**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第861回配信分2020年10月26日発行 特別シリーズ:新型コロナウィルス感染パンデミック対策その33 コロナ後世界と社会の課題その4 〜中小企業にとってのSDGS〜 **************************************************** <はじめに> ・最近街を歩いていると、ビジネスマンの襟元に丸いバッジのようなものを付 けた人をよく見かける。カラフルでいいのだが、あのマークが今回ご紹介する 「SDGS」のシンボルマークだ。内容の詳細は割愛するが、国連が数年前に定め た「持続可能な社会」を目標にした事業活動を行う際の指針になる考え方だ。 17のテーマがあり、それぞれが定義されシンボルカラーが決められている。そ れまでの資本主義は、とにかく「大きいことはいいこと」だった。売上は伸び ることが成長であり、利益を挙げることが事業の目的だった。ところが、この 膨張的な考え方で進んだために、最近では環境問題で先進国の経済は行き詰 まった。持続可能でなくなってきた。 ・このまま地球温暖化が進むと、非常に恐ろしい未来が待ち受けているのはも う常識だ。CO2の増加で地球はどんどん暖かくなり、平均気温が徐々に徐々に 上がっていく。筆者が中学高校生のとき、夏の炎天下の数時間のクラブ活動で も倒れる子供はほとんどいなかった。たまに、熱さ当たりのため木陰で10分も 休憩すれば、すぐに戻れた。3時間くらい給水をとらないで、ぶっ通しで野球 の練習をしていても、全く平気だった。練習が終わってから、水飲み場まで猛 ダッシュできた。「熱中症」などという言葉はなかった。とにかく、いまは気 温が2度Cは違う。暑いと言ってもその暑さの質が違う。確かに、これほどの 暑さはなかった。 ・平均気温が1度C上昇すると、実は大変なことが起こるという。農作物の生 産、収穫が大きく変わる。土の中のバクテリアなど微生物の生態系に大きな変 化が起こる。昆虫や哺乳類の分布が大きく変わり、益虫害虫の境界線が大きく 変わってくる。海水温度が変わり、魚の回遊ルートが大きく変化し、漁業に大 きな影響が出る。食生活に多大な影響が出て、ただでさえカロリーベースの自 給率が40%以下の日本では、マイナスの事態が起こるのは必至だ。何も気温の 上昇が及ぼす海水面の上昇だけにとどまらず、日常の生活やひいてはビジネス 環境に大きな変化をもたらすことになる。プラスの要因より、マイナスの要素 のほうがはるかに大きい。 <一過性より持続可能を目指す> ・SDGSは大企業だけのものだと勘違いしている人も多い。大企業のみんなが バッジを付けているのを見ると、何だか大企業や中堅企業のものだと思いがち だが、実はこの考え方は中小企業にも大きく関係している。大企業の下請けで 入っている企業も多いし、取引先の大企業の考え方がそのように変わると、当 然のことながら付き合っている中小企業も変わらざるを得ない。とにかく、一 過性で売り上げを追及したり利益に執着したりするのではなく、社会全体最適 を目指し、成長が持続することが最優先になる。そういう意味では、最近売上 の目標達成という尺度を、評価の基準から外した金融機関もある。支店の成績 に貸出しの金額目標を外した金融機関もある。 ・持続可能な成長を目指すというキャッチフレーズは、非常に耳障りはいい が、実現するには相応の意思と覚悟が要るだろう。従来の思想信条を大幅に変 えて、目先の売上より未来を託す子供たちになるべくツケを回さない。自分で 借りた負債は自分で落とし前をつける。無理な借り入れをして、企業の規模を 大きくするのは人間でいえば太りすぎということになる。総資産が増えて回転 率が悪くなり、非常に重たいので早く走れない。身軽ではないし、変化に対し て反応が鈍くなる。企業は常に身軽にしておかないと、何か変化しようと思っ たときに時間がかかる。体重40キロの人と、70キロの人が同じマラソンをして も、結果は一目瞭然だ。 ・持続可能とは継続できるということだ。継続できるということは、少なくと も企業経営が成り立っているということになる。収支がきちんとプラスで、生 きていくための投資がきちんとできていて、投資が循環し資金が回転してい る。たまには赤字の年度もあるかもしれないが、平均してきちんと利益が出て いて、生み出した利益から投資再生産が回っている。そういう企業経営の状態 でないと、継続できない。まして、今回のようなコロナショックが起こると、 普通に運営していた企業でも、継続存続が危うくなる。