**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第934回配信分2022年03月21日発行 ロシアのウクライナ侵攻の影響は大きい 〜自社の事業活動への影響を考えておく〜 **************************************************** <はじめに> ・ロシア経済の崩壊の兆しが徐々に明らかになりつつある。国債の利払いの償 還が迫っているが、これが払えない。利息はドルまたはユーロで払うことに なっているのだが、ロシア国内で外貨がないので、ロシアの通貨であるルーブ ルで払うそうだ。しかし、現在のウクライナ侵攻でルーブルの価値が圧倒的に 下落しているので、この提案は受け入れられないだろう。そうなるとどうなる のか。ロシア国債がデフォルトになると、さらに一層ルーブルの価値が下が り、物価は上がり、国内経済は大混乱に陥る。多くのエネルギーの供給を受け ているヨーロッパ諸国では、ロシアからのエネルギー、特に原油と天然ガスの 供給に赤信号が灯る可能性がある。事前にこれくらいの事態が起こるのではな いだろうかと、想定していなかったのだろうか。 ・どうも察するに、プーチン大統領の側近、取り巻きに経済に精通したスタッ フがいないのではないだろうか。いや、正確には以前にはいたけれど、現在は いないのだろう。経済のことが少々わかっていれば、今回のウクライナ侵攻で 経済に大きな打撃が及ぶという懸念が示されたはずだ。おそらく、それはウク ライナ侵攻を否定し、思いとどまるようにアドバイスすることになるから、大 統領としては排除したい。とにかく、ウクライナ侵攻ありきから出発している から、経済の混乱はネガティブなアドバイスになる。いやなことは聞きたくな いという、裸の王様状態になり、イエスマンの側近ばかりで脇を固めた。もっ と早くキエフ侵攻ができると思っていたのだろうが、それが誤算だった。この 誤算が大きく影響し、最終的には経済の崩壊につながるのだろう。 ・ロシア経済が崩壊したら、どのような影響が日本に、自社に及ぶかを慎重に 検討しておく必要がある。大半の中小企業では、当面直接関係ないという企業 が多いかと思うが、じわりじわり影響が出るだろう。まず、ビジネス的には大 企業に影響が直接ふりかかる。最近の報道では、製造業の大手がロシアビジネ スから撤退の意向を表明した。パナソニックはじめ大手家電、製造業の大手企 業はこぞってロシアビジネスからの撤退をするだろう。ロシア国内でのものづ くりと、自社の製品をロシア全土で販売していた多くの拠点を撤収する。その 企業にとってロシア国内での販売量がどれくらいの割合かが問題になる。ある いは、日本国内で製造しロシアに輸出していた企業への影響がどれくらいある か。数パーセントなら影響は軽微だろうが、10パーセント以上あると影響は大 きい。 <ウクライナ侵攻はマイナスの影響> ・大手家電や大手製造業、自動車関連産業で大企業に影響が及ぶと、時間をか けて間接的に中小企業に影響が及ぶのは必至だ。じわり、じわりマイナスの影 響が出始めるのが、5月の連休明け以降か。エネルギー価格が原油の値上がり と連動して上昇する影響は大きい。ガソリン価格の高騰にとどまらず、その他 の石油製品などに影響が及ぶ。原材料の値段が上がると、当然最終製品の価格 に影響が及ぶ。つい最近、石油製品の末端価格の値上げをしたばかりなので、 今回の影響を末端価格で吸収するのは難しいだろう。値上げは簡単にはできな いので、原材料価格の高騰を自社で吸収するしかない。そうなると、最終利益 に影響が出るのは必至で、コストの上昇と収益の低下に直接影響が出る。賃上 げのシーズンに突入するが、今年の賃上げにも大きな影響が出るだろう。 ・今回のロシアのウクライナ侵攻は、どう考えてもプラスの影響が出ることは 想定しにくい。圧倒的にマイナスの影響が及ぶ企業が多いはずだ。仮に何らか の妥協が成立し、停戦協定が結ばれても、ロシアが犯した代償として西側諸国 が厳しい制裁を課すだろう。またぞろ東西冷戦の再現になる可能性がある。コ ロナ禍から何とか脱出しようとする事業者にとって、このウクライナ紛争は弱 り目に祟り目、ふんだり蹴ったりだ。せっかく何とか業績を挽回しようと努力 しているのに、完全に水を差す。製造業からサービス業まで多くの大企業、中 堅企業、中小企業にまで影響が及ぶ。まずは大企業の業績に影を落とす。そし て、順番に中堅企業、中小企業、小規模事業者に影響が及ぶ。発注が減少した り、プロジェクトが止まったり、仕掛品の出荷の見通しが立たなくなったりす る。 ・この影響が長引けば、世界中でロシア離れが加速する。原材料をロシアから 輸入し、逆にロシアに製品を出荷して利益を稼いでいた企業にとっては、耐え 難い苦痛だ。しかし、現実は現実だ。恨み言を言っても仕方ない。誰が悪いと 犯人捜しをしても、何の対策にもならない。それより、自社の経営を維持する ために、いまできることはなにか、いまやるべきことは何かを早急に決めて実 行に移すことだ。賢い人ほど考えすぎて足が出ない。ここは考えるより、まず 行動だろう。代替品を探し、とりあえずの対策が考えられるか。