**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第899回配信分2021年07月19日発行 コロナ禍で進むか事業承継 〜多くの課題を乗り越える覚悟をする〜 **************************************************** <はじめに> ・成岡の周辺で世代交代が進んでいる。多くの関係先企業では、昨年くらいか ら来年度にかけて先代代表者が後継者に経営の実権を譲る承継事案が数件あ る。実際には、先代が代表取締役に残る場合もあり、簡単に100%の世代交代 が進むとは言えないが、それでも代表取締役社長と言うポジションが次世代経 営者に移ることは間違いない。いろいろな事情で、いきなり先代が経営の表舞 台から退場することはないが、日本では会社を代表するのは社長であるとの認 識、意識が強い。特に、対外的に会社を代表して多くのステージに立つのは、 やはり代表取締役社長と言うポジションに就いている人物になる。専務が社長 に昇格昇進したというだけの交代もあるが、それでも社内、社外に与えるイン パクトは強い。 ・実際に承継の現場を見ていると、そう簡単に先代から後継者にバトンタッチ が円滑にできたという例は、実は少ない。表に出ないが、何らかの多くの課題 があり、それを全部クリアーしての承継等と言う例は、見たことがない。多く は、少々の課題は宿題として先送りして、とりあえずの承継を実行するという のが現実だ。最も多い課題は、業績の改善。特に、昨今はコロナ禍で業績が大 きく傷んでいる企業が多い。売上も2割から3割減ったという企業なら、ほと んどのケースで赤字になっているはずだ。現金は目減りし、緊急融資と補助 金、助成金で何とか凌いでいる。先代経営者からすれば、可愛い息子にこの困 難な時期に社長を譲るのは忍びない。よって、もう少し業績回復の見通しがつ くまで待とうという意識になるのも頷ける。 ・しかし、業績改善の出口が見えない。努力はするのだが、緊急事態宣言が解 除されて、少しは先が見えたかと思うと、またぞろ宣言が復活して、お先真っ 暗になる。何回繰り返せばいいのかと、怒りの感情も爆発寸前になる。怒って も仕方ないが、現実を素直に受け入れる気はしない。しかし、承継の時期はど んどん先送りになる。やはりこれではまずいと、少々の業績の不透明さには目 をつぶって、この春に承継することを決断した。業績や収益の数字で承継の期 限を区切るのは、いつのことになるのか不透明なので、自身の年齢の区切りの いい数字で決めた。バトンタッチしてからも、数年は伴走支援する必要があ り、その余力とエネルギーと時間を余して承継しないといけない。渡して、す ぐに終わりではない。 <まずは親族に> ・ある企業では、社長が相当の年齢に達したのに、昨今のコロナウィルスの影 響で業績が大きく低迷していることを理由に、なかなか後継者の息子さんに承 継できないでいる。大きな理由のひとつが借入金の個人保証の解除問題。設備 投資がかさばり、加えて過去からの業績悪化、低迷していた時期が長く、運転 資金の短期借入金、設備投資資金の長期借入金を両方合わすと、年商を越える 金額になっている。もちろん、ひとつの金融機関だけからではなく、複数の金 融機関からの借入と保証協会、国民政策金融公庫からの借入だ。担保も会社の 土地、代表者個人の自宅、保有資産である自宅近くのアパートなど、いくつか の個人の固定資産にも抵当権が設定されている。なかなかこれらを紐解くこと は難しい。 ・承継が進まない次の理由は、後継者の経験不足である。まだ会社に戻ってき てからの年数が短い。いろいろな事情があって、以前に勤務していた企業を退 職して、この企業に転職した。転職した時点では、業績はそう悪化していたわ けではないが、昨年からのコロナ禍で大きく業績は低迷している。現状は承継 どころではなく、補助金、助成金で食いつないでいるというのが実態だ。こう いう状態は、平時ではなく戦時なので、通常の経営状態ではない。本来の経営 者としての勉強、経験などを積むための適当な機会が作れない。財務の勉強や 営業の経験を積まないといけないが、会社の現状がそれを許さない。このまま では、いつまで経っても後継者としての資質を蓄積することが難しい。 ・また、業歴が数十年あるので、株主が多くの人に分散している。もちろん、 現在の代表取締役である社長が最大の株主ではあるが、その親族と創業時点で 出資した方、退職した従業員などに細かく散っている。相当以前から、承継を 前提に集約をしてきたつもりだったが、株主総会をきちんと開催せずにそのま ま成り行きでやってきた。議事録を顧問税理士に作成してもらい、都度法務局 に提出はしていたが、株主のことは特に気にも留めなかった。しかし、ここに きて承継のことが目前の課題に迫ってくる中で、俄然この件を指摘されて愕然 となった。