**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第860回配信分2020年10月19日発行 特別シリーズ:新型コロナウィルス感染パンデミック対策その32 コロナ後世界と社会の課題その3 〜中小企業が取り組むDXとは〜 **************************************************** <はじめに> ・コロナ後の社会を語るときに、この最近流行の「DX」なるキーワードは避け て通れない。この「DX」つまり「デジタルトランスフォーメーション」は横文 字の嫌い、苦手な方には申し訳ないが、要するに一時期話題になったIT化と近 い言葉だと思えばいい。こういう横文字やカタカナのIT用語は、非常にとっつ きにくい感じがするが、あまり怖がる必要はない。この略称「DX」もIT化の もっと進化した形だと理解しておけばいい。密の回避などいくつかの制約条件 はあるが、要するにこのコロナを機会にもっとIT化を進めよということだ。た だし、もっと概念は広く深い。単なるIT化、デジタル化の進行だけではない。 ・従来からも結構IT分野に投資をしてきた企業は多いと思うが、やはりまだま だこの分野に関して日本は後進国であることが今回わかった。それぞれの官公 庁がばらばらにシステムを組んでいる。都道府県もばらばら。当然民間企業も ばらばらだ。それを今回のように日本全国を横串に刺して統一して何かをする となると、このばらばらのシステムが大きな障害になる。保健所のデータもば らばらなので、問題になったがいまだにFAXで資料を送受信している。保健 所、都道府県庁、国の機関が患者数の集計ひとつをとっても統一したシステム ではない。そうなると全国集計をするのに時間がかかる。数字もなかなか確認 できない。 ・民間企業も、その企業を真ん中にして仕入先とのデータのやりとり、得意先 とのデータの交換などは、それぞれがばらばらのシステムだ。パソコンひとつ とっても、WindowsとMACがあり、データの互換性がいまひとつ難しい。これに その他の専門的なデータのフォーマットが絡むと、かなり詳しい人でないと対 応が難しい場合がある。いまだに発注データと受注データの互換性がとれない し、会社の在庫データとの共有も難しい。止むを得ず、いまだに得意先とFAX でのやりとりが多い。得意先で一度データ入力したものを、いったん紙に出力 して、それをFAXする。受注した側ではさらにそれを入力している。実にムダ が多い。 <データを一元化する> ・簡単な商流でもこのようにちぐはぐなので、もう少し大きな流れになると もっとムダが多い。このムダを排除し、データの互換性を高めて、仕入や売 掛、請求のデータを共通のプラットフォームで運営できると非常に効率的にな る。また、そのデータを経理処理し、税理士事務所がそのままのフォームで使 えるとなると、これは一気に事務処理が効率化する。ところが現実の現場で は、それがなかなか進まない。取引先とのデータの互換性がないことも多い。 経理システムと税理士事務所との互換性がない場合がある。入力も同じような データを何回も入力する。どこかで人間のすることだからミスも起こるし、間 違いも発生する。 ・DXが進むとどうなるか。例えば電気工事会社では、修理の依頼の電話が入る と、その依頼内容をデジタルデータに変換し、同時に得意先の地図がインサー トされ、過去の修理履歴が表示され、過去の購入履歴も同時にわかる。誰が、 いつ、どのような修理内容で訪問したのか。その際に、どのような修理箇所を どう修理しどんな部品を交換したのか。その結果、請求書がいつ送付されて入 金が、いつ、いくらあったのか。売掛金の残がどれくらいあるのか。展示会の 案内をいつ送付したのか。暑中見舞いと年賀状は送っているのか。年末のカレ ンダーは配っている得意先か。営業担当者は誰か。そういう顧客情報が一元化 されている。 ・意外と業務のデジタル化が遅れているのは小売業だ。それも飲食店や外食店 などの顧客と直接コンタクトが多い企業だが、購買データや顧客データがほと んど把握できていない企業が多い。例えば、成岡のよく利用する料理店。丸太 町通りの京都府庁の近くにあり、以前会議所が烏丸丸太町近くにあるときは、 よく利用していた。それが昨年3月に会議所が移転してから、ずいぶんご無沙 汰になった。名刺は一度出した記憶があるが、お店のご主人と奥さんにしてみ れば、最近ずいぶんご無沙汰だと思っているに違いない。