**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第848回配信分2020年07月27日発行 特別シリーズ:新型コロナウィルス感染パンデミック対策その20 3年後を想定して 〜変えていくという経営者の覚悟〜 **************************************************** <はじめに> ・ムダな仕事をばっさり止めることや、異質な人材を採用することを推奨した が、今回は他社との連携、アライアンスを取り上げる。連携、アライアンスに はいろいろな段階、レベルがあり、決まりは特にない。もちろん、通常の社会 的な商流、取引も立派なアライアンスだが、ここでは特に新しい分野に進出す るときの他社との連携を考える。まず、基本は自社にない経営資源を持ってい る企業と連携することだ。中小企業では、多くの設備を持つことは難しいの で、何らかの形で自社の経営資源がない分野で、他社と積極的に連携、提携し ているはずだ。原材料の調達、製造工程での加工、保管や物流、そして販売な どの工程だ。 ・ビジネススクールでの講義では、ValueChainというキーワードがある。日本 語に直訳すると「価値の連鎖」ということになり、自社がやっている仕事の川 上の工程から川下の工程までを書いてみて、どこに自社の強みがあるかを再確 認する。まず、原材料の調達に始まり、受入貯蔵、製造加工、製品検査、保管 物流、販売営業、アフターフォローなどだ。これらすべての工程を行っていな い企業も多いが、一応自社がやっている業務の内容を書き出してみる。意外と 独自のことをやっている工程もあるが、外注企業に協力を仰いでいる工程も多 いはずだ。これはこれで、立派なアライアンス、業務提携になる。知らない企 業との連携は、まずない。 ・外部の企業とのアライアンス工程は、それが妥当なのか、本来自社でやるべ き工程を、何らかの理由で外部に出しているのか。それはどうしてか。設備が ないのか、人材がいないのか、技術がないのか、資金が不足なのか。特に理由 がないまま、従来からの慣習でそのまま問題意識もなく流しているのか。先日 事業の継続が困難になった企業では、20年ほど以前からそのような課題を意識 はしていたが、経営陣が旧態依然とした考えに固まっており、変化の受け入れ や自ら変化することを拒み続けていた。案の定、今回のコロナショックで傷口 が拡大し、出血が止まらない。残念ながら、先週万事休すとなり100年の歴史 に幕を閉じた。 <老舗企業でも難しい> ・この企業は最近の20年間次第に価値が毀損してきた。設備は古くなり、人材 は高齢化し、新規事業もままならない。どんどん外部に委託、委嘱する工程が 増えて、最後の最後は社内で製造する工程はほとんどなかった。川上から川下 まで、何も社内にノウハウが残らず、ブローカーのような商社になっていた。 経営陣はわかってはいたのだろうが、効果的な手が打てないまま時間だけが経 過し、今回のコロナ禍で傷口が大きくなり、ご臨終となった。コロナショック は、20年間くらいの変化が数か月で起こったのと同じなので、あまりにショッ クが大きく対処の方法がないまま最後を迎えることとなった。 ・事業の継続には1本足打法では難しい。本業に集中しながら、少し横の分野 の事業にも進出しておかないといけない。間違ってはいけないのは、新しいこ とがすべて成功するわけではないということだ。だいたい、打率2割あればい いほうだ。新商品を発売しても、なかなか売れない。新規の得意先の開拓も 遅々として進まない。新しい得意先ができたとしても、急に大きな仕事や受注 が舞い込んでくることは、まずない。徐々に信頼を得て、少しずつ受注が増え だして、そのうちに大きな仕事が巡ってくる。だいたい、商売とはそういうも のだ。NETの世界で大きく飛躍している企業でも、最初のスタートはその程度 だと思う。 ・いくつかの新しい事業をスタートして、失敗が続き、それでもめげないでい ろいろと工夫をしながら継続してみる。継続の目途は3年だろう。3年経って 赤字が黒字にならないなら、今後続けるべきかを真剣に考える。それと、3年 くらい経過したら当初の想定した計画の費用や予算を使い切っているはずだ。 この費用と予算もおおよその金額を決めておく。