識を常に持っている人と、と きどき考えている人とでは、雲泥の差がある。3年後に50%の生産性の向上。 これが合言葉だ。