**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第868回配信分2020年12月14日発行 特別シリーズ:新型コロナウィルス感染パンデミック対策その40 コロナ後世界と社会の課題その11 〜後継者が向かい合う資金調達〜 **************************************************** <はじめに> ・前週のメールマガジンで後継者が経験するべき最重要の業務のひとつは、資 金繰りだと書いた。資金繰りの業務が正確にできるようになると、単なるおカ ネの出し入れである「出納」とは違う資金の出入りの管理ができるようにな る。そして、資金繰りがわかってくると、今度は一番重要な「資金調達」の仕 事が待っている。この「資金調達」をきちんとこなせれば、会社全体の経理財 務の仕事もおおよそ理解できるようになる。会社は資金が回っているうちは潰 れない。資金が足りない、不足状態になって、回らなくなるから潰れるのだ。 だから、足りない時、必要な時に、タイムリーに時機を得て資金が調達できる ようになると、管理面の仕事の大部分は修得したようなものだ。それくらい、 「資金調達」は重要だ。 ・まず、調達の理由、目的を明らかにする。どうして資金が要るのか。要らな いのに借りる人は、まずいない。金融機関から、特段依頼されて借りなくても いいのに付き合いで借入をすることがある。そういうことは例外だが、一般的 には設備資金か運転資金を借りることになる。それ以外の、会社と関係ない必 要な個人的な資金は、会社と完全に切り離して考える。会社のおカネと個人の おカネとを、ごっちゃにしてはいけない。これは、金融機関が最も嫌がるケー スだ。法人としてのおカネは会社のおカネであり、株主や代表取締役の個人の 家庭や実家のおカネをごちゃごちゃにしてはいけない。この単純なルールが結 構守られていない。社長個人が掟破りをしていることが多い。 ・資金調達で最もわかりやすいのが、設備投資の資金を借りる場合だ。設備投 資は、いろいろとあるだろうが、とにかく高額の機械や設備を新たに購入す る。古い設備が老朽化し、あるいは故障がちで、日常のオペレーションがまま ならない。そんなときは、少々高くついても新しい設備に更新したほうがい い。あるいは、最近の新しい機械は非常に生産性が高い。今まで4時間かかっ ていた作業が、新しい機械だと2時間もかからない。あるいは、政府や国が決 めた新しい管理基準をクリアーするためには、設備の更新や新設が必須になる 場合がある。ガソリンスタンドの地下ピットの工事や、食品関係のHACCP対応 などは典型的な例だ。事業を継続するなら、どうしても投資が必要になる。 <老朽化設備の更新投資は利益を生まない> ・理由が明確なので、判断はぶれないが、金融機関から資金調達できるかどう かは分からない。必要な金額、返済の期間と金額が妥当かどうかを資金提供す る側、つまり金融機関側が審査する。この審査を通過しないと、資金は調達で きない。従来から業績が順調で、返済に格段の問題が認められないなら、特に 注意する必要はないが、現在の業績が低迷していると難しい場合がある。低迷 の程度にもよるが、新規で調達する以前に、現在も多額の借入がある。その返 済すらままならないのに、新たに設備投資とはいえまた借入金が増加し、返済 金額が増える。その増えた分、売上が増えて利益も増加し返済が可能になるか どうか。相当長い時間経過すればいいだろうが、設備投資した直後などは難し い。 ・事業の利益で生み出すキャッシュから返済にいくら回せるのか。計算はでき るが、果たしてそれが実現可能か。計画が絵に描いた餅ではダメだ。実現可能 性が高くないといけない。絵空事の計画は誰でも描ける。売上がどんどん増え る計画なら返済も容易だろう。しかし、現実は厳しい。まして、今回の設備投 資が売上を増やして、利益を増大し、返済原資を間違いなく生む投資なら納得 できる。しかし、現実はそれとは真逆で今回の設備投資は老朽化した設備の単 なる更新だ。とてもそれで利益を生み出すとは思えない。例えば古くなった空 調機の取り換え。屋上の防水設備の痛んだところの大規模修繕。外壁が相当痛 んだのでやり直しの工事。これらの設備投資は利益を生まない。しかし、やら ないといけない。 ・車両の入れ替え更新も同じだ。社長の使用する車が新しくなったからといっ て、売上が増えるものではない。会社というものは、規模が一定以上になる と、こういった利益を増やさない投資というものが結構必要になる。そのよう な設備投資の資金調達は非常に難しい。このような設備投資は、どちらかとい うと大規模な修繕のようなものだ。マンションなどで行う修繕積立金のような 資金をプールしておかないといけない。故障してから慌てて資金調達をすると いうドタバタの経営はご法度だ。当然、日常から手当てをしておかないといけ ない大規模な費用であり、その積立が日常出来る運営を日ごろから心がけてお かないといけない。