**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第877回配信分2021年02月15日発行 2020東京オリパラ中止の影響をシュミレーションする 〜影響は大きいが中止も止むを得ないか〜 **************************************************** <はじめに> ・森会長の失言発言事件からほぼ1週間。辞任で決着した東京五輪組織委員 会。新しい人のもとで再出発を期することになったが、これからも相当いばら の道が続くだろう。今回の配信号は、この東京2020オリパラの開催の是非と、 中止になった場合の影響などを考えてみたいと思う。まだこの時点では中止と も開催とも決まっていない。開催を希望する意見は当然多いが、無観客だとか 外国人観客は入れないとか、多くの諸説が飛び交っている。細かい各論を言い 出すときりがないので、今回は開催より中止の影響を考えてみることにする。 現状では、進も地獄、退くも地獄だが、やむを得ず開催中止の場合の影響を考 えてみる。悪い方を想定しておいたほうがいいので。 ・まず、前提として再延期はないという前提に立つこととする。再延期まで可 能性に入れると、選択肢が多すぎてシュミレーションできない。よって、今回 は中止の場合のみに焦点を当てて考えてみることとする。そこで、いつ中止の 決定があるだろうか?という点だが、独断と偏見で言うなら3月の中旬くらい か。IOCの会議、諸外国での準備、受け入れサイドの日程、聖火リレーの開始 など、多くの要素を勘案すると3月中旬がリミットではないか。いや、年度末 に開催中止が決まると多くの企業業績に悪影響を与えるので、4月の上旬とい う説も有力だ。いずれにしても、ここ2か月以内に大きな意思決定があると想 定しておいた方がいい。ぎりぎりになると思うが、最後はどこの機関が中止の ご宣託を下すか。 ・東京都でもなければ日本政府でもない。IOCというのが一般的だがIOCがWHO に結論を委ねて、WHOが国連本部にたらい回しにする可能性もあるが、常識で 考えればIOCが断を下すと考えるのが常識だろう。となると、3月の中旬に開 催のIOC総会で中止の前触れが発表され、正式には4月の上旬に確定するとい う段取りだろう。そこで、多くの悲痛な叫びが上がるが、大局的に考えてまだ コロナ感染の影響がワクチン接種の時間差で、プラス効果がまだ見込めないの で、致し方ないという結論に落ち着く。特に、日本国内の接種の遅れや、先進 国でも接種の拡がりに温度差がある。まして、後進国や小規模な国での接種の 進捗ははかばかしくない。まして、開催国の日本でもまだ接種の進捗は遅れて いる。 <いろいろな業界に影響が大きい> ・最後は人命尊重という建前が優先し、止むを得ず前代未聞の延期中止という 結末に至る。後世に、悲運の2020東京五輪と長く歴史に刻まれる大会になるだ ろう。この中止の決定に対し、経済的な影響はいかほどになるだろう。ぼちぼ ち多くの経済週刊誌などで数兆円だとかのシュミレーション記事が出ている。 おおよそ5兆円と試算した雑誌もあった。前提が多くあるので、非常に複雑な 計算にはなるが割り切っていえば、これまでのサンクコストを入れるか入れな いかで大きく異なる。ご存じサンクコストとは「サンク=沈んだ」だから、沈 んだ費用なのでこれまでかけた費用の総額だ。この、今までかけた費用の大半 がムダになるが、もう払ってしまった費用であり、新たに追加で発生するもの ではない。 ・例えば、東京の国立競技場では今までかかった建設費用は、もうすでにほと んどが精算されている。今後投資するはずの費用が投資されないので、そのマ イナスの影響がどれくらいかという計算になる。開催されないので観客の旅行 代金、移動代金、入場料などはマイナスになる。その観客が落とす多くのおカ ネが落ちないことになる。飲食代、宿泊代、おみやげ物代、タクシー代、交通 費などが消えることになる。影響が及ぶのは旅行代理店、ホテル旅館、飲食 店、交通関係のビジネス、とりわけJR東海や航空会社などになる。これらの業 界は現在でも大きなマイナスの打撃を受けている。さらにこの中止のマイナス の影響が出れば、多くの関連の業界で経営不振からの廃業や倒産が出る可能性 がある。特に旅行業界はすそ野が広く、中小零細企業が連なっているので心配 だ。 ・開催期間中の警備に関しては、本当なら多くの警備会社に多額の費用が落ち ることになっていた。人が足りないので、全国の警備会社からマンパワーをか き集めて対応することになっていた。本当なら2020年に開催のはずだったの で、去年の春くらいに採用された警備会社のスタッフも多かったはずだ。そし て1年延期になり、この間開催があると思って継続雇用されていた方も多い。 警備会社には、どういう計算になるか分からないが、開催中止による遅延金、 損害金が支払われるはずだ。