**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第898回配信分2021年07月12日発行 今後経営が厳しい企業が増える 〜まずは従業員の雇用を第一に考える〜 **************************************************** <はじめに> ・1都3県での無観客開催が決まった東京五輪。まだ、それ以外の場所での開 催は有観客になり、北海道は無観客になった。どうしてこうも迷走するのだろ うか。思い切って、すぱっと全部無観客にすればいいではないか。スポンサー に気兼ねしているのか、IOCに義理があるのか。TVの放映権の賠償責任の問題 なのか分からない。外野の我々には、知らされていないことが多いのだろう。 関係者の一部しか知らない、わからないことが多い。すべての情報を開示せよ とは言わないが、都合の悪いことを隠そうとすると、かえって手間がかかる。 当初から、無観客で開催すると宣言して、どういう方策が一番無観客でいいの かをみんなで考えた方がよかった。開催ありきで走ったことでややこしくなっ た。 ・ワクチン接種も同じだ。五輪に無理に間に合わそうと、やみくもに100万回 接種をぶちあげた。根拠がなかったはずだが、とにかくスローガンだけは掲げ た。トップが100万回といえば現場はついてくるだろうという読みだったのだ ろう。案の定、職域や地域、大学、団体などで先行接種の手が挙がった。数字 を締めてみると、非常に大きな数字に膨れ上がり、全部合計すると今度は足り ないとなってしまった。誤算だった。職域で申請した企業も、完全に社員にア ンケートを取って家族や関係者の分までを正確に数字で申請した企業はどれく らいあるのだろうか。早く手を挙げないといけないので、おおよそのアバウト の数字で走った感がある。止むを得なかったのだろうが、あまりに拙速で稚拙 だろう。 ・平時には平時のやり方がある。戦時には戦時のやり方がある。菅首相は平時 には強いが戦時には弱いという評判が立ち、戦時に強い所を見せようと焦った 面がある。都議選もあり、その前の国政選挙の補選で惨敗した。評判と支持率 を上げようとしたのが、逆にまずい結果を招いた。もっと素直に正直に、民意 を汲んで考えた方がよかった。官僚などのデスク上だけのプランは、おおよそ 現場の実情を反映していない。これに反してイギリスでは、まだ毎日多くの感 染者が出ているのに、ウィンブルドンのテニスマッチに多くの観客を入れた り、サッカーの試合に大勢の観客を入れている。感染者が多くても、重症者が 少なく、死者も低く抑えられているから大丈夫との判断だ。これはこれで一理 ある。 <特需に依存する経営はまずい> ・まず、情報開示をきちんとすることだ。五輪の契約条件は一部の関係者しか 知らない。中止の際の罰金や、無観客の際のスポンサー企業との契約がどう なっているのかは、藪の中だ。情報開示がないから、判断がつかない。次に戦 略を明確にする。当初からワクチンの課題は明確だった。国産ワクチンの生産 ができないので、海外メーカーから輸入するしかない。これでは他人の都合に 振り回されるのは分かり切っている。感染が拡がった時点で、すぐに国産ワク チンの開発に舵を切るべきだった。遅きに失した。あと、検査体制の整備や、 医療体制の整備も手遅れだった。戦時には強権発動も止むを得ない。つい最近 では、酒販業者に金融機関を使って脅しをかけるような発言まで飛び出す。完 全に迷走している。 ・方針の迷走が一番いけない。これはコロナ対策、五輪と関係なく、会社経営 でも基本中の基本だ。しかし、具体的な事業計画は数字の計画の羅列で終わっ ている。方針が明確ではなく、とりあえず数字をなぶった計画が記載されてい る。まず、今後どのようにするのか、どのようにしたいのか。その基本的な方 針が明確ではない事業計画が多い。自社での作成を諦めて、外部の専門家に作 成を委嘱するケースもある。そうなると、内容が丸投げになり、補助金の申請 書を書くイメージで事業計画を書いてしまう。数字の辻褄が合えばいいという 風に、本末転倒した内容になりかねない。数字の辻褄より、今後自分の会社は どういう方向に行くのか。コロナ後の事業をどう立て直すのかが書かれていな い。 ・時間がないので、金融機関を納得させるための事業計画になっている。外部 の利害関係者も大事だが、一番大事なのは本人と社員、従業員が納得する内容 になっているか。今後の自社が置かれている経済環境、社会環境、地域情勢か らして、その計画の妥当性はあるのか。特に、コロナで傷んだ自社の経営内容 をどう立て直すのかが明確にイメージ出来ていない。従来の本業を何とか維持 していれば、いずれ神風が吹くという計画になっている。もう、神風は吹かな いと割り切った方がいい。過去には、3年から5年サイクルで神風が吹いてく れた。