**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第872回配信分2021年01月11日発行 年始特別号その2 〜2回目の緊急事態宣言への対応〜 **************************************************** <はじめに> ・首都圏での二度目の緊急事態宣言が発出され、関西圏でも同様の宣言が発出 される可能性が高くなってきた。感染者数が高止まりして減少に転じる傾向が 見られない。このまま毎日過去最大の感染者数を更新していくと、いずれ遠く ない将来に医療機関が悲鳴を上げる。こういうことはそうなってから対処して いては遅いので、今回の緊急事態宣言も止む無しとの印象が強い。現に、周囲 の近いところで感染者が現れたという情報が、頻繁に飛び交うようになった。 知り合いの人の誰それさんという、非常に身近な人の名前まで出てくるように なった。これくらいの確率で感染者が増加すれば、どんなところで感染しても おかしくない。それくらい、日常生活に不気味にウィルスが侵入しつつある。 ・いろいろなイベントが縮小になったり中止に追い込まれたりしている。成人 式などは自治体で扱い方が異なり、混迷を深めている。人命第一とはいえ、こ の成人式に一生でただ一度の思い出にと、相当高価な衣装を奮発した親御さん もあっただろう。レンタルの着物店、美容院、写真館など、関連した産業は多 い。飲食店の営業時間もどんどん短くなった。20時までだとおそらく居酒屋に 飲みに行くのは避けるだろう。よほど段取り良く仕事を切り上げて、18時に職 場を出ても、ラストオーダーが19時半だとほとんど飲んだ気はしない。つま り、居酒屋に行くなということだろう。複数人数での会食はご法度と言うこと か。居酒屋以外の飲食店も同類とみなされている。影響は相当に大きい。 ・4月から6月にかけての第1回の緊急事態宣言のときは、ほとんどのいろい ろな店舗が休業した。開いていたのは食品を扱うスーパーやコンビニくらい だった。デパートも地下の食品売り場のみで営業し、それ以外のフロアーは閉 めていた。京都の繁華街四条通りも閑散としていた。祇園を中心にした花街な ども、ひっそりとして気持ちが悪いくらい静かだった。今回はそこまではいか ないだろうが、それに近い状態になりかねない。学校が休校にならなかったの が、せめてもの救いだろう。前回のときは社会人大学院の担当する講義を、急 にリモートでやれと言われて、当初相当面食らった。講義も混乱したし、果た してこれで十分通じているか心配だった。幸い、無事に講義は15コマ終わった が、今でも反省点は多い。 <実態をつかむことが大事> ・飲食店の周辺にいろいろな物資を納めている企業も、影響は大きい。食材、 資材、飲料、包材など目に見えないところでの広がりは大きい。また、従業員 やパート社員の人も結構な人数がいる。これらすべてをあまねく網羅的に救済 するのは難しいことはわかるが、彼ら、彼女らに瑕疵はない。今回のコロナ禍 は天災に近い。天変地異に近い。誰を恨んでも仕方ない。いまは、粛々と感染 の拡大を防止するのに集中することが急務だ。いったんこの感染拡大に歯止め をかけないと、大きな仕組みが崩壊する可能性がある。ここしばらくは、誰と 言わず我慢の時間だと割り切らないといけないだろう。休業には保証で応え て、この厳しい環境を乗り切ることに集中する。コロナ後のスタートに備える ことだ。 ・業績が悪化し、資金繰りの目途が立たない企業も多い。以前から業績が芳し くなく、借入の返済ができていない企業は、このコロナ禍で追加の借入が希望 通りできない企業も多い。先日お邪魔した企業では、売上が確定しているもの に対する仕入れ資金のみの借入に限定されていた。以前から元金の返済を長期 間停止していたので、緊急融資はさすがに受けられない。受けても返済の見通 しが立たない。どうしてそんなに多額の運転資金の借入になったのかを、聞き 取った情報から分析すると、事情がよく分かった。つまり、代表者が会社の経 営の実態を全くと言っていいほど、つかんでいなかった。仕入れの材料原価が いくらで、材料以外に製造の費用がいくらかかっているのか。つまり売上原価 がいくらかがわかっていない。 ・当然その次は粗利がいくらかだ。なぜ分からないかというと、決算書では売 上が全社のトータルでしか表示されていない。主要な得意先ごとの売上は、決 算書にはない。これは経営者が手元で管理するしかできない。売上が分かれて いないから、それぞれの原価がいくらで、粗利がいくらで、管理費がいくらか かっているのか分からない。調べたところ、最も売上の大きい得意先だけを取 り出してみると、計算上は赤字になった。最も金額の大きい得意先が最終赤字 だと、あとどう頑張っても追いつかない。それも結構な額の赤字だ。もう20年 くらい条件交渉も一切なく、上代の値段、仕切り価格などもずっと同じだとい う。