**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第871回配信分2021年01月04日発行 年始特別号 〜この1年を乗り切る〜 **************************************************** <はじめに> ・2021年が始まった。今年は日本経済にとっても、誰にとっても試練の年にな るだろう。昨年の年末ごろからずっと感染者数の高止まりが続いている。いま さらここで言うまでもないが、医療体制は崖っぷちだし、いつ緊急事態宣言が 発出されてもおかしくない状況だ。昨年の4〜6月の悲惨な状況が頭にあるの で、政府はおそらく何がなんでも緊急事態宣言だけは避けたいのが本音だろ う。ここで緊急事態宣言が出たら、おそらく7月からの東京五輪開催の可能性 は皆無に近くなる。何としても、それだけは避けたい。しかし、感染者数の増 加、重症者数の急増、医療崩壊の警鐘など、四面楚歌の状態だ。感染の拡大を 甘く見て、専門家の意見を無視して、経済の復興を急ぎすぎたか。 ・IOCのバッハ会長が来日し、施設を視察し、開催に自信を持たせた発言を引 き出したのも、演出だから仕方がない。しかし、東京五輪の開催決定は後世に 禍根を残さないようにしないといけない。何月までにどのような状態になって いなければ、中止もあり得ると宣言しないといけない。ドイツのメルケル首相 のように自分の言葉で原稿を見ずに語らないといけない。訴えないといけな い。官僚の書いた作文を読んでいるようでは、らちが明かない。いまは危機の 真っただ中にあるはずだ。戦時体制の日本だから、普通の状態ではない。思い 切った決断をして、正しい方向にもっていかないといけない。周囲のご機嫌伺 をしている場合ではない。トップしかできない決断をして、いったんマイナス を覚悟して復活を目指さないといけない。 ・GOTOの失敗も大きい。少し焦った判断のミスもあった。平時ではない戦時だ から、一層慎重かつ大胆な決断が必要だ。経済の復興が優先か、命をつなぐこ とが優先か。確かに経済が停滞すれば、自殺者も増え、倒産企業は増加し、失 業者が増えるだろう。今までの社会システムが機能しなくなる。何もかも前提 が覆り、経験したことのない事態に遭遇している。だから、余計にリーダー シップを発揮し、この未経験の国難に立ち向かわないといけない。東日本大震 災のときもそうだったが、トップリーダーが決断を避ける傾向がある。あとさ きのことは差し置いて、目先のリスクに敢然と立ち向かう姿が必要だ。トップ が迷走していては始まらない。周囲は背中をよく見ている。決断に自信を持つ ことが大事だ。 <次の時代にスタートダッシュできるか> ・この経済の停滞を横目に株価だけが高騰している。経済回復の期待値もわか るが、これは明らかに株価バブルに近い。ワクチンの開発が遅れ、東京五輪が 中止になったら、一気に株価が下落する可能性がある。危うい株高の状態は何 としても落ち着かさないといけない。3万円を超えるという予想をする経済評 論家もあるが、株価は景気の先行指標。思惑と欲で株価が正常な値を示さない のは、明らかに異常だ。多くの投資家が投資する対象を持ちえないので、どう してもアメリカと日本の企業への投資に向かうのだろうが、日本経済は明らか に闇の中。出口の見えないトンネルの中なので、株価が暴落する事態だけは避 けたい。有効な経済対策が欠かせない。為替が乱高下するのもよくない。 ・中小企業の経営状態は不安だらけだ。政府のGOTO経済振興策も空振りに終 わった。次の有効な手が打てていない。昨年は緊急融資や持続化給付金で何と か資金繰りをつなぐ施策で倒産数の増加を回避した。しかし、今年はそのツケ が回ってくる。給付金や補助金が枯れたら、バタバタと倒れる企業が続出する はずだ。観光産業やサービス業で生産性が低い業態は、どうしても労働集約型 になる。そういう企業ではなかなかイノベーションや技術革新にはついていけ ない。DXだITだと世間が叫んでも、自社のホームページすらまともに運営でき ない中小零細企業では、なかなかこのコロナ禍での脱出は難しい。ここに来 て、資金繰りに困窮し、いよいよ店を閉じる準備に入る企業が増えるだろう。 ・この困窮の時間がどれくらい続くかは分からないが、おそらくワクチンが普 及し変異性のウィルス対策が整ってくるのに2年くらいはかかるだろう。そう なると、この期間中に次の対策を打てる企業と、とにかく必死に資金をつない だだけの企業とは、大きな差が出てくる。この間の時間と資金を未来に投資で きた企業は、次の時代に飛躍できる可能性がある。しかし、しのいだだけの企 業では次の時代のスタートでダッシュができない。DXや5Gの時代になり、い ろいろな便利なツールも多く開発されている。しかし、経営陣の頭が堅いと、 なかなかその新しい環境に移れない。