**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第891回配信分2021年05月24日発行 続けるために変わり続ける 〜コロナ後に向けて変わる覚悟〜 **************************************************** <はじめに> ・おおよそ見えて来たコロナ後の世界。ワクチンの本格接種が拡大し、来年の 今ごろにはかなり普及していると思われる。人の動きが徐々に戻り、サービス 業の状態も以前の形に少しずつではあるが復旧するだろう。しかし、業種にも よるが事業の水準は以前の70%くらいで停滞するのではないか。理由は簡単 で、以前ほどのインバウンド需要がないことと、リスクを経験したことで生活 スタイル、ライフスタイルが変わったことだ。いったん変わったライフスタイ ルは簡単には戻らない。大企業のサラリーマンの在宅勤務は、ほぼ定着した。 まだ中小企業ではテレワークは普及しないが、大企業は人数が多いので影響は 避けられない。都心のオフィスでは使用率が下がったので、面積を減らす動き が常態化した。 ・まず、都心に通勤する人が減った。京都で言えば四条烏丸のオフィス中心街 での人の数が大幅に減った。ランチの混み具合が変わってしまい、テイクアウ トも常態化したことで昼食を自分のデスクで取る人が増えた。ランチは外に出 て、並んで食べるという習慣が完全に崩れた。ランチから夜の集客を当て込ん で営業していた飲食店の運営は、大きな影響を受けている。それと、取引先や 同僚との一杯飲みが極端に減った。その分、飲食店や居酒屋さんの売上が減少 し、タクシーに乗らなくなり、家庭での食事が増えた。家庭での食事が増えた 分、我が家では毎週日曜日の夜は外食と言う習慣が根付いた。その代り、アル コールを飲む分量が減った。酒屋さん、酒販卸店などは大きな打撃だ。 ・確かに巣ごもりではないが、自宅にいる時間数は増加している。以前なら、 何とか理由をつけて週に数回は飲みに行っていた。健康的と言えばそうだが、 おカネが社会に回らなくなった。そのようなライフスタイル、社会生活スタイ ルが大きく様変わりした。送別会、歓迎会、キックオフ会など、何らかの理由 をつけて集まって、歓談し、人間関係を深めるという行為自体が否定された。 感染防止のため、アルコールが目に敵にされて、非常に寂しい、辛い思いをさ れている方も多い。一方で、その業務を生業にされている事業者さんにとって は、大変な出来事だ。青天の霹靂とでも言おうか、予期せぬ出来事とでも言お うか、とにかく激震が襲ったことは間違いない。続けるか、止めるか、どちら もできないか。 <来年4月がスタート> ・まず、来年の4月を基準点にして、そこまでどう事業を運営するかを考え る。この約1年間は緊急事態宣言の発出、終了緩和。また感染の拡大で発出、 終了緩和を繰り返し、徐々に感染の山が小さくなってくる。そして、年を越え て来年の春くらいになると相当感染の山が小さくなる。一部の都心部を除い て、ほとんどのゾーンが危険な地域から外れる。ワクチンの接種率は50%を超 え、集団免疫がかなりできる。変異株も相変わらず現れるが、昨今のワクチン は少々の変異株には有効だ。医療体制も多少余裕がでてきて、クラスターが発 生しなくなる。人の流れも以前の70%くらいには戻る。海外からの観光客、イ ンバウンドも一時の50%くらいにはなるだろう。長期間の旅行より、星野リ ゾートの社長が提唱するマイクロツーリズムが普及するはずだ。 ・ワーケーションという造語も徐々に定着するだろう。ワーキングとバケー ションの造語で旅行先において休暇を楽しみながら仕事もするという新しいス タイルだ。比較的長い休暇を取得し、その間の時間の一部を出先で仕事する時 間に充てる。特定の業務しかできないだろうが、我々士業は同じようなことを 実際にやっている。休暇と言わず、休日に関係なく、いつ、どこでも仕事がで きるような体制になっている。移動中の電車の中でも、休みの日の自宅のデス クでも、出先の少しの空いた時間でも、いつ、どこでも臨機応変に仕事ができ る環境にしている。だから、このワーケーションと言うスタイルはやろうと思 えば、仕事の種類によってはできることだ。要は、やる気の問題だ。 ・ただし、日ごろからそのような働き方を意識して、環境を整えておくことが 要る。急にお題目を唱えても難しい。仕事で使うデータをどのようにクラウド 上に格納するか。セキュリティに関して、どのように手当てをするか。外から リモートでデータにアクセスする仕組みを作っておく。紙の資料を持ち歩かな くてもいいように、ほとんどのデータをデジタル化しておく。その際に、ファ イルの名称の付け方、コードの取り方を統一しておく。画像の収納の形式を揃 えておく。こういう統一された仕事のやり方をいかに徹底するかがポイントに なる。