**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第951回配信分2022年07月18日発行 第7波を乗り越える 〜ここからが正念場、経営者の覚悟〜 **************************************************** <はじめに> ・夏の暑い戦い、参議院選挙が終わった。終盤の最後になって、安倍元総理の 銃撃死亡事件があり、想定外の事態になったが、結果は想定内で自民党の圧勝 に終わった。ここで政治の話しはしないことにしているので、結果に対する個 別の論評はしないこととする。しかし、多くの国民は大きく変わる選択肢は採 用しなかった。コロナや物価高に不満はあるものの、対抗馬たる野党の主張も バラバラであり、どれも一長一短だった。幾分、安倍元総理の死去が自民党に 追い風になったことは否定できないだろう。しかし、それを割り引いても野党 が対抗勢力になり得ないという意思表示は明確だった。寄ってたかっても、束 になってかかっても、これではどうにもならない。野党の現職が敗れた岩手県 や、新潟県での結果を見ても、そのことが見て取れる。 ・健全な批判勢力、対抗勢力というのは、ある意味非常に貴重な存在だ。過去 をひもとくと、歴代首相で自分に批判的な人材を官房長官に抜擢した事例がい くつかある。首相と官房長官は表裏一体だが、なにもおべんちゃらのイエスマ ンを充てることはない。ことはないが、歴代の首相は、こぞって自分の意のま まになる人材を官房長官に充ててきた。しかし、その逆を行った首相もある。 記憶の範囲では、中曽根康弘氏。彼は、官房長官に宿敵の後藤田氏を敢えて任 命して、内閣の要に就任させた。意外や意外の人事だったが、自分に対する戒 め、牽制のための人事だったのだろう。歴代の首相の中で、首相らしい首相は この人が最後ではないか。国鉄の分割民営化など、多くの改革を真にやった首 相だった。 ・会社経営で、ナンバーツーに諫言を進んで社長に言える人を置くのは非常に 難しい。政治は多くの異なる意見があってもいいが、会社経営は企業そのもの を一定の方向にビジョンを示して、導かないといけない。そこに、社長に批判 的な勢力がいると、どうしても運営が円滑にいかない。過去に社外役員として 経営に関わった多くの企業で、辛辣な意見を具申しても、なかなか真剣に取り 上げてくれないことが多かった。正論は正論で、しかしお家の事情がある。創 業者としての想いもある。一族同族の言えない争いごともある。親子の確執も あれば、兄弟で反目している企業もある。それまでは調子が良くても、いった ん業績が悪化しだすと、途端にぎくしゃくする企業は多い。カネの切れ目が同 族間の縁の切れ目になった企業も多かった。売上は七難隠すという。 <一時しのぎでは乗り越えられない> ・政治の世界でいえば、健全な批判勢力、対抗勢力の存在が不可欠だ。与党が 多数を占めるのはいいが、ときに健全な対抗勢力が待ったをかけないといけな い場合がある。企業で言えば、代表者が暴走し、勝手に会社の経営を今までと 異なる方向に曲げてしまうというケースがある。代表者を支える取締役の大き な役割は、代表者の暴走をセーブすることが大きく、取締役会はそのためにあ る。そういう意味では、規模の大小に関係なく、定款で取締役会を設置しない 一人取締役の会社も多い。そうなると、代表者がそのまま一人取締役になり、 意思決定は代表者の意のままになり、牽制も効かない。暴走を抑えるという本 来の目的は全く意味がなさなくなる。企業としての重たさがない。 ・以前関わった企業でも、同様のことが起こった。それまで、取締役会設置会 社で監査役も置いていた。ところが、業績の悪化が止まらず、金融機関から多 くの指摘を受けるようになり、最後は借入金の返済が約定通りできなくなり、 不良債権化した。金融機関は債権者になり、バンクミーティングで都度代表者 に厳しい条件を突き付ける事態となった。取締役会も機能しなくなり、その時 点で代表者が定款を変更し、取締役会設置会社を止めて一人取締役の会社に変 えてしまった。まだ、債権者である金融機関とコベナンツ(経営上のガバナン スの取り決め)を結んでいなかったので、定款の変更はそのまま認められ、法 務局に書類が提出された。あっという間に、ガバナンスが効かない独善的な企 業になってしまった。 ・こうなると、ある意味末期的な症状を呈し、当然業績の悪化に歯止めがかか らない。現在も、業績は低迷し、このコロナでさらに追い打ちをかけられ、ゼ ロゼロ融資の効果もほとんどなく、出口の見えない状態が続いている。この企 業も、他の多くの中小企業と同様に2023年の4月からゼロゼロ融資の返済が始 まる。とても現状では返済ができるような状態ではなく、おそらく返済開始の 延長を申し入れるだろう。そこで金融機関や保証協会がどのような態度に出る かは不透明だが、返済開始を強硬に主張すると、一時流行った「貸しはがし」 というキーワードに合致する。おそらく公式には表明しにくいが、何らかの形 の緩和方策がとられるだろう。