**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第917回配信分2021年11月22日発行 コロナ後の立ち直り方策 〜従業員に積極的な情報公開を〜 **************************************************** <はじめに> ・このコロナショックで傷んだ社業を立て直そうと、みんな必死で回復に汗を 流している。ところが、全社挙げて汗を流しているかというと、必ずしもそう でもない企業もある。特に経営陣が一枚岩にならず、ちぐはぐな動きになり、 全体としてばらばらの印象を受ける企業も多い。社長以下、この難局を全員が 同じ方向を見てベクトルを合わさないといけないのだが、必ずしもそれがうま くいかない。うまくいかないより、お互いに足を引っ張るという醜態を演じて いる企業もある。そこそこの人数になると、情報が全員に等しく行きわたらな いので、仕方ない面もあるが危機感の持ち方に相違があるのだろう。本当は相 当に痛んでいる財務内容も、一部の役員にしか共有されていないので、危機感 が浸透しない。 ・特に、今から冬の賞与の支給時期に差し掛かり、この取り扱い、判断で意見 が分かれるだろう。経営陣としては、いまの財政状態ならほとんど賞与の支給 はあり得ない。ゼロゼロ融資は受けたが、依然として毎月の資金収支、キャッ シュフローは持ち出しになっている。本来はゼロ回答だが、夏の賞与もほとん どゼロ回答に近かった。冬の賞与と言うのは、日本では少し特殊な受け止め方 があり、年末年始を控えて「モチ代」という意味が強い。年を越すための越冬 資金という側面がある。賞与で多額のローンの返済を組んでいる人もある。確 かに、会社の業績は相当傷んでいる。しかし、従業員からすればそれは自分の 責任ではない。パンデミックと言うどうしようもない不可抗力の出来事だ。そ れで自分の賞与が減額されるのは納得できない。 ・このような考え方に対して、経営陣が納得できる回答が出せるかと言うと、 普通は難しいだろう。なぜかというと、会社の財務内容を一定の範囲までしか 公表していないからだ。毎月の試算表や決算の内容など、ほとんどの中小企業 では財務内容の公表をしていない。おそらく大半の企業では、売上の数字は会 議や朝礼などで発表、公表しているだろうが、それ以上の数字の公表はされて いない企業が多い。せめても、その下の利益くらいは伝えている企業も多いだ ろうが、中間にある原価や経費の詳細を伝えていないから、頭の売上と尻尾の 利益だけを言われてもぴんと来ない。まして、それ以外の数字、特に借入金や 債務超過の数字などの公表は一切ないだろう。 <従業員に正しく伝える> ・売上と最後の利益だけを言われても、その途中経過が分からないと自社の状 態がいいのか、悪いのか、一切藪の中だ。売上はそこそこだが、設備投資や過 去の赤字の補填などで資金的に厳しい企業も多い。特に、今回のコロナショッ クでどれくらい痛んでいるのかを、きちんと伝えていない企業が多い。会社の 資金状態を伝えて、それを従業員や社員がどう受け止めるか自信がない。曲 がって伝わるととんでもない噂や情報が流れて、疑心暗鬼になり妙なフェイク ニュースが人心を惑わすことを恐れている。そういう経営者の方は多いだろう が、逆にきちんと伝えないことで従業員は不安に思っていることを理解してい ない。ちゃんとした説明が面倒だという経営者の方もいる。しかし、丁寧に時 間をかけて自社の経営状態の数字を説明することは、非常に大事だ。 ・まず、単に発表しただけでは正確に伝わらないことを理解することだ。中小 企業では、従業員の大半は中途採用だから、従業員の知識レベルは本当にまち まち。未来永劫に一定レベルには揃わない。その不揃いのレベルを、時間をか けて努力して一定レベルに引き上げることは、経営陣のミッションだ。しか し、そのようなミッションを真面目に取り組んでいる企業は少ない。成岡は過 去に多くの企業で、管理職や幹部職員向けにこのような内容の研修講師を務め させていただいた経験が多くある。せめても、管理職や幹部職員には会社の財 務内容がきちんと伝わる努力をすべきだ。せめて損益計算書の縦の数字の理解 だけでも必要だと認識して、きちんとできるまで教育投資をするべきだ。 ・その前にするべきことがある。試算表や決算書の中味が、きちんとしている かを確認する。一般的に中小企業では多くの特異な事情で、おカネの処理が適 正に行われていないケースが多い。資金的に困窮している企業が多いので、役 員報酬の処理がおかしい企業も多い。社長への役員報酬をおカネが不足気味の ときは未払いにしたり、いったん払ったことにして戻してもらって前受金にし たり、苦労して辻褄を合わしていることは認めるが、実態が歪んでしまう。税 理士さんもこの正しくない処理を正そうとしないままに放置し、見て見ぬふり をしている。これが長期間継続すると、その企業の実態が全く分からなくな り、正しい姿が見えない。