材料費は上がり、従業員の給料も上がっている。その分を価格転嫁できて いない。 <複数の事業の柱を持つ> ・誰もこの事実を指摘しなかった。経営者に意見ができる雰囲気ではなかっ た。気が付いていた人もいた。一番は奥さん。奥さんは経理をしていたので、 感覚的に最も売上金額の多い顧客は赤字であると喝破していた。それを社長に 進言しても、却下された。何回も同じことを繰り返し進言したが、一度として 取り合ってくれなかった。今回、ここまで追い詰められて初めてメスがようや く入った。しかし、原因が分かっただけで治療方法が決まったわけではない。 まして治療して治る、よくなる保証は一切ない。それと治療に十分な時間をか けられるだけの余裕がない。相当に乱暴な治療をしないといけないだろう。そ れでも治るかはわからないが、このコロナショックが治療を開始するきっかけ になったことは事実だ。 ・今回のコロナ禍で痛んでいる企業が共通している特徴は、売上がひとつの事 業や得意先に集中しているということだ。複数の少し異なる事業があると、ひ とつが少し痛んでも他でカバーできる。同じような事業だと、今回のようなこ とが起こると共倒れになる。全く異なる複数の事業を社内に抱えている企業も たまにはあるが、それは非常に珍しい。建設会社が飲食事業をやっているケー スは、結構ある。従業員が建設関係に向いていない場合、サービス業に向いて いる社員は結構いる。退職する建設業界に向いていない従業員の受け皿になる だろうという目的で、敢えて異業種の事業を抱えている会社もある。俗にいう シナジー効果はないが、別の意味での目的は明確だ。シナジー効果がないとい けないということではない。 ・以前在籍していた出版社は、創業当初は人文科学系のジャンルのみだった。 歴史、考古、美術、宗教など、自然科学系や経済経営といった社会科学系の ジャンルは全くなかった。それでは心配だったのか、新しいジャンルに出る勇 気があったのか、昭和の終わり平成の初めごろから新ジャンルに果敢に挑戦し た。そして、電気、建築設計などの自然科学系のジャンルの企画を成功させ、 成岡の入社と同時に医学系の出版分野に進出した。主要なジャンルの柱がそれ までの1つから、2つ、3つと増えていき、先行投資も重たかったが業績の安 定化には大きく貢献した。やはり、最低3つくらいの主要な分野、事業領域を 持つことは非常に重要だ。その選択を間違わないようにしないといけない。 <まず変える、変わる意思を持つ> ・金属製密加工なら、主要な得意先を最低3つの分野で持つことだ。医療系、 化学系、機械系など。あるいは、自動車、半導体、化学プラントなど。これは 一朝一夕にできることではないが、長期の戦略で考えないといけない。また、 現場が忙しく仕事が詰まっているときは、新規ジャンルの進出などは難しい。 今回のコロナショックのように立ち止まる時間の余裕があるときでないと、方 向転換は難しい。おおよそ、頭の中に20%くらいの余裕の空間が生まれない と、一般凡人は新しいことを詰め込むことができない。古いものを捨てる勇気 と時間の余裕がないと、新規ジャンルへの進出などは、夢のまた夢になる。今 回のコロナショックは、それまでの自社の事業構造が本当にそれでいいのか と、疑問を突き付けた。 ・ここで目が覚めて、考え方を変えて、新しい柱を立てることに注力すべき だ。今までの事業の赤字を埋めるために、経費の節減を一生懸命考えることも 大事だが、それでは改善はできても、事業構造の変革という改革はできない。 考えれば、100年以上続いている老舗企業の経営は常に会社の姿を変わり続け ることで成り立ってきた。商品の開発、顧客の開発、新市場の創造などは、平 時にできたことではない。戦時の激しい変化の波にもまれながら、苦しんで、 努力して、汗をいっぱいかいて、そしてようやく見えてきた僅かな光を頼りに 進んできた結果なのだ。決して、簡単に新しい分野をゲットしたのではない。 大きな構造変化は、大きな経営環境の変化のときに起こっている。 ・大きな波は10年間隔で起こる。バブル経済の崩壊、金融機関の淘汰、世界同 時テロ、リーマンショックなど、多くの転換点があった。そのたびに、華麗に 見事に会社の姿を徐々に変えてきた企業が生き残っている。古くは戦争の終 結、戦後の高度経済成長を経て、東京五輪があり、大阪万博があった。田中角 栄の列島改造計画があり、オイルショックを克服した。こう考えると、今回の コロナショックもこれらと同じ大きな山になるだろう。しかし、今までと違う のは、人と人との接触を減らさないといけないという大前提だ。このコロナ ショックをいったん受け入れて、会社の体質、中身が変わるきっかけにしない といけない。大変だ、大変だとぼやくだけでは、何も変わらない。変わる勇 気、変えようとする意志を持つことが大事だ。意思のないところに、経営はあ り得ない。