**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第892回配信分2021年05月31日発行 相手が変異するならこちらも変異する 〜変わることをためらわない〜 **************************************************** <はじめに> ・出口が見えない緊急事態宣言だが、6月20日までの延長が決まった。ぼちぼ ち解除後の出口戦略を考えないといけない時期だが、またぞろ延長になって中 途半端この上ない。20日以降はおそらくいったん解除されるだろうが、その後 どうなるかは不透明だ。おそらく東京五輪1か月前が23日だからその時点で宣 言が発出されているのはダメという判断だろう。IOCはおカネのことで何とし ても強行開催だから、国内世論とのせめぎ合いになってきた。もう後戻りでき ないくらいのぎりぎりのタイミングになってきたので、ここ1か月くらいの動 きから目が離せない。女子柔道で活躍したJOC理事の山口さんが発言していた が、理事の誰もが中止の際のペナルティの金額を明らかにされていいないとい う。 ・情報が完全に藪の中だから、中止とも開催とも、無観客とも、判断がつかな いという。もっともだろう。旅行でもキャンセルの場合のキャンセル代は明確 に記述されている。何日前ならいくらと明確に決まっている。東京五輪はそれ が理事に知らされていないという。トップの数名と政府幹部の一部だけが知っ ているトップシークレットなのだ。おそらく膨大なペナルティの金額だろう が、合理的な根拠や理由があいまいなのだろう。数字を開示した際にその説明 が出来ないのだと思われる。すべては藪の中で、IOCやアメリカのTVメディア との間での交渉で決まった金額だと思われる。今回の延期や中止の場合の責任 がどこにあるのかという責任論も難しい。だから、違約金の分担も分からな い。 ・わからないまま、判断が出来ないという理由でなし崩し的に開催されてはた まらない。終わってからの宴の後始末は日本国の責任になる。最悪の事態、2 週間後くらいに感染者が増加の傾向になったら、パラリンピックは開催できな いだろう。障害を乗り越えて何年も準備をしてきたパラアスリート達の無念の 気持ちは、誰がカバーするのか。決断をしない、できないまま、あいまいに突 き進んでいくのは、古い例えで恐縮だが太平洋戦争の参謀本部の失態とどこか 似ていないか。失敗の本質と言う名著があるが、あの書籍に書いてある失敗の パターンは、全く今回の経過とよく似ている。それぞれの立場に固執し、過去 の成功体験に拘わり、数字や科学を無視した感覚的な判断は、結局墓穴を掘る だけだ。 <出会いの機会が激減した> ・協力要請に応じない店舗、事業者も増えてくるだろう。一向に効果が見えな い中で、生き残るのにみんな必死なのだ。協力金もなかなか振り込まれないと いうクレームも多い。みんな努力してはいるが、効果が数字で見えないと我慢 も限界になってくる。協力の要請だけだと、無視する事業者だけが得をして、 協力した事業者がバカを見ることになる。実際、いろいろな方法を編み出し て、裏口で営業する店舗もあると聞く。友人の持っている空き部屋を借りて、 料理をケータリングで持ち込んで、アルコールはコンビニで買ってくればい い。そういう、言わば潜りの営業をしている事業者もあると聞く。実際には分 からないから取締りの対象にもならない。正直者がバカを見るというのも頷け る。 ・協力をして、営業自粛をして、時短の営業もしているが一向に客足が戻らな い業種、業界もある。修学旅行中心の旅館などはその典型的な例だ。その旅館 の経営が間違っていたわけではない。何も悪いことはしていない。徐々に利用 者は減少しつつあったが、それでも経営的には何とかなっていた。しかし、全 国的に修学旅行という「密」な空間を作る形態はご法度だと言われた。従来は 6畳の部屋に4人くらいは寝て、それが当然のことだとなっていた。修学旅行 は確かに修学し、旅行するのだが、それだけではない。一定の人数で一定の期 間集団で行動することのマナー、規範、統制を肌感覚で学習する。自分が勝手 な行動をすれば、集団にどのようなマイナスが起こるかということも、学習す る。 ・そういう学習はリアルで体験しないと分からない。リモートで学習しようと しても、実際に経験し、体験し、肌で感じないと分からない。そういう機会を コロナは奪ってしまった。なおかつ、事業者からそのようなビジネスの機会も はく奪した。この貴重な体験はこの年代、この時期だからこそ意味がある。成 人になってから修学旅行をしても、あまり意味がない。接触し、触れ合って初 めてわかる人間関係と言うものがある。これは、会社も、組織も、大学も、ど こも同じだ。そのような貴重な社会経験の機会をコロナは奪ってしまった。も う年齢的に取り戻す機会がない。