**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第904回配信分2021年08月23日発行 規制は当初の想定以上に長引く 〜これを機会に抜本的な改革に取り組む〜 **************************************************** <はじめに> ・京都府にも再度緊急事態宣言が発出された。期間に関しては自民党の総裁選 挙や衆議院の総選挙などの日程と絡んで、多くの推測がされている。しかし、 世間はそういうこととは無縁で、この危機的な状況をどう乗り切ろうかと、 戦々恐々だ。特にやり玉に挙がっている飲食店関連の業界は、もうほぼお手上 げ状態だ。自粛や規制と言っても、ほとんど効果が見えない状況で、さらに一 層の厳しい状態を続けるのは、もう最後通牒を突き付けられているのと変わり ない。現状は自粛をお願いするしかないので、自主性に依存しているが、果た してこれで解決に導けるのか、はなはだ疑問だ。もっと拘束力のある法規制を しないとこの難局は乗り切れないのか。現状打開の方策は見えていない。迷走 している。 ・TVのニュースを見ていると、対策先進国のニュウージーランドではたった一 人の感染者が発見された時点で、3日間の夜間外出禁止令を発出した。さら に、その後18人の感染者が確認されたという。規制がその後どのように強化さ れたか定かではないが、とにかく少しでも変調を来したら、可及的速やかにア クションを取る。このスピード感は素晴らしい。翻って、わが日本国はがちが ちの法治国家であるので、主権の侵害になる強制力を持つ規制は法律の後ろ盾 が要る。根拠になる法律が成立していないと、そのような対策は取れない。現 状は、国会は夏休みで国会議員は地元のお盆の行事に参加し、東京を空っぽに している。閉会中審査も数回行われたが、危機感が感じられない。野党もだら しない。 ・全国のほぼ半分の地域で、毎日毎日過去最高の感染者数を数え、医療体制が 崩壊の危機に迫っているという。地元京都でも、ついこの前までは非常に少な い感染者数だったが、急に増えて来て毎日400名を超えている。このまま自宅 療養者が爆発的に増加すると、確率的には入院できないで重篤になる人が間違 いなく増える。緊急の野戦病院のような臨時の施設を作るべきと言う声が日増 しに高まってきた。イギリスでは、たった9日間で大規模な野戦病院を新設し たという。軍隊主導であっという間に作ったらしい。かの中国では共産党政権 だから、掛け声をかければ動くのは理解できる。しかし、あのイギリスでもで きたことだ。見習って、それくらいの大胆な行動をとるべきではないか。何事 もテンポが遅い。 <捨てるものは思い切って捨てる> ・では、我々中小企業の対策はどうすればいいか。外食大手のワタミが従業員 にワクチン接種を義務付けるような施策を打ち出した。ワクチン接種は任意 で、その人の意思に任されているが、店舗を運営し事業を継続するには従業員 にワクチン接種を義務付ける方向に舵を切った。賛否両論あるだろうが、これ も一つの考え方だ。職場で、ワクチンを2回接種した人と、全く打ってない人 が混在すると、リスクマネジメントが出来ない。ならば、個人の意思に任すの ではなく、自社の組織ではワクチン接種を必要十分条件にした。異論のある方 もあると思うが、経営者としての判断としては理解できる。自社の事業を継続 し、従業員の雇用を守ろうとすると、何らかの基準を設けないといけない。 ・次に、この状況がまだまだ相当の期間続くとの前提に立つことだ。来年の春 ごろには相当経済は戻るだろうと想像していたが、かなり遅れそうだ。どれく らい遅れるとみるかは業界業種によるだろうが、若者へのワクチン接種が進ま ないこと、高齢者には3回目の接種が必要なこと、さらなる変異株の出現も否 定できないこと、などなどの要因を加味すると、まだまだ不透明な状態だ。加 えて、強制力のあるロックダウンの対応が可能になるかもしれない。夜間の外 出禁止などだろうが、こうなると20時での営業中止では済まない。仕事帰りが 20時以降になるのを避けないといけないとか、どうしても夜時間しかできない 業務に支障がでる。多くの犠牲を払ってでも、夜間の人流を減らさないといけ ないという状況に追い込まれることも考えられる。 ・まだ予測の域を出ないが、楽観的な想定は厳に慎むべきだ。想定はネガティ ブにしておいたほうがいい。売上で言えば、右肩上がりはあり得ない。現状が どれくらいかは別にして、従来の70%くらいが目一杯ではないか。例えば売上 が過去の平均値で3億円であれば、2億円くらいで設定するべきではないか。 2億円ではおそらく従来の方法では経営は成り立たないだろう。どのような方 法で30%ダウンの経営を成り立たせるのか。普通の考え方では、到底あり得な い前提だ。少しの節約、節減では難しい。思い切った抜本的な対策が必要だ。 広い家から狭い家に引っ越すなら、多くの家具や荷物を捨てないと入れない。 