**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第867回配信分2020年12月07日発行 特別シリーズ:新型コロナウィルス感染パンデミック対策その39 コロナ後世界と社会の課題その10 〜後継者が向かい合う資金繰り〜 **************************************************** <はじめに> ・企業規模に関係なく、大企業であれ中小企業であれ、事業を継続していくに は資金繰りをきちんと行うことは、必須中の必須事項だ。会社は逆の言い方を すれば、赤字でも資金繰りがきちんとついている間は、倒産しない。倒産する のは、赤字、黒字に関係なく、資金繰りがつかなくなったからだ。発行した手 形が落とせない、買掛金が払えない、未払金がやまのごとくたまっているな ど、要するに資金繰りが行き詰っての倒産がほとんどだ。金融機関への返済が 難しくなっても、相談すれば急に金融機関が企業を潰すことはない。しばらく 返済を猶予してくれたり、減額した返済に一時的に切り替えてくれるはずだ。 早めに正直に相談すれば、親身になって当面の解決策を考えてくれるはずだ。 ・資金繰りをきちんと行うには、まずおカネの現状を正確につかむことだ。現 預金が、どこにいくらあるのか。定期預金になっているおカネはすぐに使える のか。当座貸し越しはあるのか。限度枠はいくらに設定されているか。支払手 形は、いくら振り出されているか。落ちる期日はいつか。買掛金の支払日はい つか。未払金のうちで、どうしても今月末に払わないといけないものは何か。 一番重要なのは、売掛金がいついくら入ってくるのか。それは間違いないの か。月末にかかる場合は、繰り上げて入金があるのか、それとも月末を越えて 先送りになるのか。現金商売なら売掛金の入金は心配しなくてもいいが、掛け 売りなら代金はいついくら入るのか。カードなどの決済代金はいつ、いくら入 るのか。 ・会社の規模がそれなりに大きくなってくると、この入金の確認、チェック、 消し込みと、買掛金の支払い、自動引き落としなどの支払い予定など、結構な 分量の仕事になる。最近では金融機関の口座からWEBでの支払いなどができる から、いちいち金融機関の窓口に出向く必要がないが、以前は月末前後に支店 の窓口に行かないといけないという状態だった。また、売掛金の集金という業 務があり、営業や事務の担当者が得意先に回収に出向き、そこで手形や現金を 受領してくるという仕事もあった。振り込みにしてくれれば簡単なのだが、敢 えてひと月に1回くらい顔を見せろという得意先も結構あった。成岡もいくつ かの得意先の集金と支払に毎月末に出向いていた。現金でその場で数えないと いけない得意先もあった。 <ぎりぎりの資金繰りは危ない> ・まずは、営業から売上の資料をもらい、その得意先ごとに入金の日にちが決 まっていればその日にちのところに得意先名と金額を入力する。営業系のソフ トから自動的にデータが作成される場合もある。大事なことは得意先からの支 払日が決まっているかどうかだ。決まっていれば、その日付にデータを入れれ ばいいが、例外があって支払日が週末や月末、年末年始、5月や9月の連休な どの場合、前にずれるのか後ろにずれるのかだ。普通なら支払いは前にずれる のだが、必ずしもそうでもないときがある。やっかいなのは、支払日が決まっ ていない、あるいは不定期な得意先だ。また、常に売上が計上される得意先は いいが、めったに売上が計上されない得意先もある。得意先の経理担当者も忘 れている。 ・官公庁や大学、学校関係は、特に気を付けたほうがいい。成岡の失敗談で言 えば、学校関係は結構春休み、夏休み、冬休みが長い。たまたま、支払日が夏 休みにかかって、決まった日にちに大きな金額の入金がない。慌てて真っ青に なって、電話で先方の担当部署に照会したところ、経理の責任者の部長が夏休 みの海外出張で、承認印がもらえないから払えないという返事だった。大きな 金額だったので、その入金をあてにして支払いなどを段取りしていたので、血 相変えて掛け合いに行ったが、とりつくしまもない。大学にしてみれば、当然 のことだと平然とされたが、当方にとってはとんでもない事態だ。事前の通知 も連絡もない。いないから仕方ないという一点張りで、とうとう折れた。 ・幸い、金融機関には当座貸し越しの枠がまだあったので、何とか支払日まで に資金調達はできたが、それ以来学校関係、特に大学からの入金に関しては、 非常に懐疑的になり疑心暗鬼になってしまった。しつこいくらい確認し、それ でも入金されるか不安だった。それくらい入金が間違いなくあるかどうかとい うのは、企業の資金繰りに関しては重要事項だ。現金商売の場合は、入金は現 金そのものだからあまり気にする必要はないが、この掛け売り請求入金方式の 場合は、特に気を付けないといけない。