**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第889回配信分2021年05月10日発行 費用の削減よりムダをなくす 〜自ら言い出したことは自ら守る〜 **************************************************** <はじめに> ・5月の連休期間中、みなさんはどのように過ごされただろうか。例年、この 5月の連休はどこへも行かず、ひたすらオフィスでたまった書類の整理や原稿 執筆などに充てていた。しかし、昨年7月末から新しい生活をスタートさせた のをきっかけに、家族サービスを企画して旅行に行くことにしていた。ところ が県境をまたいでの移動はご法度ということで、当初企画していた三重県鳥羽 方面への旅行はキャンセルに。代わりに、府内ならいいだろうと割り切って、 網野方面の温泉地に一泊し帰途天橋立に立ち寄った。天気もよく、この2日間 だけ快晴だった。車も新しくなったので、気分転換を兼ねてドライブと洒落こ んだ。この時期に医療関係者には申し訳ない気持ちもあるが、この連休しか休 めないので仕方ない。 ・温泉地の旅館はほぼ満室だったのではなかろうか。駐車場が停められず、離 れた場所にある第二駐車場に停めるくらい、車は一杯だった。京都府内の温泉 地だが、ナンバーを見ると大阪、兵庫、愛知など県外ナンバーの車も多かっ た。また京都ナンバーだがレンタカーナンバーの車も多数見受けられた。電車 で近くまで来て、京都ナンバーのレンタカーなら大丈夫と考えてのことか。夕 食の際に仲居さんと会話をしたが、この連休は宿泊者が多くこの4月から雇用 されたというスタッフだった。ただし、この連休が終わると予約はほとんど 入っていない。自身の雇用が今後どうなるのか不安で仕方がないと嘆いていい た。以前に勤めていた企業が、コロナショックの業績不振で解雇され、やっと 見つけた職場なのだ。 ・帰途のランチが大変だった。天橋立周辺のレストラン、飲食店はすべて閉店 していた。地元組合の協定らしい。唯一、宮津市内の中心部にできた漁業組合 が運営している海鮮中心のフードコートのみが開いていた。当然観光客がその 店に殺到し、長蛇の列となり待ち時間が1時間近くかかった。お昼時間には、 列の最後尾が建物の外にまで延びてしまったくらいだ。フードコートなので、 オーダーした後はポケベルの呼び出しと睨めっこになる。なかなか呼び出し音 が鳴らなくて相当イライラした。車を停車する場所を探すことから始まり、ラ ンチでも長蛇の列、帰途のサービスエリアでも車を停めるところを探すのに一 苦労だった。渋滞も高速道路が2車線から1車線になる行きの京丹波付近の渋 滞はすごかった。 <説得より説明> ・かくて、今年の連休も終わったが緊急事態宣言の延長が決まった。月末に大 きな会議もリアルで開催を予定しているが、これも今後の情勢次第でどうなる かは分からない。最悪リモートでの開催か、少し延期するか、ハイブリッドで の開催か。判断に迷う状況が続く。最近では身近な人やその家族に陽性者が出 て、業務の進行が妨げられている。いったん陽性が判明すると長期間の隔離が 行われる。また、家族も陰性が判明するまで外出ができない。学校も、職場も 混乱は避けられない。一定程度ワクチンが普及するまでは、我慢の時間が続く のだろう。出口が見えないのが一番消耗する。いつまでに、どうなっていれ ば、こうするという明確な方針が出ないので、その場その場の思い付きの案を 実行することになる。 ・この約1年間、相当の期間いろいろと試行錯誤を繰り返してきたはずだ。多 くのダメージを受けながら相当学習を重ねて来たが、どうもいまだに対策が後 手に回っている感は否めない。厳しいロックダウンを行い、国産ワクチンの製 造を例外に特急で行い、完成までは十分な保証をする。その代り、ある程度感 染が抑制できた段階で、段階的に規制を解除する。その間は方針にはほぼ絶対 服従で規制を強化する。抜け駆けは許さない。個人の主権や企業の運営に相当 立ち入ることになるが、これは例外的に期間限定で認める。それくらいの超法 規的な措置をしないとコントロールは難しい。世間や世界に対して、どうもい い子ちゃんを演じたい思惑が優先する。その象徴が東京オリパラの開催だろ う。 ・ワクチンの接種率が50%を超えたらこうする。あるいは、毎日の感染者が全 国合計で100人を下回る日が連続7日間継続できたら、解除する。重症者が100 名以下になり7日間連続で増加しないなら、こうする。この程度のゴールは決 めようと思えば決められるはずだ。もちろん多くの利害関係者、専門家の意見 調整は必要だろう。しかし、このような緊急事態、非常事態の際には理屈は要 らない。合理的で納得感のある説明ができればいい。全員が納得するような結 論はあり得ない。誰かが有利になる結論は、誰かに不利になる。民衆主義は多 数決が原則だが、それは平時の話しだ。乱世では理屈よりリーダーシップだ。 少々の軋轢や意見の相違は乗り越える必要がある。その際に大事なことは、信 用であり信頼だ。 <業績良好のときに健全な赤字部門を> ・会社経営や組織運営も同じことだ。組織に属する人、周囲の利害関係者の全 員が納得する結論というものはあり得ない。誰かが利益を得る結論は、誰かが 多少の損をすることになる。大事なことは、納得をしてもらうことより、十分 説明を尽くすことだ。札幌で蔓延防止措置の適用を検討する傍らで、市内では マラソンのテストイベントが行われている。これほど違和感のある方針はない だろう。大多数の国民が延期または中止を要請しているのに、一方ではどんな 形でも開催を強行したいというグループがある。アメリカの大統領選挙でも国 民の分断が課題になったが、今回の東京オリパラの開催も、国論を2分する。 そんなことにエネルギーを費やす時間とおカネがあれば、年末まで持たない事 業者に少しでも寄り添うべきではないか。 ・説明では、難しいことは難しいといい、できないことはできないと言い切 る。可能性があることは努力すると明言し、その方策を具体的に説明する。企 業では、資金の目途が立たないなら、立たないためにどうするかを努力するの が経営者の務めだろう。緊急融資からの調達だけに依存した経営は、いつかは 破綻する。今回は出口が見えないから、最悪の事態を想定し、最も悪いケース を計画に織り込む。それ以上の結果が出ればご同慶の至りになる。収入は少な く見積もり、支出は多く予定する。決して逆にしてはいけない。戦時には楽観 論は厳に慎むべきだ。コロナが収束した時点でも、収入は30%ダウン、支出は 10%アップで計算する。ほとんどの企業が赤字になるはずで、そこから出発す る。 ・売上が伸びる要素としては、何が考えられるか。ECサイトの売上か、店舗販 売以外の直販か。あるいは国内ではなくて海外での売上か。しかし、相応の根 拠がなくてはいけない。今の時代、経営者の気合だけで売上が伸びることはあ り得ない。合理的な理由で、多少の実績があり、手ごたえ感がある理由がない といけない。数年前から地道に行ってきた多くの事業が、当初は赤字だったが 最近では多少とも利益が出て、経営に少しは貢献するようになった。このよう な「ネタ」をいくつ仕込んでいるかが大事なのだ。経営が順調な時期に「健全 な赤字部門」に投資をしておく必要がある。それも、ひとつでは心もとない。 複数の新しい事業に時間をずらして投資をして、一定の確証をつかんでおく。 それがトップの仕事だ。 <費用の削減よりムダを省く> ・緊急融資で調達した虎の子の資金は、未来の投資に使う。間違っても、現在 の赤字の穴埋めに使うことは避けるべきだ。現状をまずキャッシュアウトしな い、手元の資金が減らないようにするにはどうするか。まず、手を付けるべき は役員報酬。減らすのはいつでもできる。決算の時期に関係なく、意思決定す ればいつでも可能だ。トップの削減幅が一番大きいようにする。次にはその他 の役員の報酬の削減。次に上級管理職、中間管理職と続く。一律に削減するの は愚の骨頂だ。とりあえず資金の流出を止めないといけない。それ以外にムダ な費用はないか。これをいい機会に、すべての費用をゼロベースで査定してみ る。意外なところに落とし穴がある。会社の車両もそのひとつ。社有車は本当 に意味があるか。 ・意外と車の稼働率は高くない。社外に借りている倉庫代はどうか。漫然と 行っている定期的な行事はないか。しかし、最も効果が大きいのはムダな会議 や打ち合わせを変えることだ。費用の削減に一生懸命になるより、ムダな会議 を止めたらどうか。数名が1時間ムダな時間を費やしたら、いったいいくら費 用がかかったのか。そもそも遡及すれば、どうしてそのムダと知りながら会議 をしないといけないのか。参加者全員を足止めにして、その間重要な業務が停 滞する。電話やメールも対応できない。もっと日常の意思疎通、コミュニケー ションがとれていれば、この会議はやらなくてもいいのではないか。会議をす ることが仕事ではない。しかし、会議に参加することが仕事になっている人が 多い。自らムダを造り出している。 ・どうしても必要なら1時間で終わる。それと座ってやらない。立ってやる。 立ってやれば、必ず1時間で終わる。紙の資料は作成しない。データで持参し てプロジェクターで映して、その場で理解に努める。紙の資料で配ると、それ を持ち帰ればいいと集中力が高まらない。必要ならデータでフォルダーに格納 し、必要な都度参照すればいい。トップの覚悟と実行力が問われる。そうは言 いながら、トップが真逆のことをやっているケースが多い。自ら宣言したこと を、自らが崩している。そんなトップのオーダーは誰も従わない。仮に従って いるとすれば、それは面従腹背だ。顔では従って、腹の中では逆らっている。 そのような幹部社員が多いと、会社の組織運営は空中分解する。決断はトップ の責任だ。