大学でも同じ事が起こっている。ゼミ、クラ ブ、同好会などという人間関係を構築する機会を、コロナが消滅させた。 <祇園の老舗旅館がピンチ> ・先日のNHKのTVニュースで祇園の老舗旅館が廃業の危機にあるという報道 が、堂々と流れた。NHKのTV報道で敢えて流すことを選択したのかもしれな い。実はこの老舗旅館とはご縁があって、現在の社長の奥様、つまり若女将さ んと親交があった。成岡が担当していた某大学の講義にも登場いただいた。イ ンバウンドが好調なときは、祇園の好立地にある旅館は満室だった。そして、 近くに小規模な高級旅館を開設し、京料理を提供する和食店舗も開業した。そ して、比較的好調だったと聞いていたが、NHKのニュースを見てびっくりし た。ここまで実名で報道するのなら、それなりに覚悟があるはずだ。既に廃業 を前提に金融機関と交渉をしているという。多額の借入金と土地、建物の資産 とのバランスを検討中だという。 ・ほとんど全くと言っていいほどお客さんが来ないという。連休のときには数 組の宿泊客があったというが、連休以降は全くと言っていいほどお客さんが来 ない。高級な旅館だから、価格は高い。しかし、お客さんはその価格に見合う 「非日常」の空間、環境を求めている。そのような付加価値を提供していた。 来るのは地元のお客さんではない。海外や遠方の方が、京都という街全体が一 種の付加価値を提供する場所で、しかも八坂神社の南側と言う絶好のロケー ションで事業を営んでいた。京都の地元の方が利用される施設ではない。そう なると、現在の環境は全く逆風と言っても過言ではない。自力で這い上がると いう図式は一切当てはまらない。しかし、この事業者が果たして経営を間違っ たのか。 ・金融機関との交渉の行方は注目だが、おそらく返済をいったん止めても、そ れでも日常の固定費をカバーできる収入の見通しが立たないのだろう。土地、 建物の売却を含めて金融機関と交渉中との報道があった。社長も登場され、無 念の気持ちを吐露されていた。何か別の方法でやり直したいという切実な訴え もあった。土地や建物、サービスの提供のためのしつらえなどにかけた投資の 回収の見通しが立たない。とりあえずのキャッシュアウトを止める方策もな い。一定以上の規模になると営業を閉めても、じっとしていても固定費はかか る。客商売とは辛いもので、実際にリアルで体験していただかないと付加価値 は分かりにくい。「京都独特のおもてなし」という価値は、体験しないと分か らない。 <こちらも変異するしかない> ・日銀が一層の支援を継続するという。雇用調整助成金の延長も決まった。し かし、一時しのぎは限界がある。追加の緊急融資を断られたという事業者さん の相談もあった。ぼちぼち昨年借りた融資の返済が始まるという事業者さんの 相談もあった。リーマンショックのときに行った平成の徳政令のようなリスケ や条件変更のような対症療法での対応は可能だろう。しかし、それはあくまで も対症療法だ。ここからは、再構築ではないが抜本的な根治治療が要るだろ う。競合相手とタッグを組むという選択肢もある。阪神と阪急が合併したとい う歴史的なM&Aの事例もある。今までの常識をいったん全部リセットして、今 後の30年間を俯瞰すると、大胆なアクションを取る必要が見えてくる。 ・今後の大きなトレンドが、一気に襲ってきた、迫ってきた。少子化、高齢 化、人口減少の不都合な真実が突然眼前に迫ってきた。日経ビジネスによる と、少子化どころではなく、無子化というキーワードが登場している。適齢期 の男女が出会う機会が皆無になり、恋愛、結婚と言うシナリオが描けない。ウ エディングのワタミが事業再生に陥った。ADRで債権を大幅にカットし、スポ ンサーを探して、事業の建て直しを図るという。まず、一定の債権放棄、そし て資本注入、経営陣の入替、考え方の転換など、大手術が行われるだろう。居 酒屋の大手チェーン店も瀕死の状態だという。居酒屋と言う馴染みの業態が拒 否されている。アフターコロナの世界では、居酒屋と言う業態がなくなるのだ ろうか。 ・変化には必ず抵抗があり、拒否したい気持ちがある。変わることは面倒だ し、大変だ。昨日と同じ今日でいて欲しい。しかし、環境が激変した。また、 このコロナと言うやっかいなウィルスは、ワクチンの浸透に対してじっとして いない。インフルエンザも毎年流行が変わるように、このコロナウィルスもど んどん変化し、変異している。ならば、事業者もどんどん変化し、変異しない といけない。負けられないと覚悟するなら、自ら変異することだ。相手が変わ るなら、こちらも変わらないといけない。決断は断腸の思いだが、あとになっ てあのとき思い切ってやってよかったという変化にチャレンジしないといけな い。決断しない不作為の罪が一番重たい。うまくいかなかったら、やり直せば いいというくらい、発想の転換をしないといけない。