**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第948回配信分2022年06月27日発行 止まらない少子化の流れ 〜子育てにおカネがかかる!〜 **************************************************** <はじめに> ・来月の参議院選挙の争点のひとつにもなっている「少子化」問題。最近の新 聞報道によると、2021年に生まれた赤ちゃんの数は、81万1,604人で、6年連 続で過去最少を記録した。2030年ごろには出生数が70万人台になるだろうとの 推計がされていたが、相当早いピッチで70万人台に迫ると思われる。出産世代 の人口減少、晩婚化、結婚しても子供を産まない夫婦の増加などが原因と言わ れている。しかし、もっと深刻なのは若い世代が、経済的な不安感が強く、結 婚、出産に踏み出せないことが、その背景にある。確かに、成岡の周辺を見て も、男性、女性問わず30歳になっても結婚しない一人暮らしの若者が多い。家 内の友人たちが集まって女子会を2か月に1回しているが、その女性友達の子 供さんもちょうど30歳前後が多い。そのほとんどが独身だ。 ・つい先日も、某飲食店でその会合があったのだが、4人の母親と一緒に3人 の娘さんが一緒に食事をした。もう一人の女性はもう還暦を超えたが独身で未 婚だ。また息子さんがいる女性も2名いたが、それぞれ息子さんは30歳を超え て独身だ。みんな仕事には就いているが、それぞれの事情があり、結婚運に恵 まれていない。仕事が面白い人もいれば、数回転職して給料が安く、一人なら 生活できるが結婚となると悩んでいる人もいる。住まいのこと、生活のこと、 子供ができたあとの教育環境のことなど、悩みだしたらきりがない。それと、 30年前に比較して、生活環境が大きく変わった。いま、スーパーもコンビニも ある。NETで注文すれば、好きな時間帯に足元まで配達してくれる。食事も全 然困らない。車もなくても生活に不自由は感じない。結婚して、関係者が増え ると、憂鬱な人間関係が増える。 ・この先、給料がどうなるか予測が立たない。まして、65歳以上になって年金 がどうなるのか、皆目わからない。かといって、組織から離れて自分でビジネ スを起こしたり、起業したりするくらいの資金も勇気もない。現状に甘んじ て、どうなるか分からない未来に向かってビジョンが持てるかといえば、これ は相当難しい。自分一人ならなんとか生活できても、いざ結婚するとなると責 任も伴う。悩みながら生活しているうちに、気が付けば30歳を超えてしまっ た。周囲にいる友人たちも、半分は結婚したが、半分はのんきに独身でいる。 独身の間は、実家で暮らせれば家賃は要らないし、食事もそう困らない。親元 にパラサイトでいるのも悪くない。給料はほとんど自分の自由に使える可処分 所得なのだ。それほど結婚に対しての願望や憧れもない。 <子育てにおカネがかかる> ・国の人口動態統計によると、第二次ベビーブームの1973年(昭和48年)の出 生数は209万1,983人。それ以降は、毎年減少傾向が続き、初めて90万人を下 回った2019年は86万人ショックと言われた。2020年、2021年は、前年より2万 人以上も減っている。2021年の出生数は、コロナ禍の影響もあったと言われて いるが、このまま少子化が進めば生産労働人口の減少や、社会保障の担い手が どんどん減っていく。当然、国自体の活力が削がれ、経済活動のポテンシャル もどんどん下がる。何が、その原因なのだろうか。国立社会保障人口問題研究 所が2015年に実施した「妻が30歳〜34歳の夫婦」に尋ねたところ、80%の人が 「子育てや教育におカネがかかり過ぎる」ことを挙げている。経済的な理由な のだ。 ・この2年半、コロナ禍で厳しい雇用情勢が続いた。一部の好調な製造業を除 き、成岡の周辺では軒並み業績を落とし、従業員を休ませ、雇用調整助成金で なんとか食いつないでいる企業が多い。廃業された企業もあれば、この6月に 不幸にも破産に追い込まれた事業者もある。何とか引継ぎを試みたが、残念な がら事業を清算せざるを得なかった。特に、サービス業においてこの傾向が顕 著で、観光で食べていた京都経済の脆弱性が露呈した。その企業に雇用されて いた従業員の一部は、自主的に退職した。多少雇用環境が改善したとはいえ、 依然として企業の経営状態は厳しい。そんな雇用情勢だから、独身従業員が結 婚したり、出産したりという気持ちにならない、なれないのも理解できる。こ のコロナ禍が一層少子化に拍車をかけたことになってしまった。 ・核家族化になり、子供たちは独立して実家を離れ、卒業した都道府県で就職 を選択する傾向も強い。地方の高校を出て、都会の大学を卒業すると、そのま ま都会の企業に就職する。配属がたまたま地方というケースもあるが、どうし ても都市部に人口が集中する。そして、このコロナの影響もあり、男女の出会 いが制限され、婚活の機会も少ない。大学も閉鎖され、授業やサークル活動で 他人と接触する機会が激減した。就職しても飲み会もない。同期の連中数名 で、居酒屋でぼやくくらいしかできない。以前なら、先輩や上司、職場の仲 間、大学のサークル卒業生など、多くの集まりがあった。それが現在では、 Zoomでのオンライン飲み会であり、画面上の付き合いしかできない。