**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第911回配信分2021年10月11日発行 旅行とは価値創造の旅 〜コロナで消えた需要を取り戻す秘訣〜 **************************************************** <はじめに> ・いよいよ緊急事態宣言が解除になり、多くの動きが始まった。会食、イベン ト、旅行など、今まで辛酸をなめていた業界が一斉に動き出した。繁華街の人 出も相当の勢いで戻りつつある。リバウンドが恐ろしいが、当面は恐ろしいな がら経済の復旧、復興に向けて動き出すのだろう。観光地の多くのお店も、こ の人出を見てほっとする反面、現在言われている第6波の感染リバウンドを恐 れている。ワクチン接種の進み具合次第だろうが、今のところ順調だ。一時 期、先行されたアメリカの接種率を逆転した。懸念材料は、最近の激減した感 染者数が、本当に実態を反映しているのか、という点だ。一説によると、検査 数が減ったので感染者数の検出が少なくなったとの説明が、何となく本当らし い感じもする。 ・現在の発表データだけでは、よく分からない。感染者数の絶対値で、毎晩一 喜一憂しているのが実態だ。確かに、一時期に比較すると感染者数の絶対人数 は激減した。実はこの激減の原因、理由がはっきりしない。ワクチン接種率だ けでは、専門家も説明がつかないと言う。では、本当の原因、理由は何だろう か。分からないので、リバウンドの懸念がある。原因が分かっておれば、対策 も考えられるがどうもそうではない。治療薬はまだ開発途上だし、それ以外の 有効な感染対策は特にない。強いて言えば、国民全体に感染に対する日常の行 動変容が定着したということくらいか。マスク、手洗い、消毒、うがいなどの 日常行動が当り前になってきた。それがこの感染者数の激減の理由だとすれ ば、それはそれでいいことだが。 ・これから業績を挽回しようとしている企業や団体も多い。先日は旅行代理店 関係の業界の企業の方と多く面談する機会があった。京都府の地域の方なの で、全国的には数字は多少異なるかもしれないが、10年間の過去の平均値と比 較すると、この1年間は平均値の10分の1以下の業績になっている。棒グラフ をいただいたが、この落ち込み方は半端ではない。それまでは年度ごとに多少 のブレはあった。あっても、プラスマイナス10%くらいに収まっている。誤差 の範囲内の業績の変動は仕方ない。しかし、昨年1年間の業績の落ち込みは、 本当に惨憺たるものだ。よくこれで業界の多くの企業や事業者が維持できてい るのかと、半ば感心した。事務所の移転や、人員の縮小、代表者の給与の返上 など、涙ぐましい努力で維持している。 <職場旅行がなくなった> ・旅行というものを、確かにここ1年半くらい全くしていないことに気が付い た。ビジネスで東京や北海道に行ったことはあるが、家族や友人たちと旅行と いうものをした記憶が思い出せない。業界の方のお話しでは、会社の職場の団 体旅行が激減した。以前なら、少し業績が良かったら、社員とその家族の方た ちで2泊3日くらいの旅行というのがよくあった。景気のいいときは、近場の 海外旅行というのもあった。あるいは、成岡が以前所属していた会社では、毎 年春に役員と幹部で福井県の近場の温泉地に出かけて、半分会議、半分慰安と 懇親という旅行もあった。会社の費用で落とすから結構贅沢な旅行の年もあっ た。あるいは、職場で積立金をして毎年秋に職場での1泊2日くらいの懇親旅 行というのもあった。 ・京都からなら、伊豆、道後、山陰、北陸などが定番だった。あまり遠方だと 行くだけで時間がかかるので、片道3時間くらいまでか。バスの場合もあった し、新幹線のときもあった。人数は20名から30名くらいか。会社で全員という のが難しくなり、2回に分けて分散して行った年もあった。一度、土曜日の留 守番を仰せつかって、会社にかかってくる電話の対応を任されたことがあっ た。ややこしい電話がかかってきて、難儀したこともあった。担当者を出せと 怒られて、会社の慰安旅行に行っていますとも言えず、返答に困ったことも あった。いま、依頼した原稿ができたので取りに来いと言われて、大学の先生 の自宅まで取りに出かけたこともある。その当時、昭和の終わりから平成にか けてだが、職場旅行は年中行事だった。 ・その職場や団体、老人会や町内会、クラブ、同好会などのいろいろな団体で の旅行が消え失せた。蒸発してしまって、この消えた需要は戻ってこない。延 期ではなく、中止であり、消滅した。この売上のマイナスはカバーできない。 キャッシュの目減りは挽回不可能だ。諦めるしかない。卒業旅行は卒業の時点 だから卒業旅行であり、3年経ってみんなが散ってしまってからでは卒業旅行 にならない。リバイバルで行うのもいいが、やはりその時、その時の想い出と して大事なのは、その時点で行くからだ。大学生から社会人に人生が切り替わ るタイミングで行くことに意味がある。もう社会人になってから3年経っての 卒業旅行は同窓会みたいなものだ。