国は数年前から方向は示している。特 に、今回決まった2050年のカーボンニュートラルの決定はわかりやすい。これ は大きなひとつの方向だ。 <経営環境は様変わりする> ・まず、環境対策にどれくらい投資ができるかだ。どんな企業でもこの流れに 逆らうことはできない。単に自動車がEVに置き換わるだけではない。部品、電 池、ボディなど多くの周辺の機器や材料が大きく変わる。そして、EVが進むと 同時に自動運転の環境がどんどん変わってくる。そして、さらに燃料電池自動 車、つまり水素で走る究極のエコカーが普及してくるだろう。ガソリンスタン ドの淘汰がさらに進むと思われる。当面ガソリン車が急になくなるわけではな いが、長い先を考えると次第にガソリンスタンドは大手に集約されるだろう。 10年ほど前に一度ガソリンスタンド淘汰の時代があったが、そのサバイバル ゲームが再来する。空地の有効活用も進むだろう。特に、交通アクセスのいい 土地は売りだ。 ・この自動車業界を筆頭にカーボンニュートラルの時代になってくると、多く のビジネスが変わってくる。これをチャンスととらえるか、ピンチととらえる かはその企業のビジネスモデルによるが、いずれにせよ経営環境が大きく変わ ることは間違いない。人が集まってする労働集約型の企業モデルから、分散型 の企業モデルに変わる。都市部に集中していた人口密集から、地方への分散が 徐々に進むはずだ。人口10万から30万くらいの地方の中堅都市などが格好の移 住先になるだろう。子育て環境がよければ、高校までは地方都市の方が住みや すい。住まいのコストが格段に違うので、他の消費に回せるおカネが相当異な る。住まいのコストは究極の固定費だから、これが相当違う地方の中堅都市は ねらい目だ。 ・地方で暮らす場合は、移動手段が欠かせない。そして、公共交通へのアクセ スのいい場所がお勧めだ。教育、医療などの環境が一定のレベルなら、過密の 大都市で暮らす必要はない。消費はほとんどがWEBの通販でカバーできる。そ うなると、商店街や小売店も対策を考えないといけない。ネット通販で手に入 らないその店独自の商品やサービスとは何か。逆に、移動体に商品を積んで、 顧客の元に売りに行くビジネスもある。地方都市で交通のアクセスの悪い環 境、ネットが駆使できない高齢者などはこのような移動体のサービス提供が欠 かせない。お客さんが店に来店するビジネスモデルは、早晩変革を迫られる。 美容院、散髪屋、飲食店、小売店など、顧客が来店してサービスを提供するビ ジネスは様変わりする。 <社会や世間との関係を重視する> ・製造業も次第にビジネスモデルが変わってくるだろう。土地、建物、機械が ないと製品は製造できないが、大規模な資産がなくても小規模でも付加価値の 高い製品が生み出せる環境と独自技術があれば、小規模の企業でも高付加価値 の製品は生産できる。3Dプリンターも価格が圧倒的に下がってきた。NCの高 い機械を買ってもてあますなら、数台の3Dプリンターで生産したほうがい い。設備投資も従来の常識を疑うことが大事だ。果たして、10年後の自社のビ ジネスの環境はどうなっているか。これを考えるには、次世代を託す後継者の 若い世代で考えたほうがいい。サービス業であれ、製造業であれ、小売業であ れ、卸売業であれ、今後10年先を考えるなら若い世代に託すべきだ。 ・継続して成長できる経営資源がないと、このアフターコロナの厳しい経営環 境から抜け出せない。継続して事業を営むことができる要件は、まず投資でき る資金が確保できていること。赤字の穴埋めや過剰な借入金の返済に窮してい るようでは無理。残念だが資金の潤沢な企業に吸収されるか、事業を止めるか という究極の選択を迫られる。次に、10年後、20年後を見据えて経営を託せる 後継者がいるか。また、その周辺を固めることができるスタッフがいるか。現 在の事業領域に固執するのではなく、柔軟にこのアフターコロナに対応する事 業に軸足をシフトできるか。急にはできないから、今から徐々に新しい事業領 域に出ていかないといけない。キーワードは持続可能な事業であり、デジタル と地球環境だろう。 ・まず自社の利益だけを考える経営は早晩行き詰る。まさに近江商人の言う 「三方よし」の経営スタンスがないといけない。それも、自社、利害関係者と いう2軸よりさらにいっそう社会や世間という軸が大事になる。世のなかに貢 献できる事業領域を持たないと、今後の持続可能であり継続可能な企業運営は できない。以前の自社のみの経営を考えればよかったのから、社会との関係性 を重視し、従業員に誇りを持たせられる事業に転換していかないといけない。 中小企業の社数が多いという議論があるが、社数の問題より営んでいる事業の 価値が評価されるのだ。そのためには、社会や世間、大きくは日本や地球との 関係を考えた事業経営にならないと、中小企業も厳しい。