しかし、それはあくまでも一時しのぎだ。根本 的な解決には到底結びつかない。 <体制を整備する> ・政治の世界では与党が圧勝したが、積極的に支持されたかというと必ずしも そうではないだろう。消去法で代わりになる対抗勢力たる野党のだらしなさも 原因だ。いみじくも、選挙が終わって最大野党の党首が同じ意味のコメントを 発した。批判的な意見の受け皿になり得なかったという反省の弁を述べていた が、まさにその通りだろう。野党がまとまらず、二大政党制ともなり得ず、個 別の案件で離合集散を繰り返すので、我々からみればどうも頼りない、しっか りしない。いまの強大な権力を維持している与党にとって代わるなら、相当の ポテンシャルがないと難しい。10年以上前に、一度政権交代が起こり自民党は 下野したが、そのとき運悪く東日本大震災が起こり対応に失敗した。そこから 崩壊が始まり、結局また元の木阿弥に戻ってしまった。 ・企業ではこういうことはほとんど起こり得ない。代表者の迷走から経営の失 敗、失策が仮に続いたとしても、すぐに選挙で交代という図式はあり得ない。 中小企業は株式の所有者と経営者が一体であることが多い。所有と経営が同じ 人なので、内部から牽制がかかることはほとんどない。また、経営陣が同族一 族で固められていることが多い。登記簿謄本の役員名簿に同じ苗字の一族の方 がずらっと並んでいる。後継者が直系の長男の方であれば、なおさら外部の他 人を役員に入れておくことは大事だ。社外取締役でもいいし、常勤の役員でも いい。あるいは、非常勤で週に数日でもいい。とにかく、意思決定のメンバー の中に同族一族以外、お仲間以外のメンバーを加えておくことは大事だ。第一 次安倍政権も、官房長官に気心の知れたお友達を起用して、失敗した。 ・成岡も数社の社外取締役に就いているが、それぞれの企業は緊密に情報提供 をしてくれる。また、月に数回ある重要な会議にも参加している。2週間くら い間が空くと、その間に起こっている出来事を子細に把握することは難しい が、それでもおおよそ社内、社外で起こっている重要な事案は理解できる。会 議に出される資料も、ほぼ完ぺきだ。社長自らが、当日朝早く来て準備する会 社もある。会議開始の定刻には、全員がきちんとそろい、机の前には資料がき ちんとプリントアウトされて置いてある。それも2、3枚ならわかるが、相当 な枚数の資料だし、当日の朝に数字を更新した最新の資料が揃っている。ここ までされると、こちらも俄然やる気を出して、相応のアウトプットをしないと いけないと力が入る。こうでないといけない。 <出口に向けて改革を断行する> ・安倍元首相が銃弾に倒れ、逝去した現実は今後の政権の混乱を予想させる。 憲法改正はじめ多くの重要課題が山積しているが、安全運転に終始していた岸 田政権が果たして順風満帆に行くかは不透明だ。新しい資本主義というよく分 からないキーワードも、いつの間にか資産を増やすという方向に変遷した。庶 民は、もっとぴんと来ないだろう。ひとつ大きなわかりやすいテーマを争点に すると、政治への目が向く。古くは、池田総理の所得倍増。小泉政権の郵政民 営化などが、それだ。さしずめ、昨今ならアフターコロナの経済復興か。第7 波が始まり、周囲の多くの職場で感染者が見つかっている。現在でも、いった ん感染すると待機期間は10日間必要だ。この10日間は、いかがなこと長すぎな いか。もっと短くてもいいのではないか。 ・第2類の分類も、暫定的な条件を付けて緩和すればいい。日本は法治国家な ので、頑なに法律を守ることをよしとするが、状況に応じて臨機応変に変える ことも厭わない国民性にならないといけない。今後、人口減少が激しくなり諸 外国の労働者を受け入れることが増えるなら、なおさらそうだ。多様性を尊重 するなら、がちがちの法治国家より多様性を受け入れる懐の深さが要求され る。まさに、今回のコロナウィルスの扱いを第5類に変えるなどは、その典型 的なできごとだ。経済の復興と安心安全の担保を両立するのは非常に難しい課 題だが、どの企業もトレードオフの経営環境をいかにして乗り越えるかという 命題に腐心している。企業が努力することと同様に、霞が関、永田町も汗をか くべきではないか。 ・一向に出口の見えないウクライナ戦争。感染が収まったかと思えば、また起 こりつつある第7波の感染者数の増加。天井知らずの円安傾向。そして、給料 が上がらない中での物価の高騰。庶民生活は、かなり疲弊感が強い。電気代も 上がり、ガソリン代は高止まりしている。これを政治の力で乗り切れるのだろ うか。後ろ盾にしていた安倍晋三氏の不慮の死が、どこまでマイナスの作用を 及ぼすかわからない。一説によると、さらに自民党政権は迷走するだろうとい う識者の見解もある。今後3年間、大きな選挙がないとすれば、政治の不作為 がさらに増長する可能性も否定できない。それでも、中小企業は生き残らない といけない。歯を食いしばってでも、何をなんとしても、従業員の生活の責任 を負っているのは経営者自身なのだ。ここが正念場だ。開き直るのか、改革を 断行するのか。決断が求められる。