**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第876回配信分2021年02月08日発行 コロナ後の再出発に向けて:その2 〜業態転換は思い切った施策を〜 **************************************************** <はじめに> ・予想通りというか、想定内というか、京都を含む10都道府県で緊急事態宣言 が延長された。ほぼ1か月4週間ということだが、影響は大きい。感染者数は 漸減の傾向は間違いないが、医療機関の状態が逼迫しているのは、まだなかな か解消できない。感染者数が減少し、それが医療機関への状態の緩和につなが るには、まだ相当の時間がかかるからだろう。理解できないでもないが、経営 が切迫している事業者にとってはやるせない。出口の期限が分からない、見え ないというのが、不安を拭えない本音だろう。山登りにしても、頂上が分から ない山登りはできない。ゴールの決まらないマラソンは走れない。至極当然 だ。しかし、今回も明確なゴールを見せることができなかった。これでは世間 は納得しない。 ・栃木県が緊急事態宣言が解除された。では、早速通常の営業に戻って、今ま で通りの売上、業績が上がるかというと、ことはそう簡単ではない。宣言が解 除されると補助金がもらえなくなる。今まで時短要請に沿って、20時までの営 業にして一日6万円の補助金が支給されていた。それがなくなる。営業時間が 延びるけれど、はたして今までの常連客が戻ってくるのか、わからない。まだ GOTOキャンペーンは停止されたままだ。インバウンドの観光客も全く戻ってこ ない。この状況で解除されてからといって、過去の通常の売上や利益が見込め るかというと、それは甘いだろう。解除されても、悩みは尽きない。進むも地 獄、退くも地獄の様相になってきた。前門の狼、後門のトラ状態だ。 ・営業時間の延長は他府県も解除されたとしても、徐々に徐々に延長されるだ ろう。厳しく見るなら1時間刻みで延長される可能性が高い。時短営業への協 力金がその場合どうなるのか。おそらく打ち切りになる可能性が高い。今まで 小規模の店舗は、1日6万円の協力金がもらえていたら、それは結構な金額 だった。特に、家族で営業して、自宅が店舗で家賃が要らない事業者の場合、 1日の協力金6万円は大きい収入だった。6万円は利益だから、売上ではな い。1日6万円の利益を出すには、売上に対する利益率が10%と見積もると、 売上=収入は60万円になり、1か月で1,800万円の売上になる。年商では2億 円に相当する。家族で営業し、自宅で小規模で営んでいる自営業では、年間2 億円の売上はあり得ない。 <大きく業態転換する企業もある> ・協力金は規模や従業員数に関係なく、1日6万円になっている。本来は、規 模や従業員数に対して差をつけるべきだろう。それを時間がなかったことを理 由に、規模に関係なく一律にしてしまった。これは公平ではなく、悪平等の最 たるものだ。支援は公平でないといけない。偏ってはいけない。今回のこの時 短に対する協力金は完全に失敗だった。この間、経験のない未曾有のパンデ ミック騒動に政府や官邸は全く無力だった。経験のない事態に遭遇した際の判 断の基準がなかった。10年前の東日本大震災の際の民主党政権も判断がぶれた が、今回も後追い政策になって、効果を検証する余裕すらない。10万円の一律 給付やアベノマスクの配布を検証して、失敗を後世に役立てようという意識が ない。 ・ワクチン接種のスピードと3月10日から開催のIOC総会での東京五輪開催の 可否決定との競争になってきた。しかし、今の状態を冷静に見ると、国民が東 京五輪の予定通りの開催を誰一人喜んでいない。国民に見放されたオリンピッ クの開催あればそっぽを向かれて協力が見込めない。ボランティアが協力しな い五輪の開催などあり得ない。そのうちに参加のアスリートたちから、辞退の 合唱が聞こえてくるのではないか。国民に支持されないオリンピックなどあり 得ない。そこに最悪の森さんの失言事件が起こった。聖火リレーの参加者から も辞退の発言が出ている。これは、奇しくも東京五輪をやめなさいと神様が 言っているのではないかと勘ぐられても仕方ない。 ・しかし、政治がどうあれ東京五輪がどうなろうと、自社の事業、自社の経営 は何とか継続していかないといけない。これを機会に大きく転換しようとして いる企業も多い。京都府南部の企業は代表者が高齢になり、後継者がいなかっ たので同じ地域の異業種の企業に引き継いでもらうことになった。正確には、 男子の子息はいたが社長自身が設立から今日まで苦労されてきたので、子息に 同じ苦労をさすのは本意でないと、第三者への株式譲渡を決断された。幸い、 近隣に製造業の企業が見つかり、この3月末に目出度く結婚式を挙げることと なった。