**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第901回配信分2021年08月02日発行 コロナ禍での事業承継 〜兄弟での経営マネジメントには注意〜 **************************************************** <はじめに> ・感染の拡大が止まらなくなり、またぞろ首都圏と大阪府に緊急事態宣言が出 された。あわせて、近畿圏では兵庫県と京都府に蔓延防止重点措置が発出され た。酒類の提供や営業時間にも制限がかかり、ある程度状態が上向いてきたか と期待を持たせたかに見えたが、またまた足下をすくわれた。これでは、まさ にオオカミ少年と同じで、緩和、規制、緩和、規制の繰り返しで、何回このよ うな繰り返しをすればいいのかと、疑心暗鬼になってしまう。また、感染が少 しましになった時点で緩和を行い、その反動で感染が拡大する。いっそ、一定 の期間を決めてその間は徹底的に規制を行い、ワクチンの接種率が60%を越え たら、規制のこの部分を解除するとか、ゴールを見えるようにしないといけな い。どこまでも走り続けるマラソンはあり得ない。 ・その中でも何とか事業の継続を図ろうと、涙ぐましい努力を続けている企業 も多い。先週から立て続けに、西陣の企業、大阪の企業等、多くの企業経営者 の方にお目にかかった。いずれも、飲食店ではないので休業補償の対象にはな らないが、このコロナショックで大きく売上が落ち込んでいる。飲食店のよう に、休業すれば1日あたり多額の補償金が入ればまだしも、これら対象外の企 業には金融機関からの融資しか資金調達を図る手段がない。昨年は、コロナ ウィルスが蔓延し出した時点で、ゼロゼロ融資と言う大盤振る舞いが行われ た。そして、持続化給付金や家賃補給金も実施された。各自にも10万円があま ねく支給された。しかし、雇用調整助成金は12月までの延長はあるが、それ以 外の大型の支援策はほとんどが終了した。 ・飲食店などの休業補償の対象以外の企業や事業者には、なかなか支援策が行 き届かない。観光関係の企業も、小売業も、売上の減少ははなはだしいが、妥 当な支援策は見当たらない。京都も、嵐山、清水などの景勝地、観光地も、夏 休みにも関わらず閑古鳥が鳴いている。コロナ後への施策はいろいろとあるだ ろうが、いま足下の資金繰りが枯渇しかけている。金融機関のゼロゼロ融資 も、国民生活金融機関が窓口で、一般金融機関では通常の融資しか対象になら ない。となると、審査は厳しくこれ以上の追加の融資は受けられないという案 件が増えている。お先真っ暗になり、全く出口も、足下の見通しも立たない。 そのような企業や事業者が今後年末から、来年の年度末にかけて急速に増えて いくだろう。 <同族兄弟での運営は難しい> ・そのような業績の不透明な中でも、後継者に敢えて承継を決断した企業もあ る。当然、借入金は多額にあるし、売上も低迷している。親心としては、もう 少しましな状態での承継を希望はするが、現状を考えるといつのことになるか 分からない。分からない、分からないといいつつ、結局期限が切れないのでず るずると先延ばしにしてきた。しかし、ここに来て出口はずっと先の闇の中と 言うことが明白になった。ならば、いつまで待っても状態は好転しないので、 一大決心をして子息に承継することにした。後継者もその状態を受け入れ、最 近代表取締役社長に就任した。先代は、代表取締役会長になり、もう少し後継 者のサポート役に回る。100年以上継続している企業なので、何とか経営が維 持できるようにしたいものだ。 ・逆に、このコロナを機会に市場の開いた穴をねらって、増産に踏み切ろうと いう企業もある。巣ごもり需要が旺盛で、いまの生産量では今後の市場の拡大 についていけないので、思い切って増産の設備投資を考えている。しかし、い ずれにせよ資金調達が必要だ。その際に必ず言われるのが、後継者問題。現在 の代表者が60歳を超えていたら、長期返済の借入金には必ず後継者がどうなっ ているかを問われる。それくらい、後継者問題は企業経営の重要事項だが、意 外とそのような意識が経営者に希薄だ。一族子息だから承継が簡単というもの でもない。一族子息への承継には、相続問題や親族間の多くの調整ごとが必ず つきまとう。兄弟が多い子息の場合は、なおさらだ。長男に相続財産を集めれ ば、必ず遺留分の配分に関して揉める。 ・家系図や役員の構成、登記簿を見せてもらって、同じ苗字が多く記載されて いると、なにやら不安を感じることも多い。まず、関係図を書いてみるが、本 人、弟、姉、姉の夫、社長の兄弟など、同じ苗字や親族一族がオンパレードの 企業もある。特に、長男、次男、三男の3名が会社に在籍している企業もあ る。さらに、男性の兄弟以外に女性も会社に在籍の場合もある。兄弟が助け 合って運営、経営していくのだろうが、長兄が代表者にふさわしいかと言う と、必ずしもそうでもない場合もある。大事なことは、能力と性格だ。やは り、人にはそれぞれ長所があり、その長所を活かすような布陣をしないといけ ない。しかし、どうしても感情やいろいろ恣意的な要因が重なり、客観的な要 素だけで決まらない。 <兄弟で揉めると解決に時間がかかる> ・兄弟のうち、弟が先に会社に在籍し、長男があとで何らかの事情で会社に 入ってくるというケースもあった。もともと、弟が小さい時から後継者だと言 われ、長男は学研肌だから別の企業の研究職に就職した。それはそれでよかっ たのだが、長兄が就職した企業の経営が悪化し、希望退職を募集したことを きっかけに、長兄が希望退職に応募して退職した。その結果、先代が長兄を自 分の会社に入れた。もちろん、弟の承諾を得てからだろうが、そこをショート パスして事後承諾にした。何も知らされていなかった弟は、当然気分が悪い。 しかし、ことはもう進んでいた。後戻りできない状態になり、父親社長は少々 の軋轢は覚悟で押し切った。しばらく、ぎくしゃくしたが、弟が代表取締役社 長、兄が代表取締役専務になり、役割分担をして何とかうまく運営されてい る。 ・しかし、株式は社長の弟が70%、後から入社した兄が30%。特別決議ができ る3分の2以上を弟の社長が保有している。実質的な決定権は社長にある。報 酬は、しかし同じ。同じにしないと関係がこじれるので、社長、専務になった 時点で揃えた。借入金の個人保証は、借換えの都度順次外すようにしてもら い、現在有利子負債はあるものの個人保証はない。この状態になったのは、先 代父親社長が亡くなって数年後からだ。いずれも50歳代になり、ぼちぼち今後 の自分たちの後継者のことがちらつき始めた。株式をどうするかがポイントだ が、まだ時間があるので兄弟でよく話し合いながら進めるだろう。何より、こ の兄弟経営者のいいところは、お互いによく会話する。奥さんとも一緒に食事 をしたりして、相互理解に努めている。当初、心配したが何とか運営できてい る。 ・逆のケースもある。いや、逆のケースの方が多いだろうか。兄が後から会社 に入り、弟と揉めて、株式を一部持ったまま出て行った。こともあろうに、競 合他社に株式を持ったまま入社してしまった。本来、役員としてこのような行 為は禁じられているのだが、お構いなくそのような行為に打って出た。そし て、さらにこじれて株式の買い戻しに関して訴訟となった。訴訟の原因は買い 取り価格。相続でただでもらった株式だから、高額の買い取りを社長は拒否し たが、保有する兄は譲らない。とうとう、訴訟と言う場面に持ち込まれ調停に 長い時間がかかった。最終的には一定の金額で決着したが、数年の歳月とムダ な時間と弁護士費用がかかった。挙句の果てに、社長が心労から病にかかり、 数年後に不治の病で他界した。この会社は、その後非常に重篤な経営危機に直 面した。 <兄弟間のコミュニケーションが大事> ・兄弟は他人の始まりと言う名言もある。逆に兄弟でうまく経営を回している 企業もある。しかし、一般的には兄弟でうまく運営されている企業の方が少な いのではないか。有名な上場企業でも、兄弟でうまく運営できているのは、カ シオ計算機で有名なカシオ、最近ではユニークな電化製品の開発で一躍脚光を 浴びているアイリスオーヤマくらいか。それ以外は、あまり表に出ないので知 らない企業も多いだろう。また、兄が開発、弟が社内管理をきちんと分担し、 それぞれの領分をきちんとマネジメントされている企業も多い。その場合、兄 と弟の年齢が離れている場合は、比較的スムースに運営できる。難しいのは、 2歳くらいしか離れていない兄弟の場合だ。社長がリタイアするときに、セッ トで弟も引退することになるのか。 ・中小企業では、社長以外はみんな黒子のような場合が多い。しかし、実際に は外部で代表者が活躍、活動できるのは、城代家老のようなしっかりしたお目 付け役的な管理部門をきちんとマネジメントできる一族がいることが多い。こ の総務的な管理部門は非常に重要で、人数は多く要らないが、労務、人事、総 務、財務、会計、経理、システム、物流など多くのサポート部門を統括する。 逆に、企画力が必要でコストセンターであるので、売上が上がる部門ではな く、すべての活動、行動は費用につながる。それだけに、そのような間接部門 を束ねる人材は非常に貴重で、他人より身内がやることが好ましい。成岡も、 一族で運営していた出版社に在籍の折りは、相当長い期間この管理部門の責任 者を務めていた。東京支店長を兼任していた時期は、数年間単身赴任で東京に 住んでいた。 ・結局4兄弟で運営していた成岡が在籍していた出版社は、平成バブルがはじ けてからジェットコースターを転げ落ちるように業績が奈落の底に落ち込み、 あえなく平成8年に特別清算を申請し、実質破産した。300名、100億円の企業 があえなく無残に散ってしまった。反省点は、兄弟4名のコミュニケーション が悪かったことだ。全員、家族があり、生活があり、別々に暮らしている。会 社で顔を合わすのは、ほんの一握りの時間だけだ。その瞬間だけで大事な情報 交換ができて、情報共有ができるはずもない。しかし、それぞれが要職だか ら、いつも4名が集まっている時間がほとんどない。全く顔を合わさないとい う週もあった。経営の基本は、相互理解。そのためのコミュニケーションだろ う。いまさら、後悔しても始まらないが。