**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第880回配信分2021年03月08日発行 コロナ後と事業承継その2 〜果敢に攻めるための補助金の活用〜 **************************************************** <はじめに> ・コロナ後のダッシュに向けて、国が大盤振る舞いの一手を繰り出した。「事 業再構築補助金」。まさに、コロナ後の自社のビジネスモデルを変えるのに、 カネが要るだろうとの暖かい?親心で結構多額の補助金が打ち出された。詳細 は政府広報に委ねるが、とにかくコロナ後の新しい自社のビジネスモデルを構 築するのに、やはり手ぶらではできない。少々の変更なら自社の費用で賄える が、大幅な改編となるととても通常の費用の範囲ではできない。その資金がな いためにやりたくてもできない企業があるだろう。そんな企業があったら是非 この補助金を使って新しいビジネスモデルに挑戦して欲しい。そういう親心の 暖かい補助金なのだ。大盤振る舞いなので、金額も大きいが、採択の確率は厳 しい。 ・すでに多くの問い合わせが来ている。結構、みんなこのような情報を見てい るのだと感心した。金融機関の担当者も自分の得意先にPRのチラシなどを配っ ている。結構関心が高い補助金だ。なにせ、上限の金額が大きい。今までのコ ロナ関係の補助金はあまねく薄く広くというのがコンセプトだった。今回は違 う。勇気をもって、今までの自社のビジネスモデルを新しい生活スタイルに対 応した業態に変えるんだという不退転の決意を示して欲しいという、政府の希 望が込められている。この補助金の趣旨に合致した申請がどれくらい出てくる だろうか。急に言われても、一夜漬けの申請内容ではとてもこの厳しい条件を クリアーできない。いままで温めていたプランが一気にこの補助金で花が咲く という構図がないといけない。 ・通常の今までの設備投資ではない。明らかに業態を新しく変えるのだという 内容でないといけない。成岡がよく使うたとえ話では、現状は魚介類の小売店 をやっている。後継者がこれでは限界があると考え、店の隣に寿司店を開業し た。小売業から飲食業への事業展開だ。このような業態の転換の要素がないと いけない。これを今回のコロナショックからの脱出の大きなターニングポイン トにする。そのためには投資資金が必要だ。業態の変更、転換はそう簡単なこ とではない。そのための費用の一部を国が補助金という名目でカバーしてくれ る。こういう補助金、資金は非常に有難い。将来、立派な経営状態になって法 人税で返してくれることを期待するのが補助金だ。なので、成功する確率が高 くないといけない。 <新しい市場の創造> ・多くの飲食業で新しい試みが行われている。鳥貴族チェーンでは、焼き鳥か らハンバーガーへ業態転換する店を増やすという。某企業では来店客ではな く、テイクアウト専門店を全国展開するという。マクドナルドが好調なのは、 テイクアウト、ドライブスルー、クイックデリバリーなどの需要を早くから取 り込んだからだ。セブンイレブンも相当以前から出前配達に力を入れてきた。 ここに来て、生協の配達トラックが目立つようになった。筆者の住んでいる 150世帯が入る大型のマンションでも、頻繁に指定配達業者のトラックが発泡 スチロールの保冷箱に食品を満載し、入れ代わり立ち代わり運び込んでいる。 車でスーパーへ買い物に行くのもいいが、車から部屋まで運ぶのが面倒な場合 も多い。 ・配達、持ち帰り、デリバリーなどのキーワードに対応するには、それなりの 食材でないといけない。麺類、特にラーメンのテイクアウトが難しいのは、麺 類がのびてしまうからだ。それと汁がこぼれるトラブルにどう対処するかが課 題だった。しかし、人間の知恵は無限大で、某製麺業者は時間が少々経過して も水分を大きく吸収しない麺を開発した。また、汁がこぼれない工夫をした カップや持ち運び容器を開発した。これにより、難しいと言われていたラーメ ンのデリバリー市場を創造することができた。いまこのノウハウは全国に拡 がっている。コンビニのメイン商品になったコーヒーの持ち帰りも、あのフタ を開発したことも大きい。こぼれない、飲みやすいという二律背反の課題を見 事に解決した。 ・かの有名なドラッカーの言葉に、「市場の創造」という言葉がある。普通 は、市場の変化に対応するというのが普通なのだが、ドラッカーは市場、つま り顧客のニーズを創るというのがビジネスの究極の目的なのだ。今回のコロナ ショックは大きな市場の変化ではあるが、この変化に対応するだけではなく、 新しい市場を創造することが重要だ。そう考えると、このような大きな環境変 化は、ある意味むしろ歓迎するべき現象なのだ。不況になり、これを脱出しよ うとすると小手先の改善では難しい。何か劇的に変えないと対応できない。業 界あげて新しいことに積極的に取り組むことが大事だ。