**************************************************** ・・・・・経営の現場から・・・・・ 【成岡マネジメントレター】(毎週月曜日発行) 第953回配信分2022年08月01日発行 間違ったらすぐに訂正する 〜中小企業経営者の面子が傷口を拡げる〜 **************************************************** <はじめに> ・ようやく今年の梅雨が明けて本当の夏が来たようだ。ご存じのように今年は 6月末に前代未聞の梅雨明け宣言が行われた。なんと日本全国、東北地方を除 いて梅雨明け宣言が出てしまった。出てしまってから、例年通り7月の中旬ま で前線が停滞し、京都では19日の火曜日に京都市内で1時間に100ミリ近くの 豪雨があった。つまり、まだ梅雨明けはしていなかったのだろう。6月末から 1週間くらいは、確かに梅雨明けしたかと思えるくらい猛暑になった。寝てい る間もクーラーを緩くかけないと寝苦しいくらいの猛暑だった。日中の日照り が強すぎて、夜間になっても気温が下がらず熱帯夜が数日続いた。確かに、一 時は感覚的に梅雨明けしたかと思えるくらいの夏の太陽が燦燦と照りつけた。 気象庁もフライング気味に梅雨明け宣言をしてしまった。 ・いったん明けた梅雨を、もう一度再開したと訂正するのは難しいのだろう。 7月中旬の天気は、まさに梅雨の真っただ中の天気だった。「戻り梅雨」と か、「第二梅雨」という妙な表現が適切ではないかと思えるくらい、梅雨がど こからか戻ってきた。しかし、いったん開けた梅雨がまた戻ったとは言いにく いのか、気象庁は頑固に梅雨が戻ったとは言わなかった。TVのお天気キャス ターが苦心惨憺して、毎日の天気を解説しているのには、同情を禁じ得なかっ た。梅雨前線はいったん消滅したので、梅雨前線らしきとか、梅雨前線もどき とか、面白い表現で何とかお茶を濁すしかなかった。これほどまでに、大空振 りした天気予報もないだろう。梅雨明け宣言は、痛恨の極みだっただろう。人 間、どこにでも間違いはある。 ・今週のテーマの主眼は、一度言ったことをひっくり返すには勇気が要るとい うこと。面子もあるし、立場もある。平社員が間違いましたは、まだ通用する が、ポジションが上に行くほど修正が難しくなる。特に、中小企業の社長が発 した号令が、舌の根も乾かないうちに前言を撤回するなどの失態があると、権 威に傷がつくから簡単に訂正しない。違っていました、間違いましたと素直に 修正すればいいのに、面子を重んじ立場を斟酌するから、どうしても結論が捻 じ曲がる。中小企業は、朝令暮改は専売特許だから、遠慮なく朝令暮改すれば いい。大事なことは、きちんと説明をすることだ。なぜ、急に変更になったの か、心変わりしたのか、間違ったのかを、きちんと説明すればいい。この、丁 寧できちんとした筋の通った説明を回避するから、ことはややこしくなる。 <月刊誌の失敗を経験> ・これが社内、身内ならまだしも、社外に向けて間違いました、修正しますを 大々的に言わないといけないとなると、ことは相当やっかいだ。成岡の経験で は、一番いやな思いをしたのは責任者として担当した月刊誌を短期間で廃刊に したときだ。義兄の代表者が海外で見つけてきた雑誌を日本で発行すべく、版 権(出版する権利)を契約してしまった。ドイツのフランクフルトで開催の年 に1回ある大規模イベントBookFair(世界的な書籍出版の見本市)で契約をし てしまった。してしまったという表現が正しいと思うが、とにかく2週間の滞 在から帰国した際に、日本でその雑誌を出版する権利を契約し、土産として持 ち帰った。また、それに伴いアドバンス(契約金の前払い)も承諾した。それ も、半端な金額ではない。ワンマン企業に近いので、特に役員会にかけて審議 検討して決定したのではない。 ・しかし、ドラマの幕は切って落とされた。いかにして、日本での事業として 成功さすかは、受け取った我々に委ねられた。民主主義で、会議をして、合意 を得て、そこから契約条件を検討し、交渉するという、通常のプロセスはどこ かに飛んでしまっていた。結論は、もう出ていた。あとは、やるしかなかっ た。しかし、見本誌を渡され、いろいろと調べていくうちに、これは大変なこ とだと多くのことが分かってきた。例えば、ヨーロッパで評判をとった雑誌で も、海外の違う国で市場に出すとすると、多くの箇所をその国仕様に変更する 必要がある。細かい表現や写真の注釈でも、多くの修正加筆が必要となる。し かし、ヨーロッパの版元(雑誌の出版社)と交渉しても、なかなか譲らない。 彼らは彼らの常識と物差しがある。簡単に修正変更には応じられないと主張し てきた。 ・仕方なく、折衷案的な、曖昧模糊とした修正にとどめて、何とか発売日に間 に合わした。全国発売の月刊誌の創刊号というのは、その会社が一番力を入れ るところだ。創刊号の出来不出来で、今後の売れ行きが決まると言っても過言 ではない。創刊号は全国発売の3か月ほど前には最低ページ数の見本版を作 る。そして、その見本版で広告用の写真を撮影し、チラシやパンフレットを作 成する。そして、3か月後の全国一斉発売に備える。しかし、そのプロジェク トは残念ながら、数号出版しただけで売れ行き不振で廃刊にした。