累計で5,000万円投資した ら、それが限度だと。管理会計を駆使して、その事業にどれくらいかかったの かが、常に経営者の手元でわかるようにする。そして、決断する。 <立石電機の自動改札機が手本> ・しかし、まず始めないと何も変わらない。そのためには、日ごろからの仕込 みが大事だ。ビジネスのネタを仕込んでおかないと、急に事業は立ち上がらな い。ネタはいろいろなところに落ちているはずだが、どうもはっきりとは分か らないものだ。かの有名なドラッカーの言葉に、「変な客ほど本命」というの がある。「変な客」とは今までの顧客と違うニーズを要求してくるお客だ。 びっくりするような要求をしてくると、ほとんどの企業ではまず断る。そんな ことは当社ではできませんと、まず取り合わない。昔の立石電機がそうだっ た。そうそうたる関西の大手電機メーカーが断ったのが、あの「自動改札機」 だ。 ・電鉄会社が困って、最後に泣きついてきたのが当時の立石電機、いまのオム ロンだ。当時の代表者が断らずにチャレンジしようと立ち上がり、社内の猛反 対を押し切って開発に着手した。当時、うまくできる自信はなかったという が、中小企業だったので意思決定は早かった。おそらく幾多の困難を乗り越え て、この自動改札機が世に出たのだが、当初はトラブル続きだったそうだ。改 札機を通る利用者が想定外のことをする。切符を裏側から通すなどということ は当初は想定外だった。この裏側から入れる切符を、きれいに表側にひっくり 返す機械的な技術は相当難しかったようだ。しかし、彼らはここを乗り越え た。 ・ある日担当の技術者が、山中を流れる小川に落ち葉がひらひらと落ちて、そ の落ち葉が岩と岩の間の狭い流路を流れていくときに、葉っぱが裏側から表側 にきれいにひっくり返るさまを見て、はたとアイデアを思いついた。この難題 はこれで解決したようだが、今でも解決できないテーマは、大人と子供の識別 だ。料金が異なり切符が違うので、大人が子供の切符で通るときのゲートは閉 まらないといけないが、これができない。身長の高い子供もいれば、小さな大 人もいる。結局、身長や体重などの身体的なデータでの年齢区分はできないと の結論になり、子供の切符のときはランプで表示するという苦肉の策になって いる。 <3年後に売上の3分の1を新規で> ・何事も、新規の開発や新規の顧客開拓は時間がかかるし、骨が折れる。しか し、無理難題を言ってくる「変な客」に対応していると、自然に力が付く。要 するに、断らないことだし、チャレンジすることだ。チャレンジして失敗して も責めない。新しことはチャレンジすることから始まる。経営者が創業者の場 合は、このチャレンジする精神が旺盛だ。2代目、3代目になると、この挑戦 する気概がトーンダウンする。受け継いだ人は、どうしても守ろうとする。守 備的な意識が強くなり、挑戦する気持ちが薄れ、腰が退けるようになる。しか し、今回のコロナショックはそれを許さない。新しことを始めないと、生き残 れない。 ・従来にないサービス、ビジネス、業態を始めることだ。しかし、あまりに離 れ小島に行ってしまうことは避けたい。自社の保有する経営資源を利用できる のが、一番いい。手っ取り早いのは、後継者のいない企業を引き継ぐことだ。 飲食店でいえば、居抜きで始めるお店を探す。ことはそう簡単ではないが、何 としても見つける、探すという意思を持つことだ。道に落ちているものを拾う にも、道を凝視して歩いていないと見つからない。ただ、なんとなく、のんび り歩いていては、何も見つからないし、探せない。何とか探そうという意思を 持つことだ。経営とは、この意思の連続だ。特に、経営者は強い覚悟と意思を 持つことだ。 ・3年後に今の売上の3分の1を新しい事業で作るのだという、強い意志と覚 悟を決め込む。そして、それを内外に表明し、発表し、断固たる決意を示すこ とだ。コロナショックで世の中が縮こまっている今がチャンスだ。撤退する企 業やお店も相次いでいる。会社を継続する意思と覚悟があるなら、残った市場 を取りに行く。止める企業の得意先を取りに行くことも、作戦のうちだ。ぼや ぼやしていると、自社の存続さえ危うい。資金繰りの目途をつけて、3年後の 自社の姿を思い描くと、ここでじっとしている手はない。じっとしていると勝 手に自社の価値は棄損する。熟慮のあとは、断行することだ。経営者の仕事は 決めることだ。