**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第879回配信分2021年03月01日発行 コロナ後と事業承継 〜新しい酒は新しい革袋に〜 **************************************************** <はじめに> ・先々週号の日経ビジネスにコロナ後の中小企業に関する特集記事があったの で、今週号はこれに関しての記述にした。つまり、結論としては何か自社の 尖った強みに特化して生き抜くしかないということ。そんなことは言われなく てもわかっている。それがなかなかできないから、どうしたらいいのか分から ないので悩んでいる企業が多いのだ。減ったとはいえ、中小企業の数が多すぎ るという批判もある。もっと規模の大きな企業と一緒になって、つまり吸収合 併を繰り返し、小規模零細の企業はなくしていこうという主張もある。これに は、一理ある。確かに、小規模の事業所が多いと効率は悪い。しかし、規模が 小さいことが悪いわけではない。それを、すべて同じように括ってしまうこと が間違いだろう。 ・企業の求めるのは、規模ではなくて価値だろう。小規模だろうが、世間にな い価値を提供する企業やお店は生き残っている。石油ショックでも、バブル崩 壊でも、リーマンショックでも、おそらく今回のコロナショックでもそうだろ うが、規模が大きいから潰れないということはない。筆者の手元には、帝国 データバンクからの倒産情報などが頻繁に入るが、規模の大きいところでも潰 れるときは潰れる。成岡の在籍していた出版社でも、売上が100億円になって しばらくして、あっという間に倒産した。規模が大きくなると、当然図体がで かいから、急に環境が変化したときに対応できない。大型船が急に旋回できな いように、小回りは利かない。事業規模というのは、大きいからいいのではな い。その事業の生み出す価値が問題なのだ。 ・よく言われる自社しかできない強みがあれば、必ずと言っていいほど生き残 れる。世間の評価は正しいから、少し時間が経てば淘汰が始まり、価値ある企 業しか残らない。怖いのは、恐ろしいのは、その時に評価が高い価値が、ずっ と未来永劫に続くかというと、それはそうではないのだ。その時点では価値が あった、評価が高かった事業が、時間の経過とともにその価値が毀損するとい うことだ。これは、どんな製品、商品、サービスにもあてはまる。昭和40年 代、京都の街中では西陣織の手機の織機の音が街中に響いていた。ガチャマン という古い言葉があったくらいで、織機が1回ガチャンと音を鳴らせば、一万 円札が生まれたのと同じだというくらい西陣織が隆盛を極めた時代があった。 しかし、今はどうだろう。完全になくなったわけではないが、生活スタイルの 変化とともに、その価値は大きく毀損した。 <規模や利益を追いかけない> ・同じことがこのコロナショックでも言える。昭和から平成にかけて、多くの 企業が生まれたが、すべてその前提は人口が増えて、それに伴い経済は成長す るという神話だった。年金制度も人口の増加、標準世帯は夫がサラリーマンで 妻が専業主婦、子供が二人という設定だ。そんな家族は、いまどれくらいある のだろうか。そういう標準モデル、パターンがどんどん崩れて、今回のコロナ ショックはさらにそれに追い打ちをかけた。都心の広いオフィスはいらなくな り、住宅事情は大きく変わった。通勤という呪縛から解放されたサラリーマン が、今後どのような生活スタイルに変化するかは注目だ。副業が認められ、60 歳定年が70歳まで働く時代になった。いや、80歳くらいまで元気でいないと、 100歳のご臨終までは相当に長い。 ・そんな時代に、コロナ後に向かって新しい世代が新しい事業価値を生んでい る事例が、先々週号の日経ビジネスに多数掲載されていた。嬉しいことに、地 元京都のそれも知己の企業が数社掲載され、立派に今の混沌とした時代に力強 く生き抜いていることが紹介されていた。また、数日前の日経新聞の解散経済 面でも、東大阪の知己の企業が紹介されていた。これらの企業に共通して言え ることは、決して今まで順風満帆で来たのではないということだ。逆に、相当 な逆風にさらされ、かなり危機的な状況からの這い上がりというのが実態だ。 では、成岡が在籍し100億円にまでなった企業があえなく潰れ、規模に関係な くこれらの企業が価値を提供し続け、現在でも高い評価を得ているのは、なぜ だろうか。 ・完全な解答があるわけではないが、最も大きな要因は売上や利益そのものを 追いかけなかったことだろう。昭和50年代から平成にかけては、大きいことは いいことだった。売上の伸長がすべてをカバーしてくれた。固定費がいくらか かろうが、売上が年々10%から20%くらいは伸びていたから、売上の伸びが七 難を隠していた。それをいいことに、とにかく規模を大きくし、社員数を増や し、利益の増大が事業の目的だった。給与をどんどん上げて、賞与を大盤振る 舞いし、支店の数を全国に増やし、立派な本社ビルを買った。