**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第895回配信分2021年06月21日発行 いよいよ始まるコロナ後のスタートダッシュ 〜準備はできているか?〜 **************************************************** <はじめに> ・やっとワクチン接種の順番が偶然回って来て、成岡の周辺でも65歳以上の方 で接種が終わった人が次第に増えて来た。この時点で1回目の接種が終わった 人の割合がどれくらいか正確には知らないが、まだ50%には届いていないはず だ。2回目が終わって、さらに3週間経過した65歳以上の高齢者の方の割合は 3分の1にも満たないだろう。これが65歳未満の人にまであまねく普及するに は、相当の時間がかかる。あの急ピッチで接種が拡がったアメリカでも、1回 目の終了した人が7割くらいに留まる。先進国だけでも、全体に接種が2回完 了するには、途方もない時間がかかる。まして、後進国も含め全世界的にワク チンの接種が行きわたり、感染が封じ込められるにはまだまだ相当の時間がか かる。終息には際限ない時間との戦いだ。 ・開催ありきで突っ走っている東京五輪。まだまだ予断を許さないが、ここま で来たら意地でも開催にこぎつけるだろう。果たして、ここで緊急事態宣言が 解除されて、飲食店への来店も多少緩和されて、また徐々に感染者が増加する リスクがある。しかし、感染者の増加は織り込み済みで、とにかく何が何でも 東京五輪開催ありきで進んでいる。観客数の制限も1万人以下ならいいだろう という論調が増えている。世論をバックにつけて、内閣は開催ありきで走って いる。もうなし崩し的に、ここまで来たら止められないだろう。ルビコン川を 渡ったのも同様で、いまさら引き返せない。該当期間の安全を確保するため に、臨時スタッフの募集も始まった。ここ当分はスタッフの募集がいたるとこ ろで目立つようになった。 ・7月後半の本番に向けて、いつ、どれくらいのスタッフの増強が必要となる のだろうか。宿泊施設での臨時スタッフ、警備のスタッフ、交通整理、飲食店 など首都圏周辺での競技開催施設周辺では相当量の臨時の雇用が生まれる。採 用して数日では業務が呑み込めないから、最低1か月前からの雇用が前提にな る。これらも五輪効果と言えばそうなので、多くの付帯する仕事が生まれる。 これらに向けてどれくらいの雇用を数字で見込んでいるのか知らないが、感染 拡大のリスクを抑えることと経済を回すことを両輪で行うのは、非常に難し い。自分が責任者で決めろと言われると、果たして決断ができるだろうかと考 えてしまう。日本人の特性として、極端な結論を嫌い、足して2で割るような 折衷案を好む傾向がある。ここが欧米人と決定的に違うところだ。 <国内ワクチン開発の遅れが致命傷> ・日本人はどちらかというと極端な結論は好まない。欧米のように強権的に ロックダウンを行うというのはできない。徐々に徐々に規制を強化して、少し ずつ緩和して、また様子を見てから対策を考える。それに反して欧米では、最 初から強制力を持った措置をして、その間にワクチンの開発を加速化させ、一 定の接種普及ができた時点で規制を緩和する。日本が決定的に遅れたのは、ワ クチンの開発と確保だった。多少の外出規制やアルコール規制をかけても大き な効果は見込めなかった。自国での開発体制がきちんとできていない中では、 外国で開発されたワクチンの確保に頼るしかなかった。情けない。一国のトッ プがワクチン開発会社のトップと直接交渉しないといけない事態にまで発展し た。 ・インフルエンザもそうだが、感染症のワクチン開発は収益が見込める要素が 少ない。感染症はウィルスも変異するし、開発したワクチンが未来永劫に有効 かと言うとそうでもない。冬に流行するインフルエンザでも、今年流行した型 が来年度も流行するとは限らない。変異と開発が追いかけっこになり、開発を いくらやっても追いつかない。未来永劫に継続的に開発を行わないといけない ので、投資費用が非常に高くつく。競争も激しいし、どうしてもレッドオー シャンの市場になる。中小の製薬会社では投資が莫大過ぎて、とても進出する テーマにならない。また必ずしも開発に成功するとは限らない。治験の数、時 間などを考えると莫大な費用がかかる。大企業の製薬会社ならまだしも、中小 の企業ではこれほどリスクの高いビジネスはない。 ・胃腸薬や目薬、滋養強壮などのOTC薬品はロングセラーになるので開発に取 り掛かりやすい。対象者の市場も大きい。それに引き換え感染症患者の市場は 一時的には拡大するが、終息して完全になくなれば、莫大に投資をした新薬開 発の市場では十分回収ができない。どうしても大手製薬会社としては株主の意 向も反映する必要があるので、開発に一歩足が出ない。今回の印型コロナウィ ルスの最大の対策がワクチンの開発だと欧米の指導者が考え、それまでのロッ クダウンを我慢して切り抜けようとした。この戦略は正しかった。