まず、株主の確定をしないといけないが、現在の悪化した経営状態 を立て直すのに精一杯で、とても気分的にも株式のことまで気が回らない。放 置されたままになっている。 <親族の次は従業員に> ・ある企業では子息の中に承継する候補者がいないので、社長は従業員の誰か に次の代表者になってもらおうと思っている。思っているのはいいが、承継の プロセスが自分では描けない。まず、候補者が数名いる。一番有力な候補者は 勤続も長く、年齢も一番高い。しかし、逆に自分の年齢に比較的近いので、ま た10年以内に次の経営者に承継することが必要となる。となると、いっそもう 一回り若い世代にと考えると、この最有力候補者を飛ばして次の人が代表取締 役になる可能性が高い。そうなると、もっともベテランで、最も業績に貢献し てくれているベテランの社員がどう思うだろうか。もしかしたら、次の世代を 後継者に指名したら、このベテラン社員が退職して独立すると言い出すかもし れない。 ・次の課題は株式の承継だ。過去、有難いことに業績もいい時期が長く続い た。その結果、代表者は意識しなかったが、株式評価の基礎になる純資産の額 が相当高くなっている。株式の評価は時価の純資産で行うので、このまま株価 を計算すると相当な金額になる。よく使うスキームで、先代社長へ退職慰労金 を払って株価を下げる方法を使っても、なおかつ相当な額の純資産になる。こ れを何とかしようと思うと、会社分割や第二会社方式など、相当面倒でややこ しい方法まで採用しないといけない可能性がある。実際、そこまでしないとい けないとは考えてもいなかった。顧問税理士もそこまでのアドバイスは何もし てくれなかった。毎年、毎年、同じように決算書を作成はしてくれていたが、 承継に関し株価のアドバイスは一切なかった。 ・従業員に承継する場合、よくある悩みのひとつは取引先との関係維持だ。い くつかの仕入先、得意先は現在の代表者との個人的な関係の深さで維持されて きている。ずっと長い付き合いで、お互いに信頼関係があり、個人的にも親し い。その得意先、仕入先との関係が次の後継者である従業員になったときに、 果たして同じように維持できるか、はなはだ心もとない。承継を深く考えてい なかったので、特に気にすることもなかったが、いざ承継と言う現実の課題を 突き付けられると、自信がない。いくつかの得意先は社長が交代したら、その うちに離れるだろうと想定できる。一番気になるのは、最大の得意先が離れな いかということだ。次が誰になるかにせよ、もちろん一緒に挨拶に行って、よ ろしくと頼むことは頼むのだが、返事はいいだろうが、果たしてそれで維持で きるか。心配だ。 <廃業は最後の最後> ・親族一族にも、従業員にも後継者の候補者がなければ、場合によっては外部 の第三者にM&Aという方法もあるかもしれない。しかし、そういうことは考え たこともなければ、どのようなプロセスで進めるのかも知らない。知人の企業 は、どこかの仲介会社に依頼して昨年M&Aでそれまで全く知らない会社に売っ たという話しを聞いたことがある。しかし、全く知らない、縁のない人に、自 分の会社を売るなどと言うことを考えたこともない。新聞紙上や、TVなどでは よく聞く話だが、いざ自分のこととなると想像ができない。まして、従業員が このことを聞いたらどう思うだろうかと考えると、とてもその気になれない。 かと言って、具体的な解決方法を思いつくわけでもない。こういう話しは、誰 にも相談できない。 ・多くの中小企業ではこのような悩みがある。一説では、中小企業380万社の うちの3分の1は後継者が決まっていないというデータもある。決まっていな いのと、そもそもいないのでは意味が違うが、決まっていない企業の内多くは 後継者がいない可能性がある。いないとなると、これから後継者を作るのかと なると、はなはだ心もとない。時間が経過すればするほど、社長の年齢は進 み、会社の年輪も増えていく。業績の見通しも、このコロナで不確実だ。そう いう中で、昨今新聞やビジネス雑誌では、老舗企業の廃業の記事が目立つよう になっている。つい最近の日経ビジネスでも、東京の老舗の料亭の廃業の記事 があった。8代続き、永年親しまれた地元では有名な料理店だったが、とうと う廃業を決意したという。 ・廃業ができるには多くの条件を満足しないといけない。資産より負債が多い と、簡単に廃業できないはずだ。安直に廃業という選択肢は、事実や現実をつ ぶさに検証すると、相当難しい場合も多い。決算書では債務超過になっていな くても、清算を前提に資産や負債を精査すると、意外な事実が出てくる場合が ある。後継者への承継は会社にとってみれば、30年に一度の最大の経営課題だ が、意外と意識されてこなかった。ここにきて、団塊の世代の世代交代時期に なり、加えてコロナショックで状況が一気に加速した。前に進むには相当な覚 悟が必要だが、経営者自身の意思決定にすべては委ねられている。あまり時間 をかけている暇はない。とにかく、一歩踏み出す。まず、行動を起こすこと だ。