このうち、いくらくらいが保険金でカバーされる のか分からないが、大勢の警備会社のスタッフが失職するはずだ。この人たち の開催期間中及び前後の期間で落ちるおカネも蒸発する。また警備という面で は、全国から警察官も首都圏に集中されるはずだった。 <政局になる可能性が高い> ・某メガバンクのシンクタンクの試算では、経済損失は7兆円という試算もあ るようだ。おおよそ日本国内のGDP500兆円のの1.4%になる。この経済損失は 大きい。コロナで痛んだ経済に、さらに追い打ちをかけるような影響が出るだ ろう。直接のマイナスでこれだから、間接的な経済損失は計算できないが、さ らにこれに多くの金額が加算される。例えば、英会話学校。大会ボランティア への特別レッスンがなくなる。多くの五輪記念グッズがなくなる。スポーツ用 品メーカーの特需がなくなる。多くの関連業種、関連企業の業績に、間違いな く悪影響が出る。海外から多くの観客が押し寄せ、その流れがご当地京都にも お越しいただけると、取らぬ狸の皮算用をしていた企業も多い。 ・このコロナでも踏ん張ったのは、この東京オリパラがあるからだと、我慢し て頑張ってきた。いや、数年前にこの特需を見込んで設備投資した。それが全 く無駄になった。負のマイナスの遺産だけが残った。そういう意味では、選手 村の建物をマンションとして購入していた人がいる。1年延期でももめたの に、さらに中止ということになれば損害賠償の訴訟までお起こりかねない。そ のような間接の間接のマイナスの影響はこのような試算にも入っていない。ま た、選手村のマンションのように、延期から中止になった大会の名前のマイナ スのイメージは経済損失としては測れない。このような精神面のマイナス作用 はかなり大きいだろうと推定される。 ・中止の影響は経済損失だけではないだろう。直接、間接のおカネの影響も大 きいが、日本の政治体制に与える影響も甚大だ。特に、現在の菅政権はこの東 京オリパラを成功させるため、あるいは開催するため、コロナ禍をとにかく必 死になって抑え込もうとした。ワクチンを早期に接種にもっていったり、緊急 事態宣言を延長したりも、すべてこの東京オリパラを開催するための努力だっ た。それが水泡に帰すことになる。政権への打撃は深刻で、菅政権の存続の可 否が問われるだろう。衆議院の総選挙の前に政局になり、解散総選挙になる確 率が高い。今回は野党が躍進し、さらに政治的に一層の混迷を深めることにな りかねない。ただでさえ、コロナショックで業績が悪いのに、追い打ちをかけ ることになる。 <政治の責任で早く決める> ・悪いことずくめなので、いいことはひとつもないが、開催に必要なのは国民 の総意だ。とにかく全国民が開催を積極的に支援し、一部のアスリートや一部 のごく限られた人たちだけの祭典になってはいけない。古い話しで恐縮だが、 昭和39年の前回の東京五輪のときは、日本国挙げてこの世紀の祭典をなんとか 成功させようと必死だった。10月10日が開会式だったが、東海道新幹線が開業 したのが確か10月01日。突貫工事でぎりぎり間に合ったが、事故はひとつも起 こらず、ダイヤも完璧。高速道路も名神高速道路が開通し、車社会の到来を目 の当たりにした。首都高速道路もできた。そして、一般家庭にはカラーテレビ が普及し始めた。成岡家でも、カラーテレビを買うかどうかで家族会議があっ たほどだ。 ・国土がどんどん近代化し、一般家庭にも多くの白物家電製品が普及し始め た。確実に東京五輪をきっかけに、日本が近代国家の仲間入りを果たしている 実感があった。だから、当時の全国民が東京五輪に熱狂した。毎日、毎日テレ ビで報道される日本人選手の活躍に、一喜一憂した。勉強もそっちのけで毎日 中継を見続けた。なぜか五輪が終わっても、日本が成長し続ける実感があっ た。だから、準備の段階から開催期間、そして終わってからも全国民が東京五 輪を心底支持し、サポートし、熱狂した。しかし、残念ながら今回はコロナ ショックで完全に痛めつけられた。いまの状態で開催を強行するのは国民総意 が得られないのは明白だ。多くのメディアの世論調査もそれを示している。 ・中止やむなきに至るなら、タイムリミットを前倒しで設定し早く決めないと いけない。誰が戦犯になるかの議論ではない。そんなことより、中止にしたと きの補償問題を先に片付けないといけない。これは全く政治的な課題だ。アス リートでもなければ医療従事者でもない。IOCでも組織委員会でもない。他人 に責任をなすりつける議論をするより、一日でも早く決断し、補償に手を打つ ことだ。相当経済的なダメージは大きいが、必ずリカバーできる範囲内だ。そ れより、ぎりぎりまで決定せずに、最後の最後でやっぱりできませんでしたと いうほうが、精神的なダメージが大きい。政治の責任で、止めるなら早く決断 する。そして、次のビジョンを早く打ち出す。サンクコストにこだわらない。 そうはっきり明言して、次のビジョンを掲げるほうがいい。