つまり、少々の入金のずれをカバーす るくらい、手元の現預金を手厚く持っていないといけないということだ。ぎり ぎりの資金繰りは、何か少しのずれが生じると一気に破綻する。リスクが高 い。 <入金出金の情報が大事> ・支払いに関しても、定常的な支払先に関しては、ほぼ支払日が決まっている はずだ。買掛金の支払いもそうだし、その他の費用の支払いも、ほぼ決まって いるはずだ。大きい金額は給料と社会保険料、そして自動的に落ちる家賃など だろう。人数が多いと源泉税の納付も毎月ある。意外と見落とすのは、たまに ある大きな金額の支払いだ。毎月あればきちんと対応するはずだが、年間に数 回しかない税金や労働保険、損害保険料などはたまにしかないから忘れている 場合がある。賞与などは、毎年7月と12月にあると決まっているから、それな りの段取りもできるが、突然の多額の出費があると対応が難しい場合がある。 社長が突然経理の部屋に来て、得意先や仕入れ先へのおカネの調達を言われた ことがあった。 ・その得意先の窮状は聞いてはいたが、そこまで痛んでいるとは思わなかっ た。前の晩、そこの会社の社長から電話があり、いやな感じだったが翌日当社 の社長に直接談判に及び、社長もやむなく承諾したようだ。社長同士の話しだ から、経理の担当者が断れない。それも、翌日に相当多額の資金だった。その 資金調達で、相当無理なやりくりを算段することになる。これで、ほぼ終日業 務が停滞したことがあった。社長にしてみれば、得意先に貸しを作ってあとの 取引に好影響を与えるはずだとの目論見があったのだろう。気持ちはわかる が、勝手に決めるなといいたいが、トップの承諾したことだから仕方ない。お 役目とはいえ、気乗りのしないムダな業務だと思っても、やらないわけにはい かない。 ・支払い日も月末、年末の場合、どうするかを決めておかないといけない。意 外とカード払いが自動で振替になる金額も要注意だ。これらの細かい入金や出 金を経理担当者がどれくらい子細につかんでいるか。営業や役員、発注担当者 からの情報が的確に伝わっていないと、わからない。小さい会社なら同じ部屋 に、経理担当者も営業担当者も調達担当者も一堂に会しているから、よくわか る。ところが、同じフロアーにいないと、別の階にいるとそれだけでコミュニ ケーションが格段に悪くなる。ちょっとした連絡ミス、手遅れ、間違いなどが あると大きなトラブルに発展する可能性が高い。そういうことが続くと、いつ か致命的なアクシデントが起こる。そうならいように、どうすればいいかを考 えないといけない。 <必ず経験しておく> ・この資金繰り、資金調達、バランスを担当するのは経理担当者だろう。ある いは小規模な会社の場合は、代表者の奥さんが担当している場合が多い。後継 者も、ゆくゆくは誰かに任せるのもいいが、一度この資金繰りの実務をやって みると、会社のおカネの流れが手に取るようにわかる。いつ、どれくらい資金 が要るのか、足りないのか。足りない時は、何かの方法で足りない分を調達し ないといけない。それを、どうするか。意外と少額の運転資金は、金融機関は 貸してくれない。数百万円ならいいかもしれないが、それより少額の不足資金 は自分で調達することになる。よく、中小企業でよくある月末の会話は、経理 担当者が社長に月末に百万円くらい資金が足りないと言ってくるケースだ。 ・この百万円くらい足りないというケースは、ほとんどは社長が自らのおカネ をいったん会社に入れることになるだろう。そして、翌月に余裕ができたとき に返してもらうことになる。ところが、会社の業績が悪いと、なかなかこの返 済がままならない。どんどんたまってきて、そのうちにとんでもない金額にな る。よく決算書に計上されている代表者からの借入金だ。そもそも月末に代表 者から資金を入れてもらわないと月末を越せないという状態がおかしい。しか し、現実にはどうしようもない。資金繰りはきれいごとではない。1円でも足 りないという状態は致命傷になる可能性がある。この資金繰りの作業や業務 は、一度後継者の方が経験することをお勧めしている。会社にとって、いかに おカネが大事かということだ。 ・支払日に口座に1円でも足りないことがあると致命傷になる場合がある。と にかくおカネに関する業務は、単純なミスは許されない。月末向いて資金繰り に余裕がない場合は、とにかく事故が起こらないように細心の注意を払う。営 業が請求書を出すのを忘れていたいというのは笑い話で済むが、経理担当者が 見落としていましたでは、洒落にもならない。それくらい企業にとっての資金 繰りというやっかいな作業は、実は一番会社のおカネの実態がよくわかる。こ の作業を数ケ月責任もってやり遂げれば、あとは何とかなるだろう。それくら い実習として会社の実態を把握するのに、資金繰りの業務は最適だ。倉庫の実 習の次は、資金繰りを担当する。まさに、会社の生命線の業務なのだ。いい経 験になる。