そういうことを采配するのが経営者の務めなのだ。 <設備投資は必ず事業計画を> ・利益を生み出す可能性がある設備投資なら、その実際の計画を考えてみる。 まず、新規の設備の見積もりが要る。購入業者から見積もりを取るが、複数か らの購入を前提に、1社からのみではなく相見積もりを取るのが普通だ。時間 がないから馴染の業者からのみにしないで、高額な場合ほど複数の見積もりを 比較する。安いからいいというものではなく、ほとんど値段に差がないなら、 従来付き合いのある企業からでいい。要するに、決めた根拠をしっかり持つと いうことだ。次に要求スペックを決めて、オプションの値段がどれくらいかか るかを試算する。次に納期を確認し、稼働できる日程を明確にする。そして、 その機械が入ったら、次にどういう作業をするのかを段取りする。 ・新規の設備が稼働開始して、売り物になる製品が生産出荷できるまでにどれ くらい時間がかかるかを慎重に見極める。高度な機械ほど正常に稼働するのに 時間がかかる。そして、その製品が売上の増加に寄与して、最終の利益を生み 出すのにどれくらい時間がかかるか。大事なことは、売上と利益だけでなく、 その売上や利益が資金収支にどれくらい早く寄与するか。いくら売上が増加し ても、実際に回収できて資金繰りに寄与し、その原資から返済できるまでにど れくらい時間がかかるかを、保守的に計算する。決して楽観的に見てはいけな い。入るおカネは遅めにみて、払うおカネは早めに見ておくことが大事だ。決 して逆に考えないことだ。これが逆になると、すぐに資金ショートに直結す る。 ・減価償却費という費用の計上も忘れない。購入代金はすぐに払うことになる が、その多額の費用を機械の耐用年数で割り返して、毎年の費用に計上する。 定額と定率とがあるが、ここではわかりやすいように定額と考えると、毎年同 じ金額を一定年数費用に計上する。しかし、費用には計上するがおカネは先に 払っているので、その減価償却分のおカネはキャッシュとして手元に残ってい る。これは返済原資として利用できる。そのような費用も含め、増加する売上 や増加する原価、費用を計算して、どれくらいの返済原資が捻出できるかを見 積もる。このような事業計画を携えて、設備投資の資金調達を金融機関に依頼 する。多分に計画通りには行かないだろうが、それでも投資の段階で会社がど う考えたかの証拠になる。 <運転資金不足は本来おかしい> ・一番やっかいなのは、運転資金の調達だ。本来、運転資金の調達はないこと が正しい。たまに、特段の理由で臨時の出費がかさばり、一時的に資金ショー トを起こす場合に、短期間での借り入れというケースはある。例えば、賞与の 支給や法人税の前納などの場合だ。一時的に一定額を借入して、半年間くらい のスパンで返済する。これは、妥当な運転資金の借入だ。本来、手元資金で賞 与の支給もしないといけないのだが、できない場合がある。あるいは、大きな 受注があり、これの材料や原料を先に買わないといけない場合だ。受注見合い の資金需要だから、使途が明確であり妥当性がある。こういう説明のつく短期 間の資金調達は、金融機関も相談に乗ってくれる。問題は、業績がじり貧で売 上が漸減し、本当に手元の資金が足りないケースだ。 ・こういうじり貧状態の運転資金のショートはいただけない。あらかじめ、何 らかの対策を施し手を打っておかないといけない。経理担当者は気が付いてい たが、社長が脳天気でのんびりしていたので、苦言にも耳を貸さない。大丈 夫、困れば自分のおカネをつぎ込めばいいと危機感がない。本来、事業での資 金不足に代表者個人や一族からの借入金でカバーするのは禁じ手なのだ。それ が、堂々と正しいことのように行われている。金融機関も少額の貸し出しは非 常にしにくい。一定金額以上なら正規の融資という方法で処理するが、100万 円くらいの資金ショートには正常の手続きの融資は難しい。しかし、実際には それくらいの月末の資金ショートはよくあることだ。これくらいの金額の資金 調達は不可能に近い。 ・資金繰りがわかってくると、先手、先手で資金調達を考えておかないといけ ない。手元の現預金が潤沢で、ノーマークでおカネの運営をできればいいが、 今回のコロナショックのような異常事態が起こると、相当なスピードで手元資 金が流出していく。一方で、設備投資の結果、一定金額の返済は継続して行う 必要がある。売上も、このようなご時世ではそう簡単に伸びるとは思えない。 融資の相談に行くと、最新の試算表と今後の見通しを必ず要求される。貸す側 にしてみれば、本当に返済できるのだろうかと、疑ってみたくなるのは人情 だ。資金調達には時間がかかることを肝に銘じるべきだ。他人からおカネを借 りるのだ。安易に考えてはいけない。借りるなら、まずしっかりした今後の見 通し、計画をきちんと立てること。それを数字に落とし込むこと。そして、そ れを説明できることが重要だ。後継者たる人は、一度はこの山を乗り越えるこ とだ。