足掛け2年以上にわたる縁談だったが、これくらい時間をかければ相 思相愛になる可能性が高い。一目ぼれだと、新婚生活で破綻する場合もある。 <継続を断念する企業もある> ・京都市内の別の企業は、同業者に株式譲渡をした。引き受けた企業は規模で は圧倒的に大きい。完全にその企業の支配下になり、資金繰りも商品開発も、 販売チャネルもすべてお任せ状態になった。だたひとつその企業が持っていた 独特の販売チャネルがあって、その販売チャネルが非常に貴重だった。その販 売チャネルが今後非常に重要になるだろうとの判断から、大手企業がその販売 チャネルに魅力を感じて、規模では圧倒的に大きいのだが、その企業の株式を ずべて買い取って支配下にした。今後、需要が戻ってきたら、その販売チャネ ルの貢献度は非常に大きいものになりそうだ。売上の規模では、さしたる貢献 はないが、政治的な決断だった。 ・別の製造業は、近隣の県外の企業と現在交渉中だ。その企業も後継者がい らっしゃらない。まだ代表者は60歳を少し過ぎたくらいで、事業承継にはまだ 時間がある。しかし、今から準備して、交渉して、段取りしておかないと、 もっと時間が経過してから始めたのでは遅い。いまから動いておかないと、何 が起こるか分からないし、甘い予測もできない。最終的にはどのような結末に なるか分からないが、交渉する過程でいろいろな変化球がでてくるだろう。し かし、時間があるのはありがたい。時間がないと見切り発車であいまいな中で 決断することになる。前に進むか、後ろに退くかは別にして、その判断を検証 する時間がない。不確かな状況の中での決断になる。ほとんど間違うことが多 い。 ・郊外の某有名観光寺院の門前にある土産物店。以前は多くの観光客で門前は 賑わったが、昨今はGOTOの中止とインバウンドのストップで惨憺たる業績に なっている。自前の土地、建物なので家賃負担がない。従業員もパート社員が 1名なので非常に軽い。固定費の負担が少ないから、毎月赤字になっても代表 者個人がカバーすれば資金繰りは何とかなる。個人事業なので、昨年度は100 万円の給付金がもらえたので助かったが、もう限界に近付いている。しかし、 40年前に必死になって頑張ってお店を立ち上げた。それからいろいろなことが あったが、この店が人生そのものであり、自分の生き甲斐なのだ。このお店を 取ったら、何も残らない。なので、商売を止めようという気は毛頭ない。しか し、続けられない。 <こうありたいというイメージを持つ> ・迷いに迷って、お店のうち離れになっている半分の建物を賃貸で貸そうと考 えた。しかし、借り手が見つかる保証はない。続けるか、止めるか。貸すか、 売るか。究極の選択の結論を出すのが、近づいている。そう考えると、非常に 暗い気分になり、なんだか体調が悪い。これで発熱でもすれば、コロナの疑い で隔離になったら、大変だ。お店を開けても、お客さんが来ないから気が紛れ ない。考えれば考えるほど、気分が落ち込む。いまなら借金がゼロだから止め ることはできるだろう。娘二人だから、後継者もいないし、誰にも迷惑をかけ ずに、止めることができるだろう。このコロナの状況ではどう考えても、最も お店が繁盛した時代に戻ることはない。こう言われると、止められない。それ でも商売を続けましょうとは言えない。 ・このような商売の継続に不安を感じている方は多いはずだ。自分自身で悩ま ずに、いろいろな方にセカンドオピニオンを聞いてみる。自分の気持ちを正直 に言って、他人や親族から見ればどう思うかを聞いてみる。無責任な答えもあ るだろうが、真剣に考えてくれる人もあるだろう。前に進むにしても、後退し て廃業するにしても、長年やってきた商売に何らかの大きな変化を加えないと いけない。その決心をまずはすることが必要だ。とにかく、今のままじっとし ていたのでは、早晩ご臨終になる可能性が高いなら、前に進むか、後ろに退く か、決めることが必要だ。前に進むにしても同じ方向に進むわけではない。違 う方向にいかないといけないなら、一度白紙にしていろいろな意見を聞くのも 悪くない。 ・しかし、最後に決めるのは自分自身だ。そこで決められない人が多い。なぜ 決められないか。優柔不断な人は別にして、自分自身の価値観が決まっていな い。自分自身がこうしたい、こうありたい、こうあるべきというイメージがな い。これからコロナ後の3年、5年、10年がどうなるか。実は誰にも分からな い。しかし、事業は続けないといけない。それなら、自分がありたい、やりた い、こうしたいという一種こだわりでもいい。そういうありたい姿を描けてい ないと、軸がぶらぶらする。中心は揺るがない。いや、揺るいだら困る。一本 軸はしっかりして、その周囲の脇は適当に固めればいい。一番大事なのは、経 営者の意思だ。揺らぎない理念がないと、この困難には立ち向かえない。ま ず、自分のこうありたいとういうイメージを明確にすることだ。