**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第862回配信分2020年11月02日発行 特別シリーズ:新型コロナウィルス感染パンデミック対策その34 コロナ後世界と社会の課題その5 〜自社の事業を再定義する〜 **************************************************** <はじめに> ・このコロナ禍で自社の事業に行き詰まりを感じた経営者の方は、これがいい 機会なので一度改めて自社の事業をもう一度振り返ることをお勧めする。ある いは、事業を承継された後継者の方も、一緒になって自分の会社が改めてこの コロナ以降の社会にどのように関わっていけばいいのかを、じっくり考えてみ るいい機会にすることだ。そんな悠長な暇はない、いまはとにかく生きていく のに必死だという企業においては、無理にそのような時間を持つ必要はない。 野球の試合の真っただ中で、監督と選手が次の試合のイメージを語り合ってい るのは見たことがない。それより、いまの目前の試合を勝ちに行くことが大事 だ。それはそれで仕方ない。 ・このコロナショックで売上や受注が大きく落ち込んだ企業も多い。開店休業 状態になっていたお店も多く見かけた。何とかしないといけないので、ドタバ タとやってはみたものの、疲れただけでさほどの成果が見えない企業も多い。 需要が蒸発した企業は、どう頑張っても、あがいても、蒸発した需要は戻って こない。嘆いても仕方ないので、諦めたほうが早い。さっさと頭を切り替え て、次の準備にかかることだ。来年の春には、多少ともましになって、過去の 70〜80%くらいで業績は推移するなら、それでよしとすることだ。逆立ちして も、100%には戻らないと覚悟を決めれば、自ずとやるべきことは見えてくる はずだ。まず、腹を括ることだ。 ・需要が先送りになった企業は、ここはじっと我慢して次の春に備える。教育 に時間を使うのか、人材確保に時間と費用をかけるのか、新しいチャネル開発 に時間を投資するのか。はてまた、自身の自己啓発に乗り出すのか。需要が先 に延びた企業は、この厳しい環境の中で、とことん生き残りのための方策を考 えておくことだ。何らかの手を打たないといけないことはわかっているが、ど うすればいいのか分からない。分からないときは、西洋医学の「保存的治療」 ではないが、じっとしているのもひとつの対策であり、治療なのだ。先行きが 見えない時は、暗闇に向かって猪突猛進するのではなく、先行きがぼんやりと 見えてくるまで、その場でじっとしていたほうがいい。保存的治療も、治療の 一環だ。 <人口減少と環境問題> ・もっと改まって、自社のビジネスの再定義をするのもいいことだ。改めて自 社のビジネスは、「誰に」「何を」「どのように」という定義を決めること だ。この「何を」の中に自社のビジネスの存在価値がある。提供する製品、商 品、サービスがどのように定義され、本当に「誰に」「どうやって」が明確に なっているか。なんとなく、漫然と仕事をしているので、そのような難しいこ とは考えたこともない。しかし、このコロナショックで多少の時間の余裕もで きたはずだ。いまがチャンスなので、一度改めて自分の会社は、いったい何を することで続けられてきたのかを、今一度考えてみるいい機会にしたい。自分 自身と会社を振り返るいい機会にする。 ・今後のコロナ後の社会を考えると、当然のことながら人口減少と環境対策は 欠かせない。この大きな課題、問題に対して、直接ではなくても間接的にで も、何らかの自社のサービスがお役に立っているだろうか。意外と今までは売 上至上主義で来たので、一度立ち止まって過去を振り返り、それをもとに今後 の未来社会を推測する。誰が見ても明確な事実は、日本においては人口が減少 することだ。そう簡単に出生率が劇的に改善し、子育て環境が激変するもので もない。もうひとつの環境問題も待ったなしだ。先週号のこのメルマガでも書 いたが、政府から具体的な環境対策の数字が示されてきている。いよいよ本気 で取り組むのか。その本気度が試されている。 ・そのひとつが2050年までにCO2排出ゼロを目指すという菅首相の発言だ。お そらく、多くの紆余曲折があるだろうが、確実に多くの環境対策の施策が打ち 出されるだろう。これは想像以上のインパクトがあり、おそらく国は本気で取 り組むだろう。原子力発電所がどうなるかは分からないが、いずれにしてもク リーンエネルギーにシフトするのは間違いない。もうひとつの注目は中国で、 2030年までに車は必ずEV車かハイブリッドにするという。それ以外のクルマは 中国では売ってはいけにことになる。