おおむね、10年に1回 大きな出来事が起こり、その都度淘汰を繰り替えす。環境の変化による新陳代 謝に耐えられた企業のみが、後世に生き残る。 <気候変動への対策> ・特に第8番目の「経済成長と働き甲斐の両立」は大きなテーマだ。全世界的 に見れば、まだまだ人口が増加する地域があるので、経済成長は目指すべき目 標になる。しかし、その反面多くの矛盾が露呈している。その最たるものは、 地球温暖化だろう。そして、働いている人のモチベーションが下がることのな いように配慮しないといけない。働き甲斐は、何も報酬や給料の大小ではな い。仲間との連帯、仕事への誇り、そして経営陣への信用と信頼。あらゆるも のが一本の軸で統一されていて、哲学があり芯がある。いつもぶれない信念が あり、その主義主張に基づく。成長を維持しながら、メンバーと共に高いモチ ベーションが維持できる環境を作らないといけない。 ・7番目のエネルギーをクリーンにすること、13番目の気候変動への対策を促 す項目は、我々がいま一番最優先で取り組まねばいけない課題だろう。特に CO2の排出量を削減する技術開発、設備投資は緊急の課題だ。新しい菅政権も 将来において大幅なCO2の削減目標を掲げた。今後、大げさに言えばコロナ後 の社会はこのCO2の削減に向けて、多くのエネルギーを使うことになる。ま た、そうならないと地球環境がどんどん毀損し、自然災害は猛威を振るい、森 林火災は増加し、北極海の氷山は溶けて、どんどん生態系が破壊される。平均 気温が上がるということは、生物にとって生きていく環境が激変するというこ とだ。 ・食料問題も、すべてはこの地球環境変動に依存する。今後日本では人口は減 少するが、世界的に見れば、後進国での人口増加は止まらない。そうなると、 食料が足りなくなり、多くの国で飢餓状態が発生する可能性がある。国連の食 糧援助の機関が、すでに警鐘を鳴らしている。とにもかくにも、CO2を排出し ない、させない技術開発、設備の開発が重要だ。新しい技術開発が世界の各所 で行われている。中小企業の事業も、ひとつの方向はこのCO2を出さない技術 に関与できるか。もうひとつは出たCO2の処理技術に関与できるか。そして、 3番目にはクリーンエネルギーの生産、製造技術に関与できるか。このどれか に関与できるとその事業は有望だ。 <SDGSは有望市場> ・今後のコロナ後の社会を占うと、このSDGS関連の事業が伸びる、成長するの は誰が見ても明らかだ。難しいのは、それがすぐに即効性があり、収益面に大 きく寄与するには時間がかかるということだ。どんな技術でも、どんなビジネ スでも、すぐに効果が出て売上と利益面で貢献できるには、相応の時間と投資 が必要だと思わないといけない。いま、業績の悪い企業、あるいは借入金が多 額で返済に窮している企業が取り組むには、相当の覚悟が要る。むしろ、少々 財務面での余裕がある企業がチャレンジするならいいが、月末の資金繰りに困 窮している企業が取り組むテーマとは言い難い。特に、この環境問題や地球温 暖化対策の関連ビジネスは、投資回収に時間がかかる。 ・最近ESG投資という言葉も日常よく目にするようになった。地球環境改善に 寄与する技術や設備に投資をする姿勢を評価するということだが、これがそう 簡単に利益を生むとは限らない。むしろ技術開発や環境課題の解決に注力する 大企業の事業の一部を請け負うという感覚でアプローチするのがいい。今後そ のような会社の業績は伸びるだろうから、そのような大企業や中堅企業との関 係を密にすることが重要だ。京都には環境課題の解決に大いに貢献している企 業も多い。そのような企業との商取引を活発にすることが重要だ。日ごろから どのような企業がこのSDGSに深くかかわっているのかを常にウォッチしていな いといけない。 ・自社だけの技術では難しいなら、協業や連携、提携、資本参加などあらゆる 方法、手法を検討するべきだ。産学連携というやり方もある。多少の初期投資 は必要だが、自社の保有技術と大学の研究開発技術との融合は、今後大いに拡 大する可能性がある。いずれにしても、いま時流になっているSDGSのいずれか に貢献できる事業が今後有望な市場になる。そして、現在は「変な客」でも3 年後、5年後にはそれが「普通の客」になっている可能性がある。その時点に なってから、慌てていたのでは遅い。多少先物だが、トップの先見の明と決断 で少しフライング気味で走ることが大事だ。この決断はトップしかできない。 そして、事業の道筋をつけて後継者にバトンタッチする。これが理想だ。