あるいはこれ から半年の資金繰りを計算してみて、大丈夫であればいま拙速に動くのは見送 るか。いずれにしても、どうしよう、どうしようと、迷っていても、いつかは 決断しないといけない。それは経営者の務めだから。 <プーチン大統領が失脚の可能性も> ・どうも勘違いされている方が多い。経営者は決めることがミッションなの で、決めるための情報を集めたり、人に会ったり、現場を見に行ったり、多く の情報を自分自身で集めて決断できるような準備をしないといけない。重要と 思う情報は、人任せにせず自分で確かめる。現地に足を運び、現場を確認し、 現物を見る、触る。大事な人には、直接会って話しを聞く。間接的に聞くの と、自分自身が実際に直接面談して情報収集するのとでは、雲泥の差がある。 多くの時間はとれないから、取捨選択する眼力が必要だ。この眼力を養うのは 日ごろのトレーニングだ。常に、問題意識を持ち、課題を多く抱え、期限を 切ったプロジェクトを多く持っていると、見るもの、聞くもの、すべて参考に なる。少し時間があれば、書店に行って雑誌を立ち読みする。 ・今回のロシアのウクライナ侵攻に関しては、情報は結構溢れている。リアル タイムで現地の映像も見ることができる。ただ、ことが大きいだけに多くの不 確定要素がある。この不確定要素が多い段階では、先の出口が見えない。いわ ゆる、落としどころが見えない。収束した時点での状況がイメージできない。 そうなると、迂闊に動いて逆の意思決定をする可能性もある。その場合は、出 口のイメージが固まるまで大きな決断はしない。大きな分岐点は、この戦争の 結末でロシアの国内世論がプーチン擁護に固まるか、崩れるかだ。世論は正直 で、自分たちにプラスになれば評価するし、マイナスになるなら評価しない。 日常の生活はきれいごとではない。将来に不安の種を残す大統領は評価できな い。簡単に裏切って、首を挿げ替えようとするはずだ。 ・プーチン失脚となるとロシア国内は混乱する。ルーブル価値はさらに下が り、物価は上昇し、インフレになり、貿易赤字は拡大し、国民の生活は困窮し てくる。簡単な食材が手に入らなくなり、海外から供給される食材や日用品が 手に入りにくくなる。原油の輸出が止まり、外貨が底をつく。国債の利払いが できなくなり、デフォルトが発生したことになると、経済は大きな混乱にな る。当面、ロシアとの貿易、交易は不可能に近い状態になるだろう。いつ収ま るか見当がつかないので、当分ロシアとの取引関係は白紙にしたほうが賢明 だ。わずかな可能性にかけて、一縷の望みを託しても、自分自身の都合でもの が決まるわけではなく、大きな国際的な枠組みの中でものが決まるから、意思 決定はなかなかできないかもしれない。 <自社への影響を見極めておく> ・当分趨勢を見守ることになるだろうが、どこまで見極めたらいいか、難し い。あと1週間か10日くらいすれば、おおよその落としどころが見えてくるだ ろう。ウクライナとの停戦協議がどうなるかが最大のポイントだ。ロシアが強 硬で、なかなか譲歩する気配を見せない。アメリカとロシアとのののしり合い になっている。お互いに相手を侮辱し、悪口を言い合う。この状態が続く限り 出口は見えない。中国に寄り添ったりして、助けを求めようとする。中国もア メリカと喧嘩の最中なので、敵の敵は味方という格言に従えば、中国とロシア が裏で手を組むことは当然だ。そうなると、三角関係の東西冷戦の始まりと言 える。貿易の不均衡や資源の枯渇、エネルギーなど世界経済に与える影響は大 きい。この東西冷戦の始まりで、何が、どう変わるか。 ・まず、省エネルギー、ゼロカーボンが一層加速するだろう。エネルギー大国 ロシアが孤立し、世界の経済の枠組みから外れると、当然エネルギーが枯渇し てくるはずだ。そうなると、一層ゼロカーボンの動きが加速する。自動車のEV への流れが加速するはずだ。特に、戦場となったヨーロッパでのEVの動きが加 速する。太陽光発電、洋上発電などクリーンエネルギー関連の技術や設備など への投資が、さらに伸びるはずだ。石炭火力は今後も縮小の傾向になる。一番 迷走するのは原子力発電への投資だ。11年前の東京電力の大トラブルを見て、 ドイツのメルケル前首相は、はやばやと原子力からの脱出を宣言した。この流 れが加速するか、一部の国では原子力に回帰する動きもある。小型の原子力発 電にシフトする動きも見逃せない。 ・本当に迷惑な話だが、眼前で起こっていることに目を逸らすわけにはいかな い。見たくないものは見たくないが、目を逸らすことはできない。起こってい ることは真実であり、いずれ自社の経営に大きな影響を及ぼすことは必定だ。 それなら、今から準備をしておかないといけない。まだ、何がどうなるか定か ではないが、情報を集め、考えておくことはできるはずだ。ぼんやりしていて は、社会の動きに置いて行かれる。危機感を一層強め、コロナと戦争の両方の マイナス、プラスの影響を考える。この2年間くらいの社会の変化のスピード はすさまじい。過去にこれほどの大きな変化は経験したことがない。第三次世 界大戦の可能性も、まだ否定できない。第二次大戦は70年以上前の出来事だっ た。その100年に一度の大きな変化、変動が目前で起こっている。不都合な真 実だが、目を逸らさないことだ。