気分も感慨も、全く違うだろう。もう止め ようかとなりはしないか。 <業務の出張がなくなった> ・京都の旅行業者なので、大学の教授などが海外の学会に出かける業務出張が なくなった。全くなくなったわけではないが、初回は出かけても2回目以降は リモートで行うことが増えた。時差があるので簡単ではないが、学会や会合は 劇的に減った。それに伴い、教授たちの海外出張がなくなった。これは大学に 限ったことではない。製薬会社や大手企業、一部上場企業などの海外出張がほ とんどなくなった。入国に際し、14日間の隔離が義務付けられていた間は、本 当にほとんどの海外出張がなくなった。当然、旅行会社に依頼することもなく なって、航空会社もホテルも完全にご用がなくなった。海外のナショナルフ ラッグの航空会社も経営危機が叫ばれている。自分たちの責任ではないが、遠 方に行かなくても用事が片付く時代になった。 ・ビジネスの出張がなくなると、そのお世話をしていた旅行業の会社は収入の 道が途絶える。総額に対する手数料、コミッションが収入=売上なので、全く 売上が立たなくなる。なにせ、人の動きがばたっと止まってしまったのだか ら、人の動きが収入の企業では収入の道が完全に途絶えた。数日間でも海外に 出向けば、飛行機代は相当な金額になる。まして、ヨーロッパに数日滞在し て、飛行機で往復するとなると相当な金額の出張旅費になる。現地での宿泊、 移動、会合へのアテンドなど、おカネになる部分は多い。航空会社も辛いだろ うが、旅行会社も同様に非常に辛い。日本国内では、大手航空会社が大幅な赤 字欠損を計上した。手元の現金の流出が止まらず、資本金の強化を図るために 劣後ローンなどという奥の手まで繰り出した。 ・JRや各地の私鉄も大幅な赤字を計上した。国内JR各社は創業以来の大きな赤 字になった。一時期新幹線の車両に2名しか乗車していないという珍事態が起 こったという。新幹線が空気を運んでいる状態になり、JR東海も大赤字を計上 した。各地の私鉄も同様で、私鉄の多い近畿地区では、阪急はじめ近鉄、京 阪、南海、阪神など、おおよそ赤字と無関係と思われていた事業会社が風前の 灯火となった。夜の遅い時間帯の電車が間引きされ、金曜日の終電の時刻も相 当繰り上げになった。今までの普通の光景がなくなり、しばらく異様な風景が 目前で繰り広げられた。しばらくは茫然としていたが、数か月経過するとあま り違和感はなくなった。これが普通の光景かと錯覚するようになった。学生が 電車にいない風景にも、何やら慣れた。 <新しい価値を生む旅行企画を> ・さて、このように人が移動して成り立つビジネスの復活は容易なことではな い。人の移動が従来のように活発にならないと、旅行を生業にしている業界は たまらない。しかし、世の中は随分と様変わりした。直接面談することが避け られるようになり、オンラインと言う方式を利用し画面上で面談することが多 くなった。東京に出張に行くことも極端に減って、ほとんどの遠方との面談は Zoomなどのオンラインになった。ビジネスの面談はそれで済むかもしれない が、観光と言う感動を受けるために出かける行動は、やはりその場に行かない と体験できないものがあるからこそ、そこに出かけるのだ。いくら画面上で風 景だけ満喫できても、それは違う。ゴルフ場でゴルフをするのと、画面上のゴ ルフのシュミレーションと違うのと同じ理屈だ。 ・出かけて、その場でしか分からない感動と体験が大事だ。なんとなく、建物 や施設を眺めているだけでは、一層の感動を味わうことはできない。旅行とは 非日常に会いに行くのだから、感動を生み出す非日常の空間を演出しないとい けない。誰でも、子供の時に初めての場所に行って、大きな感動を味わったこ とがあるはずだ。初めて新幹線に乗ったとき、初めて飛行機に乗ったとき、初 めての体験は深く心に刻まれている。そのような非日常の感動を味わえる場面 を、旅行でいかに提供できるかが勝負だ。単に神社仏閣に案内すればいいとい うものではない。そこの歴史から何を学び、何を感じるのか。過去から現在ま での過程の中で、どのようなドラマがあったのか。それをいかに再現して臨場 感を感じてもらうのか。 ・旅行業とは感動を与えるビジネスだろう。単に、移動と宿泊と食事の手配を するだけではない。それなら、最近ではすべてWEB上で完結する。その場でし か味わえない感動をどう演出するか。つまり最近で言う「コト=価値」の演出 だ。見ること以外、やってみる、さわってみる、創ってみる、味わってみる、 最後は参加してみる。そういった非日常を演出し、体験し、感動する「価値」 を創造できる新しい旅行プランをどう演出できるか。それができないと、旅行 は単に画面上になり、手配は無味乾燥なNETで済むことになる。人が介在し、 新しい「価値」を提供できてこそ、これから生き残れる旅行業になれる。これ は旅行業だけの課題ではない。よく考えれば、すべてのビジネスに当てはまる だろう。どんな業界も、これからは規模ではなくて、「価値創造」がビジネス の成功を生み出す。