販促の案内を出して も、住所が変わっていると届かない可能性が高い。よく行っていたが、結局移 転を機会に疎遠になってしまう。 <社員教育をデジタル化> ・小売店や消費者に直接サービスや物販を店頭で行っている企業では、意外と 顧客データが把握できていいない。ポイントカードなどを発行していると多少 把握はできるが、紙のスタンプカードくらいでは把握できない。最近、国がデ ジタル化の推進と口を酸っぱく言い続けているが、よくよくみれば日本はデジ タル化の圧倒的な後進国に成り下がっているというのが真実だ。百貨店でもも のを買わなくなった。たいがいのものは、ネット通販でことが足りるとなる と、ネットガリバー企業にデータが集中し、商店街の実店舗には顧客データが 残らない。しかし、ネット通販企業にも死角がある。物流ときめ細かい顧客 サービスだ。これはリアル店舗の一番のメリットだ。 ・画面上では実際の接客はできないから、いまだに大型家電量販店や家具 ショップ、靴の量販店などは現場での接客から多くの商品開発のヒントが生ま れる。ビジネスの原点は困りごとの解決だから、顧客との接点というのは大事 な機会なのだ。ただし、接客のうまい下手で結果に大きな違いが生まれる。接 客する側の店のスタッフの知識や経験が非常に重要になる。そのために、全国 展開している大手家具の企業では社員研修に他の企業の5倍の時間と費用をか けているといわれている。それくらいしても、商品点数が多く新商品が次々と 生まれ、顧客からの要望や質問も多岐にわたるとなると、少々の研修時間内で は難しい。 ・しかし、そのような現場でもDXをうまく活用している企業と、旧態依然とア ナログで対応している企業とでは、格差は歴然とついてくる。教育研修に全員 がタブレットをもって、画像で内容を伝える。全員が同じカリキュラムをする のではなく、進行の程度によって個別の社員ごとに教育カリキュラムが選択で きる。中途採用が多いから、一斉に同じ進捗で進まない。そうなると、個別の 進捗に応じて各自ごとに教育ができるようなシステムになっていないといけな い。某大手家具の量販店では、ほとんどが中途採用の社員を教育するのにデジ タル化を一気に進めた。また、このコロナの時期にサイトでの通信販売が増加 するとにらんで相当の投資を行った。先見の明がある。 <後継者に託す> ・デジタルトランスフォーメーションとなると何やら物々しいが、要するにい かに自社のビジネスモデルをデジタル化、IT化して効率的に業務をミスなく迅 速に処理することと、顧客の購買、購入動向をいかにタイムリーに把握するか ということだ。そのためには、業務のデジタル化が欠かせない。いまだに伝票 が手書きで、注文がFAXで、会議の資料も紙だ。おそらく、この企業の社長さ んは年配だろう。社内にまずこれらのことを推進できる人材が必要だ。いなけ れば外部からサポートを受ける体制を作る。その窓口には若手を張り付ける。 そして、売上の1%は毎年確実にIT投資に振り向ける。そう決め込むことが大 事だ。まずは、意思を持つことだ。 ・後継者が若い場合は、いい機会だから後継者が社内のデジタル化プロジェク トのリーダーになって推進してくれるのが一番望ましい。外部のITベンダーと も連携し、社内でもう一人若手を抜擢してこのプロジェクトを推進する。そし て、2週間ごとに社長やトップグループに進捗を報告する。プロジェクトだか らもちろん通常の日常業務以外の部分になるから、途端に忙しくなる。いつか 承継する前にこのような修羅場をくぐって成長する機会を与えられると非常に 勉強になる。そして、結果が出たら承継するに際し、お土産になる。このよう な実績を作っておけば、数年後に後継者に承継する際に、誰もが納得する。世 襲とはいえ、やはり手柄がないといけない。 ・今後DXをどんどん進める中小企業は生き残る。逆に、DXに腰が退け、投資が できない企業は、徐々に取り残され、ある日突然市場から弾かれる。事前宣告 なく、突然の退場を命じられ、何がなんだから分からないうちに取引先グルー プから排除される。よくよく考えてみればアフターコロナの時期にDXに真面目 に真摯に取り組まなかったのが致命傷になっているはずだ。経営環境はこのコ ロナで激変した。時代の変わり目とはこのような出来事がきっかけで大きく動 き出す。もう世の中は動き出している。業績が悪化してデジタル投資どころで はない企業も多いだろうが、リスタートする際に大きく差がつく可能性があ る。何におカネを使うのか。ここは経営者の決断が迫られる。