**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第930回配信分2022年02月21日発行 ロシアのウクライナ侵攻は地政学を理解する 〜日本人にはわからない地理的感覚〜 **************************************************** <はじめに> ・ここ3週間の両親の看取りと相続のテーマから、今週は大きく変わって緊張 するヨーロッパ情勢をコメントしようと思う。この時点でロシアがウクライナ に侵攻しているかは定かではないが、おそらく何らかの形での侵攻はあるだろ う。ここまでの10万人以上という兵力を国境に集めておいて、単なる脅しで終 わることはあり得ない。いくら、報復で経済がダメージを受けようが、そこで ロシアは天然ガスなどのエネルギー供給を絞るので、双方に相当の傷みがある ことを覚悟しないといけない。新聞やTVで盛んに言われているように、ロシア にすればNATO勢力、兵力がこれ以上東に延びることは到底容認できない。この 関係は、島国で東アジアの日本ではなかなかぴんと来ないのだ。地理的関係が 頭に入ってない。 ・TVのニュース解説などでロシアとウクライナ、ベラルーシ、そしてヨーロッ パ諸国の地理的関係がよくわかる地図が掲載されるが、これが現状の悩みと課 題を明白に示している。成岡はロシアと言う国には足を踏み入れた経験はな い。成岡の父は大学教授をしていて、当時ソ連のモスクワに1年間特別講義で 滞在していたことがある。滞在中の写真を見ても、冬場の寒さは半端ではな い。国土の大半が冬場は厳しい環境におかれるので、暖房などのエネルギー、 食糧、物流など、多くの障害が発生する。その点、地中海や黒海に面する南方 面の国は、気候が全く異なる。ロシア本土は、冬場の港は氷で凍結、氷結し、 船舶の出入りもままならない。鉄道や道路での輸送、物流は難しいので、港湾 からの物流は生命線だ。その出口、窓口がウクライナであり、クリミア半島な のだ。 ・NATOの勢力がウクライナで強まることはどうしても避けたい。もともとここ は旧ソ連領だったので、親ロシア派の勢力も多い。ロシアにしてみれば、南の 出口であるウクライナは絶対に支配下においておかないといけない喉仏なの だ。これを支配下においておかないと、一国の存続に関わる。どうも最近のウ クライナ政権は親NATO派になりつつあり、NATOに加盟するとまで言い出した。 これはどうしても阻止しないといけない喫緊の超重要な課題なのだ。このよう に一国の経済を左右する、国の存亡を握るのは地理的な要因が大きい。政治、 経済と地理的関係を研究する学問に「地政学」というのがある。その昔、日本 が太平洋戦争に突入したのも、日本に資源がなく、南の東南アジアから輸入す ることに依存していたのが大きい。 <ヨーロッパは地続き> ・その南からの物資の生命線を断たれたため、南の方に出て行かざるを得なく なった。そこで、ABCD包囲網(Aはアメリカ、Bは英国、Cは中国、Dはオラン ダ)を形成され止む無く戦うことになった。ことほど左様に、経済の存亡を 握っているキーワードは地理的要因に起因している場合が多い。この地理的関 係が島国日本人にはピンと来ない。欧州は地続きだから、国境はあるようでな いのと同じだ。山脈や大きな川で国境が自然に形成されていることが多い。 1978年から1979年にかけて、2年続けてヨーロッパへ3週間ほど長期に海外出 張したことがある。オランダのアムステルダムで開催された関係企業との国際 会議に研究発表で参加させていただいた。その際に見た欧州の風景は鮮烈だっ た。 ・当時はEUで統一される前のヨーロッパ。東ドイツと西ドイツは鉄のカーテン で仕切られ、東西の冷戦構造が支配していた。ソ連邦は多くの周辺国を共産党 の支配下において、NATO勢力と対峙していた。まず、成田からアンカレッジ経 由でロンドンのヒースロー空港に到着。当時の飛行機は航続距離が短く、途中 で給油が必要であり、直行便がなかった時代だ。ロンドンに2泊して、そこか ら会議のあるアムステルダムのスキポール空港へ。これらの空港のバカでかい 規模に度肝を抜かれたのを覚えている。なにせ、これが初めての海外だったか ら。そして、3日間の国際会議のあと、スイス、イタリアを短期間滞在し、ま たオランダに戻って田舎の工場を訪問。そしてベンツのハイヤーで西ドイツに 移動して、ここでも地方都市の工場と研究所に3泊した。 ・ヨーロッパでの移動で地方都市にある工場や研究所を訪問する際には、飛行 機の移動もあったが、ほとんどは車での移動だった。高速道路、つまりアウト バーンをベンツで時速200キロ近くの速度ですっ飛ばす車の運転手さんや、同 行の先方企業の担当者といろいろと会話をすると、島国日本でいままで海外と の接触のなかった自分が、いかに日本が安全でのんびりした国だと思い知らさ れた。彼らは常に意識としては戦闘状態なのだ。東西冷戦の真っ只中であり、 とても太平天国をむさぼっている状態ではない。