非常に不細 工な話しだが、雑誌のティストが日本の読者に完全に合わなかった。正直、全 国発売の前にペナルティを払って止めようかと真剣に考えた。しかし、ことは もう、手の届かないところに行ってしまっていた。バックはできなかった。 <早めに決断して正解> ・数号出版して、今後の見通しを聞かれ、中止の決定をした。それまでの投資 金額も半端ではなかった。役員会も針の筵で、居心地が極めて悪かった。弁解 しても言い訳にしかならないので、敗軍の将は一切兵を語らなかった。この決 定は、速やかに関係先、関連先に伝えて後始末バージョンに入らないといけな かった。これも辛い話しで、プロジェクトで編成した編集チームを解散さす必 要があった。テナントビルのワンフロアーを借りて立ち上げた編集チームを解 散し、賃借契約を途中解約し、多くのペナルティを払った。しかし、金銭的な ダメージもさることながら、対外的な信用をなくしたのが、一番大きな痛手 だった。自分自身のことはさておき、会社の信用が棄損したのは非常に辛かっ た。もっと早く事前に中止の決定を下せばよかった。後の祭りだった。 ・朝令暮改は決して悪くない。一度決めたことでも、事情や環境が変われば、 当然結論も変わってくる。特に昨今の社会環境、社会情勢では、その時点で正 しいと思った判断も、少し時間が経過すれば異なった判断に行きつく場合もあ る。それくらい、最近の経済情勢は変化が激しい。少し前は、円高になり1ド ル80円くらいで推移していた。製造業はこぞって海外に製造拠点を移した。中 国、ベトナム、インドネシア、などなど。ところが、最近は130円では済まな い円安になっている。製造拠点を移した企業も、どうしたものかと考え始め た。これくらい極端な円安傾向が、いつまで続くか見通しが難しい。コロナの 影響もあるだろう、ウクライナ情勢も影響しているに違いない。これらの外的 要因がいつくらいにどうなるのか、予測が難しい。自分自身で判断するしかな い。 ・月刊誌の休刊は断腸の思いだったが、早めに決断したので、傷口は最小で済 んだ。まだ、その時点では業績もリカバーできたので、何とか他の事業で開い た傷口をふさぐことができた。これがカバーできないくらい大きな穴になった りすると、会社の屋台骨を揺るがす大事件になる。つまり、複数の異なる市場 での事業で経営を成り立たせておかないと、一本足打法では非常にリスクが高 い。そのため、多くの中小企業でも新事業に手を出すが、そう簡単に収益事業 に育つわけではない。おおよその感覚だが、10個の新しい事業を始めたとする と、成功するのは2つあればいいほうか。いや、もっと確率は低いかもしれな い。大事なことは、成功しなかった8つの新しい事業の、撤退の仕方だろう。 これを間違うから、大変なことになる。 <固執することが致命的> ・古くは「見切り千両」という表現がある。早めに撤退することは、千両の得 になるとの解釈をしていたが、どうもそれは違ったようだ。正しくは株式の世 界の用語で、含み損を抱えている株式を損失の少ないうちに見切りをつけるこ とは、千両の値打ちがあり、ある程度の損失で売買することには万両の価値が あるというのが正しい。しかし、以前から早めの撤退が損失を最小限にすると 思っていたので、間違ってはいなかった。世間体や面子にこだわり、社長が始 めた事業や新商品だからといって、なかなか止められないことが世間では、五 万とある。先代経営者が始めた多くの事業が、ほとんど赤字のまま継続されて いて、次の経営者になり、その後始末に追われたという経験をした方も多いだ ろう。大企業でも、そんな事例は山ほどある。 ・どうして、そうなるのか。まず、経営者の慢心がある。成功体験が頭から離 れない。経営環境が変わったにも関わらず、同じパターンの判断基準を変えな いので、間違った判断をしてしまう。次に、現場の情報を素直に聞かない。自 分にとって都合の悪いことは、聞きたくない。部下が現場で起こっていること を、素直に報告しているのに、自分が勝手に理屈をつけて事実を歪曲する。数 字は正直に現実を示しているのに、間違っていると言い張って聞かない。現場 に行かずに、デスクに張り付いて、事実を事実として見ていない。多くの理由 があるだろうが、つまりは周囲からの率直な意見やアドバイスを聞かないし、 聞きたくない。自分にとってマイナスの結論に至りたくない。そして、さらに 間違った方向にそのまま行ってしまう。 ・少し立ち止まったり、頭を冷やしたり、別の角度から見たり。やることは、 いろいろとあるはずだが、思考回路が迷路にはまって、抜け出せない。そのう ちに、感情が先走り、理屈がどこかに飛んで行って、合理的に冷静にジャッジ できなくなり、しばらくして刀折れ、矢が尽き、敗軍の将兵を語るとなる。特 に、高齢の経営者になると、頭が固くなるのか、頑なに自分の意見を曲げな い。こちらのアドバイスも、すべて正しいとは言わないが、そういう判断基準 もあるのかと、少し下がって見てみれば、また違う景色が見えるのだが。実 に、他人のことは客観的に見えても、自分の足元は見えないものだと痛感す る。不都合な真実を、素直に受け止める謙虚な姿勢が大事だろう。そうすれ ば、多くの情報が集まるようになる。まず、心持を素直にすることだ。稲盛さ んではないが、私心があってはいけない。大きな間違いのもとになる。