**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第865回配信分2020年11月23日発行 特別シリーズ:新型コロナウィルス感染パンデミック対策その37 コロナ後世界と社会の課題その8 〜新しいことを始めるには経営者の勇気を〜 **************************************************** <はじめに> ・最近、相次いで新規事業の相談があった。背景はいろいろだが、いずれもこ の新型コロナ対策で、落ち込んだ売上を挽回するべく、何か新しいことをやら ないといけないという、いわば切羽詰まった理由からだ。どの案件も後継者の 方からの相談で、危機感は相当なものだ。当然、今後の経営を担うわけだか ら、自分たちに火の粉が降りかかるからだ。その割に、聞いてみると現在の経 営者、経営陣の危機感が希薄なように感じられる。その点が、後継者の方も不 満でもあり、現在の経営者の動きが鈍いという。現在の経営者は、相談者の父 親がほとんどだ。つまり、親子間での意識の乖離が原因なのだ。どうしても、 現在の経営者と後継者との間で意識のギャップが埋まらない。 ・現在の経営者は30年くらい社長をされている方が多い。あるいは、創業者で ある場合もある。後継者は男性、女性、様々だが一応に今後数年以内に承継を 予定されている。ところが、今年想定外のコロナという災難が降りかかった。 当然業績は大きく落ち込み、4月から例年の半分以下の業績になった企業も あった。ここ少し挽回はしているが、蒸発した需要は戻らないし、先送りに なった需要もいつ戻ってくるか分からない。現在は雇用調整助成金と家賃補給 金、その他の補助金などで糊口をしのいでいるが、いつまた業績が落ち込むか 分からない。とりあえず緊急融資を申し込み、手元資金に当分不安はない。だ から、今の間に次の手を打たないといけない。緊急融資もそれに使いたい。 ・しかし、いくら説得しても現在の社長の意識とは合致しない。どちらかとい うと、現在の社長に危機感が乏しい。いつかは、また売上も戻り以前のような 水準に業績は回復するだろう。ここはしばらくの辛抱だ。そのような考えをお 持ちの経営者の方が多い。どれくらい辛抱、我慢が必要かは人によりけりだ が、短ければ1年、長くても2〜3年我慢すればいいだろうと、安易に考えて いる方が多い。以前にもオイルショック、震災、リーマンショックなど、幾多 の試練を掻い潜ってきた経営者にすれば、今回もしばらく辛抱、我慢すれば、 また元通りになると思っている方が多い。しかし、後継者の方は、全く考えが 違う。今回のコロナショックは経営環境を一変させた。絶対、元通りにはなら ないと思っている。 <結論がいつまでも出ない> ・いずれの会社、企業も、従来は順調に経営されてきた。売上の規模はまちま ちだが、内容的に決して悪くない。借入金もあるが、常識の水準以下に収まっ ている。資金繰りは、あまり楽でもないが、といってバタバタ走り回っている ほどでもない。そこに、このコロナの大群が押し寄せてきた。もう、半年経過 してなんとか以前の70%くらいには戻ったが、そこからの回復が見込めない。 お店によっては、以前からの赤字幅がさらに拡大した店舗もある。そういう店 舗を閉鎖して、出血を止めて、止血して余剰になった資金で新しい事業を始め ないといけない。今が、逆に絶好のチャンスでもある。後継者の立場なら、そ う考えるのが自然だろう。今から30年、自分が面倒見ないといけないから。 ・ところが、現在の代表者、経営者は、そうは考えない。まず、いつかは元へ 戻るだろうという安易な考えがある。そして、完全には戻らなくても、ほぼ従 来の水準に回復するだろうという、甘い読みがある。また、もうそこそこの年 齢になると、以前の若いときほどの元気が出ない。多少、持病もあるからエネ ルギーがそちらに向かわない。おっつけ、気分的には引き気味になり、後ろ向 きになる。新しい事業だから、当面資金は持ち出しになることはわかってい る。現状から、さらに外部に資金が流出するのは嬉しくない。まだ、後継者も そうは経営の経験を積んでいない。自分のほうが、まだ経営者としては先輩 だ。まして、WEBなどを駆使した新規事業など、内容がぴんと来ない。 ・少し年齢が高い経営者は、何回説明を聞いても内容がよく分からない。若い 後継者は一生懸命説明しようとするが、知識の土台が違うから理解が難しい。 時間が経過して、途中から聞く意思がなくなり、最後は結論が出ない。出ない が後継者の意向を汲んで、やってみろという結論になればいいが、ほとんどの 場合は結論が出ないまま話し合いが終わってしまう。後日それで、どうなった のかを聞くと、あいまいな返答しか返ってこない。