それが企業の成 長だと錯覚した。そして、案の定バブル経済が崩壊した際には、あっという間 に奈落の底に落ち込んだ。金融機関も、ノーマークでどんどん資金を貸してく れた。借りないのは馬鹿ではないかとまで言われたことがある。昨今の緊急融 資と似ている。 <承継したら口を挟まない> ・SDGsとは非常に立派な考え方だ。持続可能な成長モデルとはどういうもの か。継続して価値を社会に提供できるビジネスモデルとは、一体どういうもの だろうか。少なくとも、過去の成功に浸ってきた経営者の頭を切り替えるのは 難しい。これに対する答えを出すには、新しい時代を乗り切る覚悟の後継者に 託すべきだ。過去の成功体験の中には、答えは見つけにくいだろう。まったく ないとは言わないが、探すのは困難だ。ヒントはあるかもしれないが、気が付 きにくい。それより、白紙の状態で臨む後継者には先入観念がない。失敗体験 はあっても、成功体験はない。なまじ、中途半端な成功体験があるのは、邪魔 になる。ないなら、いっそすべてないほうがいい。重要なことは、後継者に目 をつぶって事業を引き渡せるか。 ・多くの先代経営者は、そこで迷って結論が出ない。先日も、先代の80歳を超 えた経営者の方とその子息の間で、今後の会社の運営に関して相当深刻なやり 取りがあった。結論は出ていないが、当面は社長が代表権を持った会長職にな り、子息が代表取締役社長に就任するはずだ。しかし、その時期、方法に関 し、なかなか親子で意見が一致しない。後継者は一刻でも早いほうがいいとい う想いがあるが、先代社長は実質創業者だから、なかなかその地位を簡単に禅 譲しようとしない。成岡の持論は、会社の代表者は一人であるべきだ。二人代 表と言うのは次期の社長のトレーニング期間ならあり得るが、後継者が社長に なったら代表者は一人にすべきだ。借入の保証などで代表権が外せない場合が 一番やっかいだ。 ・野球で言えば監督が交代したのに、前任者がまだ総監督の地位でベンチの奥 にどっかと座っている。座っているだけならいいが、勝手にサインを出す。監 督もサインを出すから指示が二通りになり錯綜する。方針は迷走し、人心は荒 廃し、業績は低迷する。そうなると派閥が出来て、会長派閥と社長派閥が対立 する。ほとんどの企業の事業承継は、これで失敗する。特に、今回のようなコ ロナショックからの立ち上がりでダッシュしないといけない場合、方針の迷走 は業績に直結する。先代は自身の経験から判断するだろうが、昨今の状況は過 去の経験は通用しない。通用しないのが、自分と後継者も同じなら、可能性が 高いのは後継者の方だと割り切ることだ。承継を機会に業績が改善している企 業は、そこが違う。 <3年先を見据える> ・新しい酒は新しい革袋に入れろという諺がある。これほどの大きな環境変化 は、かって誰もが経験したことがない。明治維新と太平洋戦争の戦後の復興時 期くらいだろうか。その後多くの経済環境の変化はあったが、これほど世の中 が大きく変化したことはなかっただろう。そして、ちょうど日本が少子高齢 化、気候変動環境対策などの社会的な環境変化が重なった。以前なら小手先の 対策で何とか乗り切れたのが、小手先では対応できないくらいの大変化が押し 寄せている。大企業も、中堅企業も、中小企業も、小規模零細企業も、ことご とく同様に変化の波をかぶっている。しかし、影響の度合いは大企業の方が大 きい。大型の船が急に方向転換できないのと同じだ。 ・自身の会社の貸借対照表をご覧いただきたい。資産がいくらあるか。流動資 産、固定資産がいくらあるか。そして、それを加えた総資産、資産合計がいく らあるか。その金額と自身の会社の事業売上がいくらあるか。割った数字が回 転率になる。意外と多くの資産を持っているにもかかわらず、それに見合う売 上が小さい企業が多い。つまり、持っているモノ、資産が多いのだがそれに見 合う売上、収入が少ない。そうなると、資金が資産に化けて寝ている状態にな る。資産の多い企業は、こういう環境変化の大きいときに変わり身が遅れる。 ゆっくりとしか変われない。このような環境激変時期には、早く変化しないと いけない。そのためには、資産は少ないほうがいい。 ・少ない資産でしっかり稼ぐ。これが商売の基本だ。常日頃から、無駄な資産 はないか、在庫は適正か、棚卸資産の中に不要なものはないか、売掛金の回収 はきちんとできているかなどを常に点検、チェックをする癖をつけておかない といけない。こんな異常な状態になって、初めて見直したという企業も多い。 補助金の申請をするにあたり、初めて多くの書類を点検したところ、多くの不 備が見つかった。日ごろ見落としていたポイントが、俄然浮かび上がってき た。今回の異常なコロナショックは、しかし多くの気づきを与えてくれたはず だ。業績への影響は計り知れないほど深刻だが、のちに経験する試練が先に来 たのだと思えば、少し気が楽になる。ここから、出直す気持ちを持ち続けるこ とが大事だ。3年先を見据えて、気持ちが切れないようにすることだ。