成岡の多くの事務所の移転や自宅の引っ越しの経験からすると、そのような機 会がないと捨てられない。 <戦時には改革はやりやすい> ・事業構造も見直さないといけない。今までは、昨日の状態が今日も、明日も 続くという前提で事業計画を作成していた。しかし、今からはそうはいかな い。昨日までの事業が1年後、3年後にあるという前提は崩れた。まして、5 年後はどうなっているのか分からない。今までの事業計画は、3年後までの数 字の計画を作成して、4年後、5年後はその延長線上にあるという前提で作成 していた。しかし、今の事業があるとは限らない。事業所の場所も、現在の場 所で営んでいるかは分からない。諸般の事情でどこかに移転している可能性も ある。いまの場所が便利だから、そこでずっと事業を営んでいるが、物流、採 用、通勤、貯蔵などを考えると分散したほうがいいかもしれない。あるいは、 新しい高速道路の完成に伴い、移転する方が得策かもしれない。 ・昨年は一生懸命リモートで業務ができないかと努力したが、一部の業務を除 いて中小企業ではリモートワークが難しいと感じた。理由は簡単。中小企業で は各自の役割が単純ではなく、重複し錯綜しお互いにカバーしてマルチタスク を自然に行っている。大企業のように組織が整然とできていて、それぞれの ミッションが明確なら可能かもしれないが、中小企業はメンバーの少ない野球 チームの様で誰でも、どこでも守れないといけない。内野しか守れないと言う のは通用しない。社長も場合によってはトラックに乗って納品に行かないとい けない。それができないと、中小企業は成り立たない。なので、リモートワー クには向かないことが分かった。自宅の通信環境も不揃いと言うのも、ひとつ の原因ではあるが。 ・ただし、出勤時間帯の調整や、フレックスタイムの導入など、働き方改革に も関連し出社はするが新しい働き方を模索しないといけない。時間帯、休暇の 取り方、残業のやり方など、工夫する余地が多くあるはずだ。コロナを理由に そのような改革から逃げてはいけない。むしろ、この困窮した状況がいい意味 で後押ししてくれると信じて、次のステップに勇気をもって踏み出すことだ。 トップが逡巡していたり、迷っていたりする姿は組織に敏感に反映する。経費 の大幅な削減は、トップの不退転の決意がないと実現しない。バブル時期に大 盤振る舞いでばらまいた多くの既得権益を、この時期に大幅に見直すチャンス だ。何もなく順調な平時に痛みを伴う改革はできにくい。逆に、今がチャンス かもしれない。 <後継者と幹部で共有する> ・まず、この状態がまだ1年以上続くという前提に立つことだ。高齢の経営者 の方の中には楽観的な見通しを立てられ、自社だけは大丈夫と能天気にされて いる場合もある。いつかは戻るだろうとの想定は、この際捨てた方がいい。そ して、そのことを後継者や幹部社員と共有しておかないといけない。前提が変 わったなら、自社はどうすべきか。まず、その変わった前提を共有する。経営 者自身が、深刻な将来に対する懸念を表明し、このままでは会社の存亡にかか わるとの危機感を持った認識を共有する。この危機感を共有することは相当に 難しい。人間は、誰も痛みを伴う改革には眼をそむけたくなるものだ。嫌なも のは見たくない。痛い目には会いたくない。それは当然の感情であって、全く 不自然ではないし、普通ならそうだろう。 ・しかし、何らかの痛みを伴う改革をしないと自社の存亡にかかわるとの認識 を経営者が持つなら、そのことをきちんと説明する義務がある。そして自らが 率先して自社の存亡をかけた戦いに打って出ないといけない。大将が社長室で 閉じこもっていたのでは、全軍の士気に関わる。いまが戦時なら戦時の戦い方 をするべきだ。従来と同じように決まった時刻に会議をするなどという慣習を いったんはやめるべきだ。毎月の資料作成に要している時間を、対外的な活動 や営業活動の時間に振り向けるべきだ。時間単価の高い幹部が長い時間拘束さ れる会議を極力短縮する。立ったままで会議すれば1時間で終わるはずだ。こ れを機会に従来から何気なく続けている多くの習慣を見直すことだ。いいチャ ンスだ。 ・繰り返しになるが、このパンデミックは相当長期戦になる。そして、落ち着 いた頃には見える景色は相当変わっているだろう。時間も当初の想定以上に正 常化するにはかかる。あるいは、もっと厳しく考えると正常化しないと思った 方がいい。そもそも従来に戻るという前提を捨てるべきだ。このパンデミック に合わせて動き出した「カーボンゼロ」へ向けての動きも大きな影響を与え る。人口減少も止まらない。これらの自社の経営に大きな影響を与える要因が 一気に押し寄せている。幕末の黒船の襲来どころではない。明治維新と太平洋 戦争の終結が一気に押し寄せた。自社が本当に後世に向けて生き残り、成長 し、発展することを願うなら、この未曽有の危機に果敢に立ち向かう覚悟を固 める。それを後継者と幹部社員で共有する。雨降って地固まる機会にする。