やるのか、やらないのか、 一応どちらでもいいが結論が出ればそれなりに対処もできるのだが、なんとも 中途半端な結論になると、次のステップに進めない。後継者のフラストレー ションがたまり、イライラが募り、挙句の果てには経営者に対しての不信感に つながる。 <新規事業にはリスクがある> ・後継者はこれから20年から30年くらいの長い期間、経営の重責を担う立場 だ。当然、このコロナの惨状は理解できても、自分が引き受ける段になって少 しでも業績が改善し、借入金が減っているほうが嬉しいに決まっている。確か に売り上げは2割から3割ダウンした。しかし、このダウンは現在の経営者の 100%責任とは言えない。今回のコロナショックは、いわば天災のようなもの だ。わかってはいるけど、数年後に控えた事業承継に対して、どうしても自分 の立場で考えてしまう。なるべく業績を良くして、借入金を減らしたい。その ためにも、いま新しい事業に取り組んで業績の改善、改革、磨き上げをやらな いと、自分が担当するときに大変なことは、重々承知している。 ・ある企業では、長男が承継する予定だったが、理由は不明だが承継する意思 を放棄して、会社から去ることを選択してしまった。困った父親の社長は、そ れまでほぼ専業主婦だった長女に白羽の矢を立てて、後継者として会社に迎え 入れた。しかし、社業の経験がほとんどない長女が、すぐに経営者の肩代わり ができるわけがない。まして、新規事業などとんでもない。まずは、会社の実 態を掌握するのに相当のエネルギーを割かないといけない。そうこうするうち に時間もかかり、どんどん経営状況は悪くなる。一定程度悪くなると、立て直 しを図るにも、相当の時間がかかる。悪くなるのは早いが、良くするのは数倍 の時間がかかる。経営の改善とは、そういうものだ。 ・特に、あまり経営経験が乏しい後継者が新規事業を立ち上げるのは大変だ。 新規事業は市場を変えるか、提供するサービスを変えるか。市場も提供する商 品サービスを変えるか。普通は、いきなりあまり大きなリスクは取りたくない ので、まずはわかっている市場の方か商品を変えるのが王道だ。市場を変える とは、いままでの対象顧客と少し異なる属性の顧客に商品やサービスを提供す る。当然、違う顧客なので商品やサービスの中身を変えないといけない。中年 女性をターゲットにしていた商品なら、20歳代の女性を新規のターゲットにす るとすれば、大きくティストを変更する必要がある。その際に従来のブランド イメージを残しながら、新しいコンセプトを提供しないといけない。 <すべては経営者の決断> ・このコロナショックに対応するには、従来通りのビジネスモデルでは難し い、早晩行き詰るまるとは、誰もがわかっている。わかっているが、では何を どうするのかは結論が出ない。当然、すぐに出るものではないが、出ないから と言ってじっとしてはいられない。特に後継者の気持ちの焦燥感は相当なもの で、いっときも早くアクションを起こしたい。しかし、現在の代表者がそれを 許さない。反対ではないが、イメージが沸かない。自分が理解納得できない と、意思決定できない。不透明な、不確実なものを決めるのが仕事だがそのよ うな場面に今まであまり遭遇したことがない。従来は、先が見えていた。誰も が、なんとなくだが先がよく見えていた。 ・このコロナショックで、先行きはもっと不透明になった。何をすればいいの か、分からない。とにかくじっとしていて、この国難が収まるのを待つしかな い。自分にはそういう結論しか見えない。いくら後継者が、こうやりたい、あ あやるべきと進言してきても、決断できない。その意見には、現在の体制を大 きく変更することが盛り込まれている。不採算店の閉店、高齢者で生産性の低 い人の早期退職、仕事のやり方の大きな変更、事務所の移転、借りている倉庫 の解約など、多くの痛みを一時的に伴う変更が必ず入っている。ここで、現在 の経営者と後継者の意見がぶつかる。そして、時間ばかり経過して、議論は 堂々巡りになり、いつまでも現状のままと変わらない。 ・過去に第二創業的に新しいビジネスモデルで成長した企業を冷静に見ている と、後継者がリスクのある提案をしたときに、先代の経営者が勇気をもって決 断している。そして、後継者もその勇気ある決断に対し、一生懸命応えようと して努力して結果を出している。そういう企業は新しいことにチャレンジする 企業風土、文化が根付いている。決断しない企業には、現状を変えようという 勇気がない。変えることをためらうし、変えることをよしとしない企業風土、 文化がある。いつまでも、同じように同じことを同じやり方でやっている。疑 問を持つ習慣がない。そのような企業では、このコロナの難局を乗り切るエネ ルギーが出ない。まず、今の経営者の方が変える勇気を持つことが大事だろ う。すべては、そこから始まる。