そうなると、従業員にも外部にも説明がつかない。 <個人の給料以外は公開する> ・すべてをつまびらかにすることは難しいだろうが、給与や報酬は非開示にし ても、あとの姿は正しく外部からも見えるようにしないといけない。売上から 始まって、原価、経費も各自の給与、賞与以外はすべて公表すべきだ。そし て、資産と負債、特に棚卸資産、金融機関からの借入金も詳らかにする。そし て、それを代表者が懇切丁寧に説明する。過去の数年間の推移を示し、今年は このようになったと正直に説明する。決して粉飾的な数字を言うことをしな い。現状をそのまま正しく伝える。そして、現状はコロナショックの影響でこ のような状態になっている。ゼロゼロ融資を借りても、なおかつ現状では毎月 資金収支はマイナス、つまり手許現金が減っていく。これ以上の資金の流出は 会社の存続に関わる。 ・このような説明がきちんとできるかがポイントだ。しかし、ほとんどの従業 員は決して納得はしない。納得できるような説得は難しい。しかし、納得でき ないとしても説明はとことん懇切丁寧にすることだ。一生懸命、うそ隠しなく 正直に会社の現状から説明し、どうして今回冬の賞与が出せないのかを説明し ないといけない。しかし、仮にこれだけの金額を賞与として出したらどうなる のかを理解してもらわないといけない。おそらく、3月くらいには現在の売上 のままだと、運転資金が底をつく。もう金融機関は運転資金の融資はしてくれ ない。これで、来年の10月からの借入の返済が始まると、もう持たない。残念 だが会社を閉じる決断をしないといけない。辛い悲しい選択だがやむを得な い。そうならないためには、今回の賞与の支給は見送るしかない。 ・経営者が恐れるのは、このようなマイナスの情報を公表すれば、従業員がば らばら辞めていくのではかと不安になることだ。特に、優秀で残って欲しい従 業員ほど、先を見て将来を悲観的に考えて、早く離職する。そうなると、余計 に業績の復活が遅れ、再生は絵に描いた餅になる。そうしないためにも、今回 の賞与の支給は本音としては見送りたい。しかし、従業員の退職も阻止した い。その狭間で気持ちは揺れ動く。本音は言いたいが、言えば不幸な結末が来 る可能性がある。こういう経営者の気持ちは、敏感に従業員に伝わる。想像以 上に従業員は経営者の背中をよく見ている。経営者の不安の気持ちはよくわか るが、その不安は直接的に従業員に伝播する。数字より、従業員は経営者の背 中から会社の経営状態を推測している。 <丁寧に説明する姿勢が大事> ・解決策はひとつしかない。つまり、一部の情報を除いてすべてをオープンに することだ。一部とは個々の給与や報酬の金額。個別のそれぞれの待遇だ。た だし、役員の報酬は公開した方がいい。代表取締役から役員の報酬は従業員に 公開したほうがいい。これくらいもらっているということをオープンにする。 そして、個別の給与以外の情報はすべて開示する。そうすれば、誰でも会社の 財務状態はわかる。理解の程度はまちまちだろうが、気にしない。個別の人件 費は、個別のデータは公開しないが、合計は公開する。それ以下の交通費から 始まり、接待交際費や営業に係る経費の合計金額も公表する。そして、個別の 費用の説明をする。慣れないとぴんとこない経費項目もあるからだ。 ・情報を公開しないと、そのために多くの労力を要することになる。数字を隠 すために、多くのムダな労力を必要とする。その時間とコストは全くのムダに なる。常に情報を公開していれば、何も隠したり操作する必要がない。代表者 の時間を割く必要もなければ、不要な時間をかける必要もない。最初は勇気が 要るだろうが、一度オープンにすれば、その後は非常に楽になる。もちろん、 公開した直後は多くの悩みが発生する。こんな数字を公開して問題はないだろ うかと心配になるが、ほとんどは杞憂に終わるだろう。そもそも、そういう悩 みは従業員を信頼していない、あるいは逆に信頼されていないと疑心暗鬼に なっているからだ。日頃から、従業員と密なコミュニケーションがとれていれ ば、そういう心配はないはずだ。 ・財務数字の公開は勇気が要るだろうが、対外的には金融機関にはすべて公表 しているはずだ。個人ごとの給料以外は全部公開し、きちんと定期的に自社の 経営状態を説明する。何も隠さず、正直に自社の経営状態を説明する。仮に賞 与を支給するにしても、合計の賞与原資がいくら確保できるかはそのときの経 営状態に依存する。ビジネスは、そのときどきの社会環境によって大きく左右 される。いいときもあれば、悪い時もあるだろう。ずっと連続的に売上が伸び て、利益もついてくるというのは非常に難しい。増収増益を続けるのは、至難 の業だ。特に、今回のようなパンデミックという想定外の事態は、誰もが予想 できなかった。しからば、それに素直に対応するしかない。いい機会だと割り 切って、自社のこれまでの経営スタイルを見直すことだ。結果は自ずとついて くると自分自身を信じることだ。