想定外だっ たのは、非常に早い時点で変異株の新種ウィルスが発生したことだ。イギリス やブラジル、インドなどでウィルスが変異し、感染力が高まった新種が発生し た。東京五輪の開催で、新種のウィルスが出ないことを祈るばかりだ。 <コロナ後に向けて自社の実態を知る> ・東京五輪が無観客か1万人かのどちらかで開催されるだろう。中小企業の気 がかりテーマは、東京五輪後の経済状態だ。このまま徐々に収束に向かうなら いいが、おそらく必ずと言っていいほど、再度の感染拡大に結び付くだろう。 人の流れが増えれば、ワクチン接種がまだ行きわたらないいまの段階では、感 染拡大に向かうのはやむを得ない。とにかく開催ありきで突っ走っているか ら、もう五輪後のことを考えた方がいい。8月のお盆以降どのような状態で進 むのだろうか。まず、必ず五輪の反動が襲ってくる。ピークからダウンする と、当面の大きなテーマは大阪万博までないから、押し上げる材料に乏しい。 悪いことに秋に衆議院選挙がある。選挙があると一時期経済は停滞し、選挙期 間中経済は冬眠状態になる。 ・選挙結果のいかんに関わらず、経済は徐々に回復への歩みを進めるだろう。 年末商戦は昨年に比較すると多少はましになるだろう。大事なことはインバウ ンド需要がなかなか回復しないことだ。たとえもと通りの生活に戻りつつあっ ても、全体的には70%経済で動くと覚悟したほうがいい。いつも申し上げてい るが、減った30%を何で補填するのかを真剣に考えることと、収入が以前の7 割になるならそれでキャッシュアウトしないために、固定費をいくら減らせば いいのか。また、その収支に借入金の返済原資も入れておかないといけない。 とりあえず赤字から黒字に変わるのは、いくらの売上か。損益分岐点売上の計 算も、借入金の返済を加えたキャッシュフローベースでの損益分岐点売上はい くらか。 ・製造業のように過去の設備投資があって、それに対応する減価償却費が計上 されていればいいが、現金商売中心のサービス業は利益そのものが返済原資に なる場合が多い。赤字になると途端に返済原資が捻出できない。金融機関はあ まり拙速に返済を切り出さないが、本音は借入金の返済をどう考えているのか を吟味する必要がある。保証協会に全面的に保証がついているのか、お店の土 地、建物が担保に入っているのか。または、それでも保証が足りなくて代表者 の自宅などが担保に入っているのか。とにかく、借入金の数字だけを見ていて も、実態はよく分からない。代表者も借入金が相当昔だと、どの借入金にどの 担保が設定されているか、記憶が定かではない。結局、誰も借入金の実態が正 確に分からないという困った事態になる。 <リスタートの準備はできているか> ・東京五輪の開催も、ほぼ確実になってきた。あとは観客数の上限をどうする かだ。五輪のあとの宴の後始末は新しい体制でやるのではないか。都議選、衆 議院選、自民党総裁選などが目白押しで、選挙活動期間中はあわただしくない が、五輪本番中ではなかなか難しい。日銀の金融緩和の継続、雇用調整助成金 の8月末までの延長が決まり、コロナ後に向かって動き出す体制が徐々に見え て来た。JRの人の移動予想は秋から年末にかけて徐々に戻り出すだろと言う。 今年の年末は往時の賑わいを取り戻すか。昨年の年末はお節料理をテイクアウ トして、小さいセットを遠方に住んでいる家内のお母さんが入居の施設にクー ル便で送った。本当は京都に来てもらって、引っ越した新居で一緒に祝うはず だった。 ・ぼちぼちコロナ後に向かってエンジンをかけて走り出す準備をしておかない といけない。しかし、大半の企業では新しい方針が見えない。以前と同じよう な方針で、単に売上の計画だけを作成し、その数字を追いかける。これでは結 局、何も変わっていない。一時期、コロナで業績が低迷したが、何とか緊急融 資と雇用調整助成金で乗り切った。さあ、次にジャンプするぞと思っても、体 力はついていないし、現状何も変わっていない。新商品ができたわけでもな い、新製品が開発されたのでもない。得意先も変わらないし、仕入先も変わら ない。何より、従業員、社員の意識が以前と変わらない。もっと辛辣に言え ば、経営トップの意識が変わっていない。この1年半の苦しみはなんだったの かと思うばかりだ。 ・一番割を食ったのは従業員か。時間外手当、つまり残業は激減し、年間の収 入は2割以上減った。賞与もほとんどなかった。しかし、時間外の関係ない経 営陣や幹部社員の報酬や待遇は変わっていない。天災のようなパンデミックな ので、経営陣にその責任のすべてがあるとは思えないが、このスタートダッ シュで出遅れると致命的なことになりかねない。危機の後には、必ず大きな変 革のうねり、波が来る。戦争の後には必ず技術革新がある。世の中が大きく変 わる予感がするし、その予兆も見えている。それにしては、以前と同じ経営者 の頭の中で変化が見えない。これからの10年は激動になるはずだ。地球環境問 題と人口減少、この2つだけでも大変な出来事だ。果たして、その荒波に向か う準備ができているか。今からでも遅くない。早く始動することだ。