現在の中国は世界の自動車の最大のユー ザー国だ。その国でガソリン車が売ることができないという。中国政府はどう も本気でやるらしい。 <そもそもに立ち戻る> ・コロナ後の社会に向かって多くの企業が悶々としながら、何かを求めてさま よっている。敏感な企業は、もうすでに何かのアクションを始めている。行動 が素早い企業は、判断の軸がぶれない。やることが社内で明確になっており、 役員や幹部が全員同じものを見ている。そして、同じように行動し、同じよう に情報を共有している。つまり、みんなの考えがある程度まとまっている。こ れは、今回のテーマである自社の事業の定義がきちんとできているからだ。そ うではなくて、都度迷走する企業は、この自社の事業は一体何をするのかとい う基本的な命題に答えを持っていない。持っていない中で、とりあえずの仕事 に埋没している。毎日忙しいようだが、手を動かしているだけだ。 ・いい機会なので、役員や幹部が一度会社を離れて、別の場所に行って、日常 を断ち切ったなかで忌憚ない意見交換をしてみる。前回10年前に襲ったリーマ ンショックの際には、成岡の知己の会社は全員で2泊3日の泊まり込みの合宿 を行った。製造業なので、仕事が極端に減った。会社に出勤して、掃除ばかり する毎日を見るに見かねて、トップが社員全員を連れて北陸の温泉に合宿に 行った。結構費用もかかったと思うが、それは未来に対する投資と割り切っ て、大盤振る舞いをした。その結果、自社の今後の方針が明確になり、それ以 降判断がぶれなくなった。そして、リーマンショックが終わったころには、V 字回復を果たすことができた。 ・こんなにうまく行くとは思えないが、改めてこのいい機会に自社の事業の再 定義をしてみる。まず、何が自社の社会における存在価値なのか。いま、提供 しているサービスや製品、商品に本当に価値があるのか。確かに売上は毎日計 上されてはいるが、それは本当に社会から求められているからだろうか。これ から生まれる利益とはいったい何か。会社は今までそれをどのように投資、再 生産して社会に還元してきたのか。少し業績が落ち込んだからといって、非正 規の従業員を簡単に解雇してきたのではないか。雇用を守るとはどういうこと なのか。創業家のことが優先し、会社や得意先、仕入先、従業員のことはどう だったのか。そもそも、何を求めてやっているのか。 <コロナ後に自社は何をするのか> ・こういう会話は非常に空気が重たくなる。誰かがうまく会話を進行しない と、どんどんトップの赴くままに内容が迷走する可能性がある。堅い話しにな るので、なるべくリラックスした雰囲気、環境を作ることだ。服装、会場設 定、時間帯、用意する資料など、準備段取りに気を配る。遠慮のない会話がで きるような環境でやらないと、いつものような社長の独演会の会議で終わって しまう。あるいは、トップが逆に参加せずに、後継者に進行を任すのも一案 だ。社長は我慢して参加しない。会話の結果を後継者から子細に報告を受ける にとどめるのも、いい考えだ。やはり、何か新しいことを始めるには、それに ふさわしい環境を作ることだ。 ・新しい酒は、新しい革袋に入れる。昆虫も、成長するには脱皮が必要だ。江 戸時代から近代国家の明治に移行できたのは、外国からの黒船の来襲がきっか けだった。京都の製造業が勃興したのも、明治天皇が東京に行ってしまい、京 都が荒廃したから、ときの政府が産業振興策を施し、そして島津製作所が生ま れた。それがきっかけだ。日本人は農耕民族で、地域に根差している人が多い ので、そう簡単に意識が変わらない。狩猟民族の外国の人は、簡単に住まいを 引っ越し、新しい環境に適合するのが早い。日本人は土地がベースの事業を営 んでおり、場所を離れて新しいことを行うという気概、気風が少ない。周囲が 海に囲まれ、外部からの刺激が入りにくいという地理的な要因も大きい。 ・このままコロナ後の世界に何もしないで突入すると、間違いなく数年先に危 機に陥る。今回借入した緊急融資も、いつかは返済が始まる。そのときに、今 までの70%の事業規模で返済がまともにできるはずがない。誰が見ても明白な 事実だ。国は中小企業基本法を変えて、生き残れる企業と、生き残れない企業 の選別に入った。菅首相肝入りの新しい会議のメンバーを見ても明らかだ。頑 張る企業は応援するが、じっとしている企業は置いて行かれる。従来は、とり あえずみんなを同じく連れて行ったが、バスの定員というものがあることを、 今回明らかにした。乗り切れない企業は、バス停に残ったままになり、もう二 度とバスはやってこない。そうならないためにも、いい機会なので、自社の事 業を再定義してみることをお勧めする。やるかやらないかは、経営者次第だ。