**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第873回配信分2021年01月18日発行 年始特別号その3 〜三次感染に負けない経営〜 **************************************************** <はじめに> ・現在の仕事の主体である京都府事業引継ぎ支援センターの相談も、経営状態 が深刻になりつつある企業や事業者の方からの相談が増えてきた。緊急融資を 受けてこのままじっと我慢してそのうちにやってくる春を待つのか、後継者も はっきりしないのでこの辺でお店をたたむかの究極の選択を迫られている企業 さんが多い。確かに、このコロナショックは想定外だった。しかし、いつかは 後継者問題も片付けないといけない重たい課題だった。その時期が突然ではあ るが、早くやってきた。のどに匕首をつきつけられ、迫られているようなもの だ。止めるか、進むか、さっさと決めろと言われている。結論を先延ばしにし てきたが、ここでとうとう結論を出さないといけない。 ・ゼロゼロ融資といわれる緊急融資のおかげで、想像していたより現状はずっ と倒産件数は少ない。もちろん、持続化給付金も、家賃給付金も、それぞれに 効果はあった。しかし、業種業態によっては、この補助金も焼け石に水で今年 の3月末には運転資金が底をつく企業が続出するだろう。今回のゼロゼロ融資 を未来に向かう投資に使える企業は、生き残ることができるだろう。今回の緊 急融資を過去の赤字の穴埋めにしか使えない企業は、早晩市場からの退場を余 儀なくされるだろう。そういう意味では、今回のコロナショックはまさに令和 時代に入る時点での「踏み絵」になっている。踏めるか、踏めないかで今後の 自社の存続が決まると言っても過言ではない。踏むなら勇気をもって踏まない といけない。 ・徐々に倒産情報が増えてきた。それも、比較的債務残高が多い企業の倒産が 全国的に増加傾向にある。中規模の事業者の倒産だから、ここが引き金になっ て、小規模零細の中小企業の倒産が増加することは間違いない。ここを何とか 乗り切れたとしても、2年3年先には今回の緊急融資の返済が始まる。いまは そんなことを言っている場合ではないから、とにかく目先、目先がよければい い。来月のことを考える暇はないから、とにかく今週、明日、今日を乗り切れ ればいい。3か月先も見えない状態なので、こういう状況では開き直ったほう がいい。最善の努力はしないといけないが、それも限界がある。何か革新的に 変えられるチャンスがなければ、大きく変わることは難しい。それには経営者 の変わる意思が必要だ。 <この機会に不良資産を処分する> ・今回の大きな社会的な変化を、前向きにとらえるか、後ろ向きにとらえるか で、大きく方向性が変わってくる。これだけ大きな社会的激変は、なかなかそ う簡単に経験できるものではない。経営状況は厳しいが、同業他社はさらに厳 しいところもあるはずだ。ここで問題になるのは、過去から引きずる不良債 権、不良資産であり、借入金だ。過去から引きずる不良債権は、一度きちんと 清算したほうがいい。特別損失として計上されるが、発生した都度処理してお けば、ここまで痛むことはなかったという企業は多い。やっかいなのは金融機 関からの借入だ。借りたものは返すことが原則だから、いつかは返済しないと いけない他人のおカネだ。ただ、このコロナの事情でしばらく執行猶予になる 可能性が高い。 ・そのお目こぼしに甘えていると、一向に会社の体質は改善しない。本当にこ れから生き残って事業を継続する覚悟なら、いま一度会社の体力、体質を見直 し、謙虚になってこれからの5年、10年、20年を生き残れる体質に企業を変え ないといけない。いま、まさにコロナウィルスは会社にそういう覚悟があるか という問いを投げかけている。安易に考えて、何とかなるさではなくて、こう する、ああするという経営者の意思を明確にすることが大切だ。その覚悟がな いと、おそらく今後の10年、20年は生き残れない。おりしも、政府の諮問委員 になった某社の社長が中小企業の数が多いと提唱している。どうもその流れの 方向に行きそうだ。そうなると、一層選別と淘汰が始まる。環境はますます厳 しくなる。 ・確かに、事実はその傾向を示している。人口減少は大前提だ。2050年には厳 しいカーボンニュートラルの時代になる。そして、過疎地は一層の過疎にな り、働ける人の割合が減ってくる。高齢者の数は意外とそのころになると全体 の人口が減ってくるので、高齢者の数も増えなくなるようだ。年金財政は破綻 に近くなるかもしれない。暗い現象ばかり書いているが、この事実から目を逸 らしてはいけない。具合の悪い事象も、きちんと真面目に向かい合って認める ことから何事も始まる。