緊張感がありありで、いつ、 何が起きてもおかしくない。特に、ハイヤーのドイツ人運転手さんと片言の英 語で話した第二次大戦の経験談は強烈だった。彼はもともとオランダの生まれ でナチスドイツが自国に侵攻した際の話しをしてくれた。 <東西冷戦のときは常在戦場> ・オランダと言う国には山がない。最高でも海抜200メートルの山しかない。 小高い丘のようなものだ。川はあるが、隣国と国境がないようなものだ。隣国 ポーランドにナチスドイツが侵攻し、占領して間もなく、国境付近にドイツ軍 の戦車が横に一列に並んで砂煙を上げて自国の領土に侵攻してきた。国境がな いのに等しいので、止めようがない。それは壮観だったようで、ひとたまりも ない。あっという間に国土はナチスドイツに蹂躙されることになった。その後 の経過は省略するが、いかに隣国と地続きで接していることのリスクが大きい かを語ってくれた。日本は海で囲まれ自然の国境がある。韓国も北朝鮮や中国 と国境を接している。インドと中国、イランとイラクもそうだ。 ・当時の移動でも国境の国道では検問所があり、車は止められパスポートの検 閲やトランクの荷物の検査は随時行われていた。それでも、多分に形式的なも ので、簡単なチェックで素通り状態だった。自由主義国家間の移動は簡単だっ たが、共産圏との国境移動は大変だった。国境には警備隊がいて、ライフル銃 で武装していた。その光景を見ただけでも脅威だった。日本で自衛隊の隊員が ライフル銃を持って国民の前に立つ光景などは見たことがない。当時、東西冷 戦ではあったが特に異常な緊張状態ではなかったと思うので、これが普通の日 常の景色かと思うと、ぞっとした。日本では水と安全はタダだと諸外国から揶 揄されていたが、それは事実だった。平和維持のコストは膨大なもので、日本 人には到底わからない。 ・当時のヨーロッパの移動で、一度ソ連のブレジネフ書記長が西ドイツを訪問 するタイミングに出くわしたことがある。主要な空港では最大限の警備が敷か れ、警備の兵士が同様に機関銃を持って大勢立っていた。また、アウトバーン を車で移動中に、ブレジネフ一行の移動に出くわし、我々の車を横一線に並ん だ数台の白バイが徐々に徐々に速度を落として最後は車の流れを停止させた。 空にはヘリコプターが飛んで、物々しい雰囲気の中反対車線をブレジネフ一行 の車列が通り過ぎるまで待たされた。ドイツのアウトバーンは3列の車線があ り、料金所がないからそのまま一般国道に降りるようになっている。3列の車 線は、最悪の場合アウトバーンから戦闘機が離着陸できるような設計になって いるのだと説明を受けた。 <平和ボケの日本> ・常在戦場ではないだろうが、常にヨーロッパは東西冷戦の真っただ中で、自 国の安心と安全に多くのコストを払っている。東西冷戦が雪解けで解消し、米 中の覇権争いが激しくなるなかで、ここ最近はロシアの存在感が薄かった。と ころが新たな東西冷戦が始まり、特にエネルギーや戦略物資において、大国間 での諍い、争いが絶えない。旧ソ連から分かれたウクライナがNATO勢力に入る のは国の安全保障上どうしても許せない。おそらく本気でロシアは侵攻してく るだろう。国境にあれだけ大勢の軍隊を派遣して、大規模な演習をやって、脅 かしだけで帰るとは思えない。経済制裁の代償を払っても、力で抑え込むとい う選択肢を取るだろう。それが大国の論理と言うものだ。のんびりした日本国 民には理解し難いだろうが。 ・我が国にとっては仮に小規模とはいえ戦争状態になったときに、どのような アクションが取れるかだ。BCPのように事業継続計画を有事の際にどうするか を決めておかないといけない。EU諸国は一斉に身構えるだろうから、コロナで 傷んだ経済や物流がさらに一層傷む可能性が高い。エネルギーコストは高止ま りするだろう。1973年のオイルショックのような大きな影響はないかもしれな いが、多くの部品や材料のサプライチェーンが切れる可能性がある。食料品、 電子部品の輸入などが縮小、減少する可能性がある。あるいは、ヨーロッパの 各所に点在する工場や事業所の稼働が停滞する。そうなった場合、自社の経営 状態にどのようなマイナスの影響が出るかをシュミレーションしておく。 ・繰り返すが日本は本当に平和だ。その平和に浸っている我々は、平和ボケし ている。海外でビジネスを行ったり、常駐している人は常にリスクと背中合わ せで生活していることを実感しているはずだ。陸続きというのは便利な反面、 非常に恐ろしい。京都府で言えば県境を接している滋賀県と異なる政治体制の 国と対峙しているようなものだ。県境を守るために多くのコストを負担してい る。今回のコロナは県境を軽々と突破して侵入してきた。水際で止めようもな かった。日本への他国からの侵入は、まず考えられないが、大陸で他国と地続 きの国同士は常に緊張を強いられている。この緊張感が理解できないと世界で 起こっていることを実感するのは難しい。常に地球儀を見ながら、いま起こっ ていることを理解する努力をしないといけない。そうしないと真実を見誤る。