ここで後ろ向きに考え ると、際限なくむしろ向きになる。業態変革に向けた補助金も同じ趣旨だ。 <過去の成功に固執しない> ・しかし、この変化に右往左往する企業も多い。過去の成功体験が通じない。 以前のいくつかのショックに対応したやり方、つまり少々の経営改善策では、 今回は通用しない。がらっと業態返還する姿勢が必要だ。京都府の北部の町で 小さな食品スーパーを営んでいた両親の事業に見切りをつけ、実家の事業から 脱出し他社に転職して成功している若い実業家がいる。両親が運営していた食 品スーパーは旧態依然とした古い店構えそのものだった。在庫もだぶつき、管 理もできていない。近隣にコンビニや大型スーパーが出店しても意に介さず、 毎日同じように仕入れ、販売していたら、いつの間にか完全に売上が落ち込ん できた。そこで初めて今までのやり方ではまずいと気が付いた。 ・しかし、時代は待ってくれなかった。そんなにビジネスは簡単なことではな い。特に経験が永く過去に大きな成功体験がある経営者の方は、そう簡単に考 えを変えない。自分はこのやり方で成功してきた。事実、長きにわたり高度経 済成長の時代には規模がすべてをカバーしたので、とにかく売り上げを伸ばす ことだった。売上、利益、従業員数の増加が成長の証だった。それに伴い借入 金も増えた。しかし、借金は男の甲斐性というくらい、借入金が増えるのは勲 章のようなものだった。おカネを借りることには、全く後ろめたい気持ちは一 切なかった。それが証拠に成岡が在籍、経営していた企業では15億円で本社ビ ルを購入し、5年後に売却して撤退した。その投資は、全く市場を創造するも のではなかった。 ・過去には経験した市場の転換では、印刷業界。成岡が印刷会社で経営者をし ていた平成10年前後には印刷工業組合加盟の印刷会社は230社くらいあった。 それが最近では150社くらいのはずだ。わずか20年くらいで40%近くの印刷会社 が廃業もしくは破産した。ガソリンスタンドも同じだ。最盛期の6割近くに なっているはずだ。印刷会社はデジタル化による紙に活字を刷る印刷需要の激 減だ。しかし、生き残っている印刷会社はその技術を他の市場に転換して事業 化に成功した。あるいは川上の業態にシフトして、デザインや企画面で付加価 値を見出している。ガソリンスタンドは、単にガソリンを給油するサービスだ けでなく、タイヤ交換と預かり、車検、エンジンオイル交換、ひいてはコンビ ニの併設など、総合的なサービス業に転換している。 <3年後の絵を描く> ・時代が変わるときには大きな転換点がある。今回もほぼそれに近い。一過性 でまた同じ状態に戻ると思わずに、新しい市場を切り開くという意気込みで補 助金を取りに行くなら意味がある。それがなくて、単に現在の設備、装置が古 くなったというだけの取り換え投資なら採択は難しいだろう。更新投資は収益 性に欠け、利益を生まない投資になる。投資をするからには将来収益を生む内 容でないといけない。それも単に数字合わせのものではなく、確信がないとい けない。また、ある程度テスト的な結果が出ていることが好ましい。これから ゼロから始めるという内容では、説得力がない。となると、相当事前に以前か ら取り掛かっているモデルを、ここで一気に加速させるという意味での申請な ら採択される確率も上がる。 ・いずれにせよ、アフターコロナの出口が徐々には見えてきつつある。まだ五 里霧中だが、ワクチンが徐々に普及し、新しい生活スタイルが定着し、日常で 密を回避することが常態化すれば、そう遠くない将来にいったんこのコロナ ショックは沈静化するはずだ。完全に終息するには数年はかかるだろうが、近 い日常を取り戻すには数年以内にやってくるはずだ。その間、五輪の開催中止 やビッグプロジェクトの中止や延期もあるだろう。しかし、どんな環境になっ ても事業は継続し、雇用を守り、社会的な活動は続けないといけない。経営者 には言い訳は必要ない。すべては結果だが、最近のSDGsのように維持が可能 で、かつ継続することが大事なのだ。1年だけ莫大な利益を挙げても、続かな いと意味がない。 ・ぼちぼち、3月年度末、4月の年度初め、そして5月の連休へと暦は進む。 ここ数か月で勝負の山がやってくる。完ぺきな勝ち組になる必要はないが、事 業が継続していける環境を作り、条件を整備し、従業員のモチベーションを高 め、そしてコロナ後の世界に向かって、ひたひたと歩みを進めないといけな い。失礼ながら、ここで経営者の器量が問われることになる。この関門をくぐ ることができる企業と、関門の前で時間切れシャットアウトになる企業と、大 きく明暗が分かれる展開になる。どんな業種業態の企業でも同じことだ。影響 のない企業はない。等しく影響は及んでいるはずだ。切り抜けたあとの絵を描 いておくことは、現在の経営者、次の後継者にとって必須のミッションだ。ど んな絵が描けるか。それが会社の今後の命運を握っている。