我々世代のミッションは、次の世代に事業が継続でき るように環境整備を行うことだ。そのためには、いまはあまり影響ないかもし れないが、資産の入れ替えをしないといけない。不良な資産をどんどん処分す る。 <取引条件を見直す> ・やはり見ていると経営状況が芳しくない企業の特徴は、過去を捨てないこと だ。以前には会社の経営に大きく貢献してくれた得意先も、現在の状態では足 を引っ張る存在になっている場合がある。以前には稼いでくれていた製品や商 品も、時代が進むにつれて孝行息子が稼げなくなり、いつの間にか足を引っ張 る存在になっている。材料費は上がり、人件費も上がり、いろいろな経費も高 騰するなかで、下代つまり納品価格は変わっていない。その商品だけを取り出 して採算を計算していないから、放置されている。おそらく赤字ではないかと 懸念はしているが、交渉しようという気持ちがない。そんなことを言い出した ら、お出入り禁止になるかもしれないと心配が先に立つ。 ・しかし、相手のあることとはいえ、当方もビジネスでやっている。ボラン ティアではないので、やはり赤字の垂れ流しを放置するわけにはいかない。当 然商売だから、利が薄い商品もあれば、しっかりと利益を取っている商品もあ る。粗利と回転率を乗じた「交叉比率」という指標がある。粗利率の高い商品 は当然回転率は良くない。逆に粗利率の低い商品は回転率は高い。双方の指標 を掛け算した数字が「交叉比率」なのだ。経営の教科書には載っているはずだ が、そんな簡単なことすらチェックされていない。そんなことは当然知ってい るし、わかっていると言わないで、謙虚になっていま一度足元を見直すいい機 会だ。売上が減少しているこの時期だからこそ、できることがあるはずだ。 ・売上が半分以下になり、経営的には大ピンチになっているお店も多いだろ う。ただ、この売上減少で逆に生まれたものは、時間だ。暇というより、有効 活用できる時間ができた。今までは、とにかく忙しかった。出勤したら、何も 考えずにひたすら仕事に没頭できた。しかし、いまは来店されるお客さんの数 は激減した。生まれたものは、時間だけだ。この生まれた時間をどのように有 効に使うかは、経営者次第だ。まずは、一度自分の会社、お店の本当の状態を 見つめ直してみる。次に、経営の実態を数字で把握することに努める。数字の 資料はいろいろとあるはずだ。思い付きで作ったものもあるだろう。以前に得 意先に提出した見積書も残っている。このときに想定した利益が果たして実際 取れているか。 <掟を決める> ・浮いた時間を活用して、次の3年、5年、10年に何をするかを決めないとい けない。決めるには、まず現状を正しく認識する。意外と、自分の会社の現状 を数字で正しく認識することは難しい。決算書でもないし、試算表でもない。 総勘定元帳でもないし、金銭出納帳でもない。血液検査の結果表を並べてみて も、自分自身の身体の状態や健康度などが分からないのと同じだ。自分の手元 でその数字を経営指標に置き換えてみないといけない。自社のビジネスモデル をきちんと把握する指標は、実は決算書には記載されていない。そのためには 長年の経営者の経験から、自社なりの経営指標を決めておかないといけない。 意外とそれは簡単なもので、難しく考える必要はない。永年続いている老舗に は、そのような経営指標が決まっている。 ・永年経営が継続できている老舗企業には、以前にこのメールマガジンに書い たと思うが。代々コントロールされている何かの指標がある。絶対にこの数 字、決まり、掟だけは譲らないし守ることが決まっている。それをきちんと 代々守り続けてきたから、いまがある。決してその場その場の思い付きで乗り 切ってきたのではない。老舗の掟は、長年の経営経験から導かれた、いわばそ の会社のバイブルなのだ。しかし、いくら決まっていても守れないルールな ら、何の意味もない。偉いのは、そのルールを代々守り続けてきたからこそ、 100年以上も続いてきた。過去に、明治維新、世界恐慌、太平洋戦争、オイル ショック、バブル崩壊、リーマンショック、大震災など多くの試練があった。 ・しかし、今回のコロナショックは従来の恐慌とは完全に中身が異なる。人と 人との接触に制限がかかるという前代未聞の出来事だ。そういう場面を想定し ていないのが、現状の社会システムだ。しかし、一気にこの前提が崩れた。そ れならそれなりに対処しないといけない。営業時間が短縮されたなら、どこか で何かをしないとカバーできない。会社に出社しないなら、同じレベルのこと をできる環境を整える。次の世代の後継者に早くバトンを渡して、前に進む役 割は後継者に任せ、自分は不良資産の後始末に集中する。そういう役割を明確 にすれば、10年先でも安泰の企業体質になるだろう。ぜい肉を捨てないと、早 く走れない。誰が考えてもわかる簡単な理屈だ。それが自分のことになると、 途端にできなくなる。