成岡が在籍した印刷会社でも、数年サイクルで大きな特需があった。ほ とんどが大きなイベントに関する需要だが、それはそれで有難かった。しか し、今はもう、ない。 <意外な競合が現れる> ・特需依存の経営体質は、そもそも経営基盤が脆弱だ。特需の受注がたまたま ラッキーで取れた場合もある。自社しかできないニーズなので、自社以外の企 業が受注できないから、必然的に自社に回ってきたなら、まだ妥当性がある。 しかし、たまたま営業マンと先方企業の窓口担当者との相性がかみ合って、と れた受注もある。接待攻勢で落とした受注もある。何年かに一回回ってくる輪 番の受注が巡ってきた場合もある。いずれにしても、その受注がどうして自社 に来たのかを冷静になって分析しておかないといけない。喜んでいる場合では ない。次回は自社に回ってくる確証はない。また、特需が起こった理由は政府 の施策など法律の改正など、自社の努力の結果ではない。それを勘違いしてい る場合が多い。 ・いずれ競合他社が出てくる。ライバル企業が進出してくると、あっという間 にシェアが変わる可能性がある。自社の特徴、強みが明確ではないと簡単に他 社に発注がシフトする。あるいは、発注先の企業が自社でその事業を取り込ん でしまう場合もある。いわゆる、内製化という手法だ。外部に発注するより、 設備投資をして自社内でやったほうが効率的な場合がある。いとも簡単に発注 側の企業でできてしまうなら、いったい今までの受注は何だったんだというこ とになる。事業価値が極めて希薄で、結局どこの企業でもできたんだと、あと になってからわかる。その時点ではもう手遅れになっている。挽回しようと 思っても、もう発注側の企業では新しい設備導入が行われた。二度と受注が 戻ってくることはない。 ・技術の進歩や、機械の進歩で、いとも簡単に発注側の企業で、そのような仕 事が出来てしまう。印刷業で言えば、お客さんが自分で名刺や年賀状を印刷す る。いまや当たり前にやっていることだが、昔は名刺や年賀状は印刷会社の独 壇場だった。他にも、簡単なチラシやポスター、POPなどの販促印刷物などは 印刷会社が一手に引き受けていたが、いまや発注側の会社での自社制作という のも多い。あるいは、超低コストでのWEB印刷という 新しいビジネスモデルもある。24時間365日やっているWEB印刷事業は、低コス ト、短納期が売り物だ。印刷の品質、クオリティは若干落ちるが用途によって はそれは全く関係ない。そうなると、早いうえに一定の品質がキープできるな ら、当然発注側はそちらに流れることになる。 <まず従業員の雇用を第一に> ・コロナ後の経営が大丈夫かという企業は、多くあるはずだ。昨年は緊急融資 で、政府も金融機関にお墨付きを与えた。企業の事業活動を止めてはいけない ので、無理をしてでも緊急融資を引き受けた。そのような企業が、次第に追い 込まれている。この秋口から年末にかけて、年末から3月の年度末にかけて、 非常に経営が厳しい企業が多く出てくるだろう。既に今までも苦しい経営を強 いられていた。借入金が多く、返済も条件変更をして少額の返済で凌いでい た。そして、昨年の4月に一定金額の緊急融資が下りた。干天の慈雨とはこの ことで、非常に有難かったが、所詮資金収支はマイナスのままだ。緊急融資の おカネも、あっという間に底をついた。来年の1月からこの融資の返済が始ま るはずだ。 ・また、一定期間の条件変更は避けられない。しかし、回復の基本方針の絵が 描けていない。どうして今後アフターコロナの状況で自社の事業を続けていく のかが、全くイメージができていない。金融機関も、保証協会も、いずれは返 済に関して膝を乗り出してくるだろう。どうするのかと問い詰められても、答 えがない。しかし、事業を継続しようと思えば、自社だけで絵は描けない。当 然、大きな決断も要るが、事業価値が少しでもある間に他社に事業譲渡する可 能性も検討するべきだ。従業員の雇用をまず第一に優先しないといけない。何 が大事かといえば、まずは従業員の雇用だ。これは経営者の責務でもある。自 分自身のことより、まずは従業員の雇用をどうすれば維持できるか。 ・当然借入金が多い場合、簡単に他社が事業譲渡を引き受けてくれるというわ けにはいかないはずだ。では、どのような準備をして、環境を整えればいい か。自分では分からない場合も多い。顧問税理士さんも、あまりあてにはなら ない。しかし、じっとしていては答えは見つからない。成岡が責任者を務めて いる京都府の事業承継・引継ぎ支援センターには、昨今このような傷んだ企業 からのご相談が日増しに増えている。すべての案件に明快に答えを見出せると は言わないが、廃業やそれ以外の選択肢を考える前に、セカンドオピニオンを 聞いてみる価値はあるだろう。何とか従業員の雇用だけでも、維持できない か。何らかのヒントはあるはずだ。できる、できないは別にして、可能性を捨 ててはいけない。