実際に 会って、人と人の付き合いを続けることが難しい。そんな時代環境になってし まった。 <転職すると給料が下がる> ・結婚して、子育てにおカネがかかるのは事実だ。オギャーと生まれて、その 子が順調に22歳でとりあえず大学を出るまで、いったいいくら費用がかかるの か。幼少期から習い事をさせ、小学校の高学年から塾に通わせ、中学高校、大 学と進学すると、相当の学費がかかる。中学高校の間は、クラブ活動もあれば 塾に通わせ、習い事もあるだろう。まして、大学を都会の私学に下宿させてい かせるとなると、びっくりするくらいの費用が毎月かかる。私学の学費はもち ろん高いだろうが、昨今国立大学の学費も相当なものだ。我々世代が大学に 行っていた昭和40年代の後半とは、わけが違う。大学も4年で卒業する場合も あれば、専門的な学科なら6年制もあるし、大学院に行くとあと2年間はかか る。奨学金という制度もあるが、卒業時点で多くの借金を背負っての就職にな る。非常に厳しい。 ・ひとつには、日本全体の給料が安いのか。企業は固定費を上げたくなかった から、人件費の抑制に努めてきた。高度経済成長が終わり、バブル経済が崩壊 してから、極端に人件費の抑制に走った。損益分岐点は下がり、労働分配率も 低下している。日本国民は物価が上がること、コストが上がること、費用が増 加することを、極端に嫌う。安いことはいいことなので、徹底的にコスト削減 を優先する。人件費もコストなので、人に投資をするという考えが希薄だっ た。人件費を減らすため、非正規の労働力をバッファーにして、繁閑の調整弁 にした。正規社員の雇用を抑制し、足りない分を非正規の労働力でカバーし た。そういう状態が20年以上続いたので、当然国力は削がれる方向にベクトル が働いた。経済的に厳しい環境に置かれたので、給与のアップに手が回らな かった。 ・日本では転職をすると給料が下がる方向になるケースが多い。 成岡の知己 の女性の息子さんが今回30歳で転職することになった。大学を卒業し、某大手 企業に勤めていたが、人間関係に嫌気がさし、半年前から転職の準備をしてい た。やっと東京の大手企業に転職先が見つかり、この10月から転職するとい う。しかし、現在の待遇に比較して2割ほど給料が下がったという。どうして も現在のキャリアの評価が高くならないという。営業職なので、マーケティン グ感覚はあるのだろうが、特に目立つ資格もない。実績はあるのだが、それは あくまでも現在の企業での実績。同業ではあるが、違う企業での比較がしにく いので、まずは少し低めの待遇から始まるという。これで、また数年間結婚が 延びたと、知己の女性は母親として孫の顔を見ることができるのがまた延びた とぼやいていた。 <日本の未来に若いカップルが希望を持てるように> ・東京では住宅環境も厳しいようだ。山手線の中はとんでもなく高く、どうし ても郊外に出ざるを得ない。成岡も20年前だが、都心に何回も単身赴任してい たので、東京の住宅事情はよく分かる。都心のオフィスまで60分圏内なら、非 常に便利だと言われる。家賃のことを考慮するなら、どうしてもアクセスの悪 い立地環境を選ぶことにある。そうなると、保育園、幼稚園、買い物、医療機 関など、生活面での不便さを甘んじて受け入れないといけない。これが独身な らまだ許されても、結婚してとなると非常に厳しい環境になる。また、数年以 内に子供ができた生活を想像すると、もうあり得ないという結論になるらし い。ダブルインカムで、夫と妻が働いて、少しは便利なところに住めてそれな りの生活レベルが維持できる。それが、子供ができると途端に生活面で窮屈に なる。 ・住宅事情は京都では少しはましだろうが、都会ではあまり大きな違いはな い。いまは実家の両親から離れたところで暮らすことが多いので、どうしても 子供ができると昔のように実家のお母さんが子育てにサポートに入ることが難 しい。また、年齢的にお母さんも働いていることが多い。そうなると、若い奥 さんが子育てで孤立してしまい、昨今だからスマホでの情報に依存することに なる。情報は氾濫しており、何が正解で何が間違いか分からない。都会の生活 だと、そう簡単に気心のしれたママ友がすぐにできるものでもない。どうして もネットの画面上のつながりになり、そう簡単に不安が解消できるものでもな い。そう考えると、子育ての環境を整備するのは、ハード面もさることながら ソフト面のサポートも非常に重要だ。 ・京都府は西脇知事の政策の柱のひとつに「子育て環境日本一」というのがあ る。京都府内のどこでも、安心して子育てができる環境を整備することは容易 ではない。また、京都府は出生率が相対的に他府県と比較して低い。少子化に 歯止めをかけ、少しでも出生率が上がるには、まず結婚しようという意識が高 まること、次に子育てに頑張ろうと思えること。この2つが大事だろう。とな ると、大袈裟に言えば日本の未来に若いカップルが希望を持てるかだ。暗いイ メージしかないと、結婚、子育てにどうしても意識が向かない。今日の、明日 の生活だけで精一杯なら、将来、未来に明るいイメージが持てない。会社経営 も同じだが、3年後、5年後の自社のビジョンが示せないと若者はついてこな い。コロナで痛み、円安でダメージを受けている現状では、明るい未来は見通 せない。未来のビジョンを示すことが、現在の最重要課題だ。