数年前から意識して、準備をしておかないと急にやれと言われても難し い。以前は、この難しいという課題を根性で乗り切れと言うスポ根物語が多 かったが、昨今はさすがに影を潜めた。 <一気に勝負に出る> ・リモートワークは製造業のものづくり現場では難しいことも、十分わかっ た。ただし、打ち合わせや会議はリモートでオンラインでも、完全ではないが できることが分かった。問題は、人が来てその場でサービスを提供する不可分 性が高い業種だ。具体的には飲食業、宿泊業などだ。接客サービスを伴う事業 がこれに該当する。飲食業はテイクアウトも可能だが、料理全体は食材から始 まり、器との調和、素材の解説など、その場でしか提供できない付加価値の部 分が多い。それを飛ばして、テイクアウトのみでの業態に特化するなら、その ような付加価値部分は極力減らすことになる。昔から言われたことだが、料理 は目で見て食べろと教えられた。そのものも大事だが、雰囲気、器との調和な ど、演出すべてが料理なのだ。 ・しかし、今からはそのような定義は通用しない。つまり、消費者の価値観が 変わったということだ。変わったなら変わったなりに、対応しないといけな い。以前の流儀や習慣に閉じこもっていては成長も発展もしない。思い切って 大胆な発想でビジネスモデルを変えるなら、果敢に変えないといけない。お弁 当屋さんでは、複数のブランドのお弁当を扱っている店舗がある。有名な料理 店が提供するお弁当が4ブランド、その店に行ったら売っている。和食で有名 な店、中華で有名な店、サンドイッチで有名な店など、お客さんの好みに応じ てワンストップで対応できる。あるいは、1週間ごとにブランドを入れ替える 店もでて来た。別のセレクトショップでは、月単位でブランドを大きく入れ替 える。 ・こういった発想は若い人からのヒントが大きく影響がある。過去の成功体験 が頭に詰まっている年齢世代では、新しい発想に基づいた新ビジネスモデルは なかなか出てこない。どうしてもリスクを回避し、実績のあるパターンを採用 しようとする。これからの時間が短いと感じる人は、成功確率が若い方を選 ぶ。若い人はまだこれから時間があるから、一度失敗しても大丈夫。挽回でき る時間は長いから、大胆なチャレンジが可能だ。飲食店の業態を大胆に変える のも、中高年以上ではなかなか難しい。実店舗を捨てて、キッチンカーで営業 したり、移動体販売をしたり、無店舗販売に切り替えたり、通販一本に集中し たり、とにかく大胆に切り替えることにトライする。変えるときは一気に勝負 に出る。 <変わらないと生き残れない> ・小売業も宿泊業も、どんな業種でも同じだろうが、お客さんが実店舗に足を 運び購入行動に結びつけるという業態は、早晩手詰まりになるだろう。全くな くなるわけではないが、30%くらいの業績のダウンを何でカバーするかを今か ら考えておかないといけない。新商品の開発を行うか、新サービスの開発でカ バーするか、あるいは全く別の発想で対応するか。全く別の発想でチャレンジ するならこれは新規事業になる。リスクも高いがリターン、つまり収益性が高 いビジネスにならないといけない。鳥貴族という焼き鳥屋ブランドチェーン店 が、ハンバーガー分野に進出するのはその典型だろう。持ち帰りに適した商品 をいろいろと検討した結果、ハンバーガーに至ったということだ。200店で展 開する。 ・考えれば特に構えて新規事業、新商品と言わなくても、通常そのような運営 を日ごろからしているはずだ。事業は同じ事業を同じように繰り返すだけでは 生き延びることはできない。全く何もしなければ7%くらいは事業が毀損する という研究もある。約10年でその事業は終わりを迎える。社会が、世の中がど んどん変わるからじっとしていると自然に事業は陳腐化していく。新車の売れ 行きが発売当初良くても、次第に売れなくなり、最後には終売に至る。だか ら、メーカーは毎年マイナーチェンジを繰り返し、5年に一度はフルモデル チェンジを行って、ブランドの維持向上に努めている。自身の商売も全く同じ だ。細かい改善や変化を常に継続し、たまに大きく変革する。これを地道に繰 り返す。 ・そう考えると、辛抱するときと、大胆に打って出るときを間違わない。大胆 に打って出ようと思えば、逆に毎年小さな改善の積み重ねがないとできない。 突然このようなパンデミックが起こったから、慌てて対策を練っても出てこな い。そもそも代表者に変わる勇気があるのかという基本的な命題に行きつく。 和菓子の超老舗虎屋の黒川代表が言う、「老舗の経営は革新の連続。変わらな いと生き残れない」というのは、極めて正しいセオリーだ。あとは実行する経 営資源がない場合が多い。最後に経営者そのものの勇気があるかだ。大将の腰 がふらついていては部下は迷走するだけだ。毅然たる態度で、不退転の決意 で、最